第11話 怪奇の裏側
沢を探して見つけたものの、狭くて小さくて水が汲めなかった。
諦めて帰ろうとしたら既に帰る方向が解らなかった。
本土って広いね、適当に降りたら中腹どころか麓についてしまった。
しかも通ってきた廃村が見当たらねぇ…I'm lost
月明かりも遮られる真っ暗な山道をもう一度登る…さっきの沢すらねぇ
迷子になったら動かないほうがいいらしい、のろしだっけ?マッチも火起こし道具も無い…フッ
泣きそうだ!
山の木の切れ目、月明かりが照らす岩肌が出てるところに座った。
眺めがいいね、見渡す山々…こんなところ来る時に絶対に通ってないよ
「もう駄目だ…遭難ってやつだよな…フゥー
コーキィィ!おじーちゃーん!……ちゃーん…ちゃーん(※コダマ)
バァカ前鬼!いつも組手が痛いんだよ手加減しろ!冗談がクソつまんないんだよ!あと、料理クソ不味い!風呂が熱すぎるんだよ!バァカ馬鹿阿呆前鬼!……ハァ」
何でこうなったのかな…沢を探してただけなのに。
「うえぇーん…ふぅぇぇーん、びぇぇぇん
コーキィ!帰りたぁい、コーキィィ……帰りたいよぅ…ウゥゥ……」
ガサガサッ バキッ ガザッ
ギクッ!
何かが近づく音がする…咄嗟に構えるが
あっ、岩肌の先は谷になってる!
今更だけど、見つけて下さいって場所にいたから敵に見つかったのか!
チッ…俺は関係ないじゃん!蟷螂さん達のなんか昔の仲悪い知り合い。
もう、大人しく捕まって人里まで案内してもらおうかなぁ
とか思ってたのに、出てきたのは黒くてデカい熊だった。チラッと見えた2つの光
ぴょーんと谷のほうに向かって飛び降りた
ズシャッゴロッゴロッと転がってなんとか着地
自分がいた場所を見上げると、ひょこっと岩から見下ろすでかくて黒い影と2つの光
ギョッ!ロックオンされてるじゃん
急いで立ち上がり力の限り全力疾走する
なんだよ!めちゃくちゃデカかった!本土の熊ってあんなに大きいの?猪の3倍?5倍はある!
(※島には野生の熊はいない)
バキバキバキッ
後ろの方で追いかけてくる音が聞こえる
気配で解る、勝てる相手ではないと
蠍がやるように、お猿さんみたいに上手には出来ない。だけど、見様見真似で木から木に飛び移る。
勢い付けて枝にぶら下がって一回転して反動で上の枝に飛ぶ、手が届いてクルンと回ってまた飛ぶ!
月明かりも遮られる木々の深い 暗い山を走った。
フッと木の無いところに出てしまった
後ろを振り向くとガサガサッバキバキバキッと聞こえる…出てくるっ
月明かりの下に黒い影が出て来た…
熊って絵と違うんだな、もしかして目撃情報の少ない生き物だったのか?足が8本あるじゃん!
口が開いた
"キョォォォ"
気づいたら俺は走り出した
だってこれは、これは…
「後鬼なんでしょ?!いつ来たの?」
黒い影に思いっきり飛びついた
黒いのに包まれて、なんかめちゃくちゃ臭かったけど、会いたかった後鬼だった
『マコト…早く走れるな…』
「なんで熊の格好してるの?変装?いつ来たの?なんで来たの?後鬼ィ!
一緒に島から出ればよかったのにぃ!ヘヘっ後鬼来てくれてありがとう!俺、迷子になっちゃったんだ。皆の所に戻らないと」
『…場所は解る』
「後鬼って凄いね!なんでも知ってるし」
寂しかったなんて恥ずかしくて言えなかった
会いたかったって、いっぱい泣いたことも黙ってた、だって言ったら涙が出そうだから
俺は大丈夫だって見栄をはりたかったんだ
嬉しくて胸がいっぱいで苦しくて、黒いのを抱きしめた
いつもと違って繋いだ手は暖かくなかったけど、気遣いとか歩くスピードが後鬼だった。
電車に乗ったこと、バスに乗ったこと、遊郭に売られたこと、自力で逃げたこと、とにかくいっぱい話した。
後鬼はそうかそうかと静かに聞いてくれた。
一通り話して沈黙が落ちた、2人の間には静かな足音が続く
「あのさ、後鬼はさ……俺がいなくて寂しかった?」
『是』
「そっか…俺も会いたかったんだ
街で見た高そうな店よりさ、後鬼といたあの島の方がなんかいいんだ」
『…是』
「もう…会え…ないんじゃ…ないかって…ここの奥が…痛くて…グズッ」
『……』
「泣いたらブサイクだから泣かないよグズッ」
前鬼がいつも言ってるやつだ
『…是』
見覚えのある廃村が見えてきて、見覚えのある神社が見えた。
『止まれ』
「うん、あいつらが後鬼を見たら文句言うかな?」
『アヘンだ』
「え?」
『アヘンが燃えて漂ったようだ』
アヘンとは本で読んだ薬物だ。
鎮痛剤として使用されてたけど、接種を続けると薬物中毒になるんだっけ?
なんでそんな物があるんだ?
『ここにいろ』
後鬼が本殿横の住居スペースに入っていく、何となく向かった先に何があるか分かった。
囲炉裏だ、そこで燃やされたのか…誰が燃やしたんだ?敵か?
その時、金属のぶつかる音がした
キィン、キィンと響く
「後鬼!」
ドゴーン!!
壁をぶち抜いて後鬼と蟷螂さんが転がり出てきた
「後鬼!蟷螂さん!敵がいたの?」
俺の心配をよそに、2人が切り合いをしていた
蟷螂さんが何かを投げて煙幕ができる
そこにまた何かを投げる、煙幕に触れた瞬間爆発した
「キャァァ!コーキィィ!」
『来るなっ』
「蟷螂さん、やめてよ!後鬼だよ!」
俺に気づいた蟷螂と一瞬目が合った
そして驚いたように一瞬だけ動きが止まった
後鬼がその隙を逃すはずなかった
蟷螂を屋根の上から叩き落として蟷螂は薪の上に落下した。
足に何か絡まってると思ったら、蟷螂の放った鎖鎌をそのまま絡めていた。
「蟷螂さん大丈夫?屋根から落ちたよ?」
「クッ…そなた、生きてた…のか?」
「俺は何とも無いよ?」迷子になったけどね
そして蟷螂がパタンと目を回して倒れた
『湯を』
後鬼が井戸を指差す
水汲みして中に入ろうとしたら止められて後鬼がテキパキと、かまどで湯を沸かし始めた。
外に寝かされた蟷螂さんを起こして、そして後鬼が懐から何かを出すと湯に混ぜて蟷螂に飲ませ始めた。
「それ何?」
『生理食塩水』
「なんで?」
『脱水症状』
「それ俺も飲んでいいやつ?」
『是』
後鬼がさらに何かを入れて飲ませてくれた。
「ん…ちょっと甘い?美味しいよ」
『是』
それから後鬼が部屋の中に入って、出てきた時に両手に蠍と蜜蜂を持っていた。
同じように起こして塩水を飲ませていた。
後鬼が本殿に布団を敷いて3人を寝かせる
『そなたも眠れ』
「……寝てる間にどっかに行かない?
後鬼がいなくなってたら嫌だから寝たくない」
『…そなたの側にいよう』
「ずっと?」
『是』
「約束ね……眠くないのに…スゥー…スゥー」
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