第7話 恐怖の殺人鬼クラブ

頭がぼんやりする、ここは?…窓の外から月明かりが見えて、知らない部屋にいた。

バッと起きようとして腕が縛られていて起きられなかった。


「またかよ、ハチミツ野郎か?」


「ハチミツ?食べたいの?」


スクスクと笑い声が聞こえる

ビクッと振り返って見ると、着物を着た女の子が部屋の入口から覗いてた


「ねー、西洋の異人さん。あなたはどこから来たの?」

女の子は部屋に入ってきて話しかけてきた


「海の向こうだよ」罪人の流刑地だけど何て呼べばいいんだろう?


「へぇー、海の向こうの異国の地ね!ロマンあるわぁ」


「あの、縄解いて下さい…あ!お前は店員の女の子じゃん!ふざけんなよ!何だよ!ここどこだよ!」


「キャハハ、今頃気付いたの?」


女の子が耳元まで来て温度を感じない声で

「即死毒でも良かったんだよ?キャハ Iam murderer」


この子って殺人鬼だったの?ひぇ


「キャハハ。異人さんの恐怖に怯えた顔ステキねぇ〜。

あっ蝶ノ姫花魁、もう来ちゃったの?あいつは殺した?キャハハ」


「ヨシノしなんし」


誰を殺したの?それ返り血か?ひぃ


蝶ノ姫花魁と呼ばれた派手な着物の妖艶な美女がしずしずと現れた。化粧も派手だが、返り血を浴びて着物や手が赤く染まっていた。

漂ってくる血生臭い匂いが恐怖を呼ぶ


サァーッと血の気が引いて行くのがわかった…

なぜなら花魁の手にあったのは俺のリュックだからだ!

その返り血は蜜蜂の?

怪我したって言ってたけど、一応生きて手当してたよね??

こんなに返り血浴びてるってアイツは大丈夫なの?

俺はここで殺される?

いや、即死毒でも良かったのに生きたまま連れてこられたんだ…少なくとも今すぐ殺される訳じゃない!はず…多分。


ガタガタ震える体に力を入れて堪える


蝶ノ姫が部屋に入ってきて至近距離で顔を覗き込んできた。


「ふふっ怯えなくても取って喰ぃやないわ

西洋人の肌ってキメ細かくて白くて羨ましわ

白粉おしろいいらずの素の肌艶も、大粒の宝石のような瞳も、長くて多いまつ毛も、艶のある白真珠ホワイトパールの髪も、ぷっくりした唇は素でピンクなのかい?…まるで西洋の彫刻のような美しさね」


「キャハ、あたいも触る!」


2人に髪や顔をペタペタと触られる


「んん~?この顎のラインの肉付き…この手の感じ…それに唇のぷるんと感…異人ちゃんまだ若いんじゃない?14〜5歳と見た!あたい歳当てるの得意なんだぁ!今まで外したこと無いよ。まぁ異人は良くわからないけどぉ?キャハなんだ年下じゃん!」


えぇ?まさかの年上?

いや、ってか俺の肉体年齢って実のところ知らんし!元の体の罪人は島流しされる時に身分証とか持って無かったようだしな


あっ!てことはこの妖艶なお姉さんはもっと上なのかっ!!


「あんた顔に全部出てるのよ…(イラッ)

わっちは永遠の10代でありんすえ」


「異人ちゃん見た目よりも中身も若そうねぇキャハハ」


くっ…俺の精神年齢は大人だっ!クソッ

蝶ノ姫姐さんオッパイでけーな!!


その時ドスンドスンと足音がしてドアのところに巨漢が現れた(※巨漢ではなく女将さん)

「目覚めたんかい…おや、磨かなくても光る石!あんた、うちの店で働きなァ

異人なんて気色悪いと思ったけどねぇ、ウチのお客に巨根さんが何人かいるんだ

異人なんてみんな懐が深いんだろぉ?丁度良かった!アハハッ連れて行きな」


「キャハハ異人ちゃん可哀想に…近藤さんって化物サイズだから遊女が何人も壊されちゃったんだよねぇ」


「大丈夫、死にはしないさ…死にはね」


「生きてりゃ取引きに使えるしぃキャハ」


「ヤダァ!ヤダヤダ絶対にヤダァ!コーキィいやー助けてぇ俺に触るなぁヤメロぉ」


口に布を突っ込まれて下郎どもに運ばれてしまった。

暴れまくってやったけど5、6人の男に伸し掛かられて動けなくされた。


それから何かの薬を嗅がされて、気がつくと袴から着物に着替えさせられていた

足に鎖かかけられていて太い梁に繋がっていた、簡単には脱走出来ないようだ


ここで近藤とか言う化物の相手をさせられるのか?冗談じゃねー!クソッ!


ロウソク倒して火事起こしてやる!最初に焼け死ぬの俺か?ぐぅ

とりあえず逃げるのに邪魔な重い着物を脱ぐ


ギョッ!

苦しいと思ったら乳バンド付けてやがる!

(※明治の下着事情、この頃は海外製のコルセットとペチコート等が入ってきていた)


どうやって脱ぐんだこれ!股がスースーする!しかもご丁寧に下の毛が剃られてる!!

(※普段はノーブラにニットのパツン)


バンッ!

襖を開けてさっきの下郎の1人が入ってきた


「女将さんが最初は普通の奴にって配慮してくれたんだ、感謝しな!オレァ慣れてるからよゲヘヘ

異人さん足長ぇーな、ほぉーこれが本場の乳バンドか。こりゃ太客付くなぁ、近藤さんにゃ勿体ない。まぁオレの後も誰か来るから朝まで楽しめや」


そんな配慮いらねぇ!クッソー!

ただ、コイツ1人なら勝てそうだ

「ふぅー…これ外すの手伝ってよ?」と背なかを向ける

無防備な姿に油断して下郎が近づくと、回し蹴りして顎に一発おりゃ!


「ガフッ」

顎にかかとが入って下郎が布団に倒れ込んだ

そのまま繋がった鎖で首絞めて落とす!までもなく伸びていた。


太い梁ごと引き抜いてやる!

鎖を力任せに引っ張ると錆びてたのか鎖が千切れた。

足首に繋がってる鎖は壊れなかったがまぁ武器として使えそうだしいっか。

逃げようとした時に後鬼から貰った紅水晶が無くなってる事に気付いた


全て失ってしまった…


地の底から湧き上がる何かにのまれそうだ

島から出たら碌なこと無い!ずっとあの島にいればよかった…

でもじーさんが居なくなったから物資が届かなくて、遅かれ早かれどの道島を出るハメになってたんだよな


紅水晶を取り返したいけど、あのヨシノとか蝶丿姫って手練れだよな…


ハァ紅水晶は諦めよう後鬼ごめん。

ってか、また島に戻って後鬼に貰えばいっか。


とりあえず脱出だな!


窓から木の枝に鎖をかけて飛び降りてぶら下がり、地面に降りた。

屋敷の中庭のような所を鎖を持って音を立てないようにゆっくり歩くと、明かりのついた部屋の窓がほんの少し空いてて、隙間からそこに俺のリュックが見えた。


まぁ取りに入るよね

窓をよじ登る時に鎖のジャラって音が出ちゃった

思いの外響いて、下郎の1人が襖を開けて部屋に入ってきた

「何したんだお前!そのカッコ…タゴサクはどうした!!」


鎖のついた足を回し蹴りして遠心力でスピードの乗った凶器が入ってきた下郎の顔に当たった


「ギャァ!グッ痛っっテメーブチ犯すぞ異人がぁ!」

鼻血が出たが意識を失ってはなく、大声で叫ばれた

リュックを回収すると窓から飛び出て転がった。

「待てぇ」と追いかけてくる下郎に鞄の痺れ薬の小瓶を投げた


後ろの下郎は止まったけど、前から他の奴らが騒ぎを聞きつけて出てきた。

たまらず、窓の開いていた部屋に跳んで転がり込んだ。

その選択をとても後悔した、バラバラ解体現場だったからだ


オエッ臭っなんだここは!


ただ似たような鎖を見つけてもしかして鍵があるんじゃ?と近くの引き出し開けまくったら鍵束が出てきた。

一個一個鍵をさしていくと

ガチャン

鎖を外したタイミングで部屋の扉が開いた!


手に出刃包丁を持った下郎がいた

そしてそいつが俺を見るなりその包丁を投げつけてきた

間一髪の所で避けれたが、髪の毛数本切れたかも…


ひぃぃ!

運悪く窓の外から覗いてた下郎か誰かに当たった!!

ガクガクして倒れ込んだ

それを見てた奴らが悲鳴を上げて後退り、尻もちをついていた。


包丁を投げつけてきた奴も手練れに違いない!

とっさの判断で外に飛び出た。

そのまま転がるようにして起き上がり、震える足を叱りつけて全力で足を動かした。

生け垣を飛び越え石の灯籠に足をかけて勢いよく塀の上に上がり反対側を確認する。

薄暗い道で誰もいない


ぴょんと飛び降りて理由もわからず、明るい方向に走った

なぜ人は明るい方向に向かって走るのだろう?

ここがどこだか確認する為かな?見た所で知らない場所なのに


ただこの選択は間違って無かった。

大通りには人がたくさんいて女が商品のように店先に飾られていた。


すれ違う人がみんな見てくるけど

駅でぶつかった紳士のような奴はいなかった…。

やらしい目でニタニタと見てきて、捕まえようと手を伸ばしたりする奴もいた


裸足でパンツも履かずに薄くてヒラヒラするペチコートの上にコルセットだけの姿で走り回っていたからとても目立っていたとも知らず


ふいに、蟷螂といた飯屋の匂いがした気がした

クンクン嗅ぎ回って、大通りから少し奥に入った所であの匂いのする飯屋にたどり着いた

もうここが間違ってても構わないと店に突っこんだ


「キャァー!」


「あー!ヨシノ!お前ふざけんなよ!まだ店員のふりしてやがるのか!よくも底辺遊郭に売ったな!

お前が近藤さんとやらに犯されろブス!」


苛ついてたから思ってたことぶちまけたった

蟷螂さんの組織のライバル会社が目と鼻の先だったのか、しかもスパイ活動まだ続けてたの!


そして、ヨシノの首から見覚えのある革紐がチラリと見えた

「返せよ!それ俺の紅水晶だろ!このコソ泥女が!ちんちくりんのお前には似合ってねーんだよ!」


それまで無垢な店員のふりしてたのに

顔が歪んで懐から何か簪のような物を出して襲いかかってきた

先程からアドレナリン出まくってギアMAXの今ならスローモーションのようにヨシノの動きが見えた


前鬼直伝のヘンテコ拳法


迎え撃つためにこちらも一歩踏み出した。

簪のような物の先端に嫌な感じがしたから、初手で簪のような物を手ごとそらした(※この時すでにヨシノの手は骨折してる)

そのままの勢いで向かってくるヨシノの髪を掴んで膝蹴りを顔面に食らわした

ヨシノは自分の体重を顔面で受けた事により鼻と前歯が折れたようだ。

すぐに手を離してポイッと床にころがして、盗まれた紅水晶を回収した。


あの屋敷を探し回らなくて正解だったな!

諦めたのに手元に戻って来ることもあるんだ…ホッ


一部始終を見てた一般客が2人とも店から無銭飲食で逃げていき、店の奥から店長らしき人が出てきた


「あんた!どこに行ってたんだ!その格好は??小春がどうして?」


「そいつは刺客だ間抜けめ!ヨシノと呼ばれてて、根暗で陰気な暗殺集団の小物だぞ!」なんせ俺ごときに倒されたから


「は?小春が??ヨシノってあのネズミ簪のヨシノか!?」


「ネズミ簪ってダッセェ通り名だな…

そんな小物の事よりも蟷螂さんは?敵の遊郭は目と鼻の先だよ?ボインの蝶ノ姫姐さんってそれより、こんな所でのんびり飯屋やってたら情報筒抜けだよ?

あ、だから俺が上陸したことがバレてんのか」


「蟷螂の旦那に文を飛ばす。あんたは目立つから上に行っててくれ…服も着替えな」


上に行ったら、着替えを手伝う為に女の子が来たけど、あんな事があってから怖くて他人に後ろに回られたくない

自分で何とかコルセットを脱いだ

暗いからほんの少し窓を開けて月明かりで着替えていた。

(※電気の場所が分からなかったのと、マッチがきれててロウソクに火がつけられなかった)


キィーと窓が開く音がして月明かりが鮮明に部屋を照らし出した。

振り向くと蟷螂が窓にのっかっていた


「蟷螂さん、どこから入ってきた…「無事だったか?!」


言葉を遮るようにして蟷螂が部屋に入ってきた


堪らず今になって涙が溢れてきて、心臓が痛いくらいドキドキしていた

「ウゥゥ…蟷螂さん遅いよぅ

変な遊郭に売られて死にそうな目にあったの!

ここ全然安全じゃないじゃん!もう!もう!グズッびえぇーん」


ペチコート一枚越しに抱きついて泣いた


「……すまぬ」


「謝らないでよ!謝ってほしいんじゃない…離れるなって、一緒にいるって言ったのにぃうえーん」


蟷螂の「すまぬ」が

後鬼のすまぬの時のように聞こえて余計に悲しかった…たまらなく後鬼に会いたくなった


「後鬼帰りたい」ボソッ


「……すまぬ」


帰りたいって言うつもりは無かったけど、口から溢れた。それを拾ってすまぬと返されてもな…

もしかして島には二度と帰れなかったりする?


言葉にならない虚無感が足元から上がって来るようだ。

立っていられなくて崩れそうになったときに蟷螂が支えて抱き寄せてくれた。

そして頭を撫でて溜息を吐いた

「ハァ…とりあえず泣き止んでくれ。落ち着いたら服を着ろ」


急に部屋の温度が下がった気がして寒気がした。

殺気のようなモノを感じて蟷螂の肩ごしに窓を見ると

さっき顔面に蹴り入れたヨシノが窓から目の上だけ顔を出していた。


見る限りホラーだが、本当にホラーのようだ

蹴りの跡がないのだ。鼻も前歯も折ったはずなのに…


手にはあの時の簪が


次の瞬間、その簪をこちらに投げてきた

このままでは蟷螂さんに当たる!


咄嗟に体が動いた!クルンと場所を掴むと入れ替わって刺さる前に簪を掴むとそのまま投げ返した

そして眉間にグサッと刺さってヨシノが窓から落ちた!


「何だ?泣き止んだのか」


「違う、今そこにヨシノが…」

蟷螂と窓から下を覗くがヨシノはいなかった。仕留め損なったらしい


すぐに下の店長から蟷螂を呼ぶ声が聞こえた


なんか怖いから蟷螂にべったりくっついて一緒に見に降りるとヨシノは事切れていた


今しがた上で起こった事を話すけど

店長はヨシノはずっとここにいて、急に苦しみだして事切れたと言う


店長「何がなんだか…」


蟷螂「もしかして呪詛かもしれぬ…そなた何かヨシノから渡されて持っておらぬか?」


「別に何も…あっこの紅水晶!ヨシノに盗まれたけど取り返したんだ」


蟷螂「島を出る時のものか…ん?魅せてみろ!これは?」


俺の紅水晶に何かの紙が巻き付けてあった

よく見ると小さな御札で気持ち悪かった


蟷螂「店長!火を!」


蟷螂が御札を火で燃やすと

"キャハハキャハハキャキャキャー……"


店長「こりゃ、呪詛では?」


蟷螂「おそらくだがそうだろう…

そなたがなぜ返せたのか解らぬが呪詛返しをしたのだ。だが、本来はこの程度なら死ぬほどの呪詛では」


蠍「返した勢いが強く出たんじゃねーの?」


いつからいたんだよ!チビ!


蟷螂「いつから見てた?」


蠍は2階の窓にヨシノの呪詛らしき影が見えた所から、向かいの屋根で見ていたらしい。

蠍の目には、部屋の中から、より暗い何かにヨシノの影が食われて消えたように見えたんだって。


蠍「お前、本当に何者なんだよ…気味悪ぃな」


「む!俺のファイルは君らが持ってっただろ!」


蠍「お前…その薄布の下は履いてないな!

女の匂いさせて近寄るんじゃねーよ!」



蠍の彼女は嫉妬深くて他の女の匂いに敏感なんだって。いそいで着替えた

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