第6話 列車の旅
街に降りてから蟷螂と蜜蜂が地味着物と地味羽織を地味に着こなしていた
地味な服だけど蟷螂さんは良く似合ってて格好いいと思った
同じものを着たいとごねたけど、何を着せても目立つと言われ、結局蜜蜂が買ってきた袴に着替えさせられた
ご丁寧に髪にリボンまで付けられて紅までひかれた
蜜蜂「そんなに高くない袴が最高級の品に見えますねー、やっぱ西洋人の可愛い
そんなに高くないんだ…ホッ
なら、汚しても文句言わないでくれよ?
蟷螂「そなたは余計な事を喋るな目立つな、よいな?」
何をしても目立つから、もう変に隠さずに良家のお嬢さんと護衛風を装うことになった
いわゆる「お忍びでお出かけ」と言うやつだな
空はほんのり曇っててポツリポツリと軽い雨が降ってる、傘をさして歩くと白髪が目立たない
蜜蜂が傘をさして歩いてくれる反対側の肩が濡れていた
「あの、肩が濡れませんか?」
蜜蜂「心配してくれるの?優しぃー。大丈夫、雨はそんなに降らないから。
さっきも思ったけどまつ毛長いねぇ
目もガラス玉みたいに綺麗な色だ、こんなに湿気ってるのに髪もサラサラ、ほら僕の髪なんかこんなに散ってるのに」
「ジメッ…ふわっとした黒い髪もしっかりした黒い目も格好いいじゃん。俺の髪は
蜜蜂「白髪っぽいねぇクククッあ気にしてた?ごめーん」
「…別に気にしてないジメッとしたチリ毛さんフフッあ気にしてた?」
蜜蜂「…その小馬鹿にしたように見下した視線がゾクゾクくるよクククッ」
「……」コイツ変態か?
どうやら、列車に乗せてくれるらしい
もう歩きたくないってゴネたんじゃないよ?
乗せてくれるなら何でも言うこと聞くとか言ったりしてない。
俺はただ、そう、適当に頷いてただけだ。
こんなにたくさんの人がどこから湧いてきたんだよ!なんか建物も沢山あるし、俺より派手な格好してるやつもいる!
駅に着いた頃には、いつの間にか雨はやんでいた
俺は今、華やかな街を歩いてる!想像より何倍も楽しい!
街は雨上がりの匂いも違うなぁ
「ねぇ、何でこんなにたくさんの人がいるの?今日はこれから何か始まるの?みんなどこに行くの?この電車の先に何があるの?なぁ、あれは何?あっちの帽子変なのが付いてる!あそこの人は警官?」
蜜蜂「あれは駅員だよ、お嬢さん」
蟷螂「ハァ…一等車両はおさえられなかった」
蜜蜂「まぁ、仕方ないですよ。ところで旅費は経費で落ちますよね?買い物に結構な額使っちゃいましたから…」
蟷螂「通るかな。ハァ、ウロウロするな」
蜜蜂「知らない人に付いてっちゃ駄目だよ?話しても駄目だよ?」
と言われたけど、夢中で人にぶつかってしまった。
紳士「失礼…!ぶつかってしまった、大丈夫かいお嬢さん(ほぉ〜めんこい西洋人だ)」
「こちらこそすみません」
知らない人と喋ってはイケないんだったな。
スルッと蟷螂の腕に手をかけて歩く
街で袴を着た奴や派手な格好の奴がこうやって歩いてる、俺もやってみたかった
「どこにも行かないよ、だってまた迷子になりそうだ」
蟷螂は腕を組まれて睨みつけていたが、諦めて目を伏せた
「…ハァ、離れるなよ」
蜜蜂「きぃー!どうして蟷螂さんに懐いてるんです!」
3等車両の壁にくっついた長椅子に3人で並んで座る、もちろん真ん中。
「先頭車両に行きたい!」
蟷螂「駄目だ」
「窓開けてもいい?」
蟷螂「駄目だ」
「景色があっちの方がいいよ、ここと、あっちの窓の席を交換してもらおうよ?」
蟷螂「駄目だ」
立とうとすると腕を掴まれた
蟷螂「座ってろ」
「トイレないの?」コソッ
蟷螂「我慢しろ」
「クッキー食べてもいい?」
蟷螂「駄目だ、チッ…もう大人しく黙ってろ」
「……フゥ」
蟷螂「憂いをおびた目でアンニュイな溜息を吐くな!」
は?何言ってんだコイツ
蜜蜂「何言ってるんだ?って顔だねークククッ」
流れる景色が街から村になったり畑になりまた町になったり田畑や山や村になったりと過ぎていく
何度も駅に停まり人が乗り降りするのをぼんやり眺める
停車駅の窓越しに小さな子連れの親子と目が合った。
ニコリと笑って手を振ると子どもは顔を赤くして遠慮がちに手を振り返していた
蜜蜂「その顔で恋を請われたら怒られると分かってても乗ってしまいそうですねぇ」
何がだよ難破なハチミツ野郎
蟷螂「ハァ」
真ん中に挟まれてるととても暖かい
心地よい温もりと電車の音とゴトゴトする振動も慣れてくると眠たくなるもんだ
気がつくとハチミツ野郎の肩に頭を預けて寝てた。
背中から手を伸ばして肩を抱かれてたことに気づいてギョッとした
バッと離れて睨むと、クククッと笑ってやがるクソッ!
反対側の蟷螂を見ると肩の所が濡れてシミができてた
蟷螂「…そなたのヨダレだ」
ひぇ
「申し訳ございません」本気ですみません
蜜蜂「ほらほら、蟷螂さんにもたれ掛かると怒られちゃいますから。僕の方へ来てもう少し寝てていいですよぉ?寝顔も可愛い、本当にまつ毛長いですねぇ」
「流石にもう寝ないから」
流れて行く景色を見てふと思い出す
島に置いてきた2人の事を
今頃はどうしてるだろう
じーさんもいなくなって、俺もいなくなって
島の反対側の住民も居なくなって廃村になって…
あの場所もいつか村のように朽ちて、2人の事も覚えてるのが俺だけになってしまうんじゃないか?
俺が必ず島から連れ出してやるよ
それまで待ってて、世界はこんなに広くて人も街も賑やかだったんだから
おかしな格好してる奴もたくさんいるし大丈夫
ぼんやりと後鬼と手を組んで街を歩いてることを想像してた
電車が目的の駅に着いたようだ。
降りる時にボソッと「やはり付けられてるな…チッ」
頭から風呂敷を被せられまた担がれた
「声を出すなよ」とか言われたけど
ハイハイ苦しくて声なんて出ませんよ!?
俺の太ももを掴む手に力が入ったと思ったら
ガキィン
金属の何かを弾いたような音だ!?
何が起きてるんだ?んひぃ
『蜜蜂!』 『了』
わぁっ!?
宙に浮いた感覚がして
ウグッ!
何も食べて無くて良かった、吐いてたかもしれない。
落ちそうで怖いから必死にしがみついていた。
ちょっとでもバランス取ろうと動いたら
「チィッ暴れるな!」と太ももに回してる腕に力を入れられる
どれだけ時間が経ったのか解らない
担がれてるだけなのに疲れたし、体制が辛い、なのに蟷螂さんは息切れしてない…忍者ってスゲー!
そして風呂敷がふわっと外されて、知らない部屋にいた
ここは?
一日電車に乗って、走り回って、たどり着いた部屋で蟷螂が静かに部屋から出ようとした
「待って!どこに行くの?一緒に行く!」
「…ここにいろ。下で話してくるだけだ、ここは拠点の1つだ。下の飯屋は目隠しで上は関係者しかいない…窓から顔を出すなよ」
「……うん」
窓を開けちゃいけないのか
この匂いは下の食事処の匂いたったのか…お腹すいたなぁ
俺の荷物は蜜蜂が持ってたはずだ
後鬼から貰った紅水晶だけしか手元にない
しばらく待った…何もできない時間って長いね
バンッと扉が開いた
「おー…なんだお前かよ!どこぞのお嬢様かと思ったぜ」
蠍が入ってきた
「蠍さん」こっちのセリフだわ!蟷螂さんかと思ったのに!
「蜜蜂が怪我してな、今下で手当してんだ。
なぁ、お前って何なの?ここに来るまでに何でそんな狙われるんだよ!なぁ、おい、なぁ?」
座ってる姿勢だから、ズカズカ入ってきたちびっこい蠍に顎をクイッとされて上を向かされた
「知らねーですよ!いやいや、青い表紙のファイル見たでしょ?それに連れ出したの君たちだよ?
ライバル会社が単に邪魔して足引っ張ってんじゃないの?」
「どこまで知ってんだ?何を見た?」
「何も見せてもらえなかったよ……ってかハチミツさんは大丈夫なの?俺のせい?」
蠍はケッと言い部屋を出た
入れ違いに、店の店員の女の子がお茶とお茶菓子を持って来た。
スッと出されたものは食べるよね。
食べたらとても眠くなってしまった…列車であんなに寝たのに……
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