第5話 何かを握って寝る

蠍「はぁーやっとこの罪人島ともオサラバだぜぇ!髑髏しゃれこうべに気味悪い化物に息が詰まるぜ。ひでぇ島だったな」


蜜蜂「荷物はこれで全部?女の子の引っ越しって衣装ケースで荷車1つ埋まっちゃうとか聞きますよね〜?

とは言っても、あんまり持っていっても荷物までは保証出来ないし。こんな流刑地じゃろくな物ないか。僕が街で何か買ってあげましょう」


蟷螂「もう乗れ」


こいつらの船にあったつづらって言うの?

小さなケースに入れれるだけしか持っていけないと条件付けられて荷物整理し直した。

別に持っていくほど大事なお宝なんてないけどな


研究所を出る前に後鬼が

"健康運のお守りだ"と小ぶりの紅水晶を首にかけてくれて、いつものように頭を撫でた。

これだけは大事にしようと思う。

他にも常備薬だとか毒にも薬にもなる薬瓶ケースと人体用の裁縫セットやマンチェスターナイフや災害時の荷物のようなものをリュックに詰めてくれた。

夜のうちに焼いたのかクッキーの缶や飴も入ってた。


前鬼の"ちゃんと認知はしてもらいなさいよ"

と言うふざけたありがたくもない言葉を最後に島を出た


島の周りは岩礁が多いから裏側から迂回するルートを通るらしい


振り返ると涙が出るのが分かってても、振り返ってしまった。

後鬼と過ごした思い出が浮かんでは胸から溢れるようだ。後鬼のくれた紅水晶を服越しに握りしめて涙をこらえる。

いつまでも海岸に立ってる後鬼の姿が見えなくなるまで見つめつづけた。

見えなくなってから堪えきれず涙が溢れ出た。


蠍「泣くほどの島かよ」


蜜蜂「まぁまぁ。ここと全然違って街に行けば華やかで驚きますよ?涙なんて吹き飛んじゃいますから」


蟷螂「フゥ、無事に脱出できたな」


お前らには罪人の流刑地だけど、俺にとってはこの世に存在した時からいて、それなりに楽しく育った島だ。

何年経っても故郷はどこかと言われたらきっとここを思い出すだろう


お昼用におにぎりを渡されてたから、誰かがお腹すいたって言ってから勿体つけて出してやった。


蠍「そーゆーの、あるなら言えよ!このガキが!」


「じゃあ聞いてくださいよ?」チビが!


前鬼と後鬼の改造したエンジンのおかげで3、4日かかるって言ってたのに一晩過ぎたら本土が見えてきた。


船が集まってる港に行くのかと思ったら、通り過ぎてしまった。

エージェント用の秘密の停泊場があるんだって。


ボロボロのギシギシ揺れる船着き場についた、そこから山の中のけもの道に入っていく。

俺のつづらの荷物は蟷螂さんが他のと一緒に背負ってくれた。大したもの入ってないのに、なんかすいません。

なんで普通に港から行かないの?


けもの道の途中で蟷螂が蠍に何かを言って、蠍は違う方向に木の枝に飛んで行ってしまった

よく、あんな細い枝を飛び移れるな


蟷螂は俺を見て、懐から風呂敷きのような布を取り出して俺の頭に巻いた。

俺の白銀の髪は目立つようだ


休む間もなく歩かされて足が靴擦れして痛かった。

黙って黙々と歩いていたけど、疲れて足が上がらなくなって斜面の途中でついに足を踏み外してコケた


蟷螂「チッ…」


イラッ!

街から離れてってるじゃん!華やかな街を歩くんじゃなかったのか!こんな鬱蒼とした道なき道を歩かせやがって

声に出すとしんどいから言わないが精一杯睨みつけてやった。

もう既に泣きそうだ!


ハチミツ野郎が俺を背負って歩くと言い出した。

なんかもうちょい行けば拠点に使ってる小さな山小屋があるんだって

そーゆーの先に言えよ!宛もなく彷徨ってるのかと思ってたしな!


「ハチミツさん、すみません」


「蜜蜂です…いいんですよ。普通の女の子なのにここまでよく頑張りましたね

あんな島で育ったのに中々体力ありますね」


「…うん」


疲れて寝ちゃったようだ。

船では寝れなかったし…体力の限界だったと思う


目が覚めると何故か縛られて小屋に置かれてた

2人は居なくて、申し訳程度に着物の羽織がかかってたから寒くは無かったが


「誰もいない?」


置いていかれたのか監禁されてるのか…つづらもなくてリュックだけは置いてあった。

普通に中のナイフで縛ってるロープ切るよね


薄暗い小屋の中を見て回る

太い梁がむき出しになってる…蠍なら飛び移れるな

炊事場は一応あるけど、水瓶の水は底に一センチ程しかない

食器棚も無いし、テーブルもない

囲炉裏はある、薪もある、食べれそうな物は無かった

小屋から出ようと思ったら扉が開かなかった

ガタガタやって開けようと思ったけど思いっきり蹴り飛ばして扉を外して外に出た


上陸したのは昼前だったはずだけど、空が茜色になっていた。つづらは小屋の外にあった。

中からサイレンサー付の銃を組み立てていく。

良かった、盗まれてなくて!

パーカーを着てフードをかぶった

こんなボロ小屋に未練はないし…帰ってくるかも解らない2人を待つつもりはない。


街についたら働いて収入を得られるかなぁとか、のんびり考えながらサクサク歩いていた。



暗くなる前に出たのが悪かったな、真っ暗な山の中を懐中電灯の明かりを頼りに歩いていく

なんとなく暗くなる前に村にでもたどり着くとか考えてたけど甘かったなぁ。

本土って広いねぇ

野宿とかやだなぁと自分のペースで歩いていく。

が、昼前も山歩きして疲れてたから、すぐにまた動けなくなった。

もう筋肉痛が来てるらしい。太ももやふくらはぎがピキピキ言ってる。


途方にくれてるときに、少し先の木の根に人間らしきモノが見えた


ギョッ 

お化けだったらどうしよう?いやいるなら見てみたいとか思ってたけど、1人の時は嫌だぁ!


「もうし…そこのお人。道に迷われたのか?」


ビクッ

結構離れてだけど静かな山だから声が通った

「…えぇまぁ」


近づくと男がニタァと笑った

背筋が寒くなる、なんて悪意のこもった顔なんだ!

逃げなきゃ!


すくむ足を動かして逃げたけど追いかけてきた

「ハハハッ待てぇ、小娘がどこへ行く」


懐中電灯を持ったまま走るから自分の場所を教えてるようなものだ。

それに気づいたのは草陰に入ってから。ライトをいそいで消したけど見つかってしまった


髪を掴まれ振り回され木の幹に叩きつけられた

「キャァ グッ!」


こんな真っ暗な山奥で、知らない男による一方的な暴力。

痛みと恐怖で手足が震えて狙いがさだまらなかった、持ってたサイレンサー付の銃を向けるだけで精一杯。

近い距離から一発何処でもいいから引き金を弾いた


パシュン


「グアァッ…痛っってぇ、小娘がやってくれたな!殺す」


何処かに当たったようだけど場所が悪かったのか、男は止まらない。

男の懐から出たナイフがキラリと月明かりに照らされた


あ、死ぬっ…後鬼!


と、その時に横から飛んできた何かが眼の前の男の頭に突き刺さり男を弾いた。

男は斬り掛かったままの体制から軌道がそれて斜め後ろにドサッと転がった。

涙目で飛んてきた武器の方角を見たら蟷螂が走って来るのが見えた


そのまま勢いで立って抱きついた。

安堵とか安心とかもう大丈夫とか何故か思って、震える手足に力を入れてしがみついていた。


蟷螂「勝手にいなくなるな!」


「うぁーん、ごめ"ん"な"ざいぃ

だって、起きたら誰もいなかったの!置いてかれたのかと思ったの!島の罪人より顔が怖いじゃないか!びえぇぇん」



グズグズメソメソ泣く女子おなごの相手などしたことが無かった蟷螂は狼狽した

船ではここまで泣かなかったし蜜蜂が適当に相手をしていたから。

泣き止めと言った所で止まらず、「うるさい黙れ!」と怒鳴ればさらに泣く


蟷螂は殴って気絶させようとも考えたが

「どうしたら泣き止むのだ」と口からこぼれた


「抱きしめて頭なでてよぅコーキィィおじーちゃーん帰りたいよぉーうわーん!もうヤダぁうえーんえーんジュルルぶぇーん」


先程から必死にしがみついてくる手を剥がそうと蟷螂も躍起になっていたが、そう言われて手を剥がすのを辞めて頭を撫でた


すると、力いっぱいしがみついてきた体から力が抜けて、うるさく喚くだけだった泣き言が静かな嗚咽になっていった


「落ち着いたか?」


「……グズッヒック…まだ…」



蟷螂はハァと短いため息を吐いて思案する

蜜蜂がしていたように自分が背負って帰らねばならないのかと帰路を見つめる。

機械のように右手で頭を撫でていたけど今更ながら、この娘は凄い力でしがみついてきたものだと。

自分が剥がせないなど有り得るのかと、女子だと思って無意識のうちに手加減していたのかもしれない


ザワリと木々が揺れ、肌寒くなってきた秋の夜風が吹き抜けた


蟷螂は人肌の温もりなどしばらく忘れていた事を思い出していた。

泣く子も黙る蟷螂と恐れられていたのに、少しも泣き止まなぬではないかと全然違うことを考えるように努めた。

確かに伝わってくる暖かい体温、柔らかい体は程よい肉付きで抱き心地が良く、自分の顎のすぐ下の頭から香る甘い女の匂い、怯えて震えていたのに今は安心したように体を預けてくる

涙と鼻水で顔も服もベチャベチャの小娘ごときに…


「よくこんなに涙が出るな、体が干上がってしまうぞ」


困ったようにフッと笑った蟷螂と目が合った


泣きわめいて疲れたけど、急に恥ずかしくなってきて、自分から手を離して離れてうつむいた。

抱き合って暖かかった熱が空気に溶けて冷えていく


顔に熱が集まって来るのがわかる、きっと赤い顔をしてそうだけど、こんなに暗ければ見えないはず


その後、蟷螂さんから"背負ってやる"とありがたいお言葉を舌打ちと共に頂いて、断るのが正解か素直に従えばいいのか判断に迷った

もたもたしてたら肩に担がれてしまった。

人一人担いでるのに凄い速さで暗い山道を進み、元の山小屋にあっという間についた。


「チッ…蜜蜂はどこに行ったのだ」


「連絡は取れないの?」


手品のように懐から小鳥をだして足に手紙を巻き付け飛ばした


連絡手段はコレか…ますます忍者っぽいね!

もしかして本当に忍者なの??本に出てた忍術は使えるの?色々と聞きたいけどなんか聞けない!

知りすぎると消されるんでしょ?


しばらくして蜜蜂が帰宅

手には何かの袋があり、蟷螂にめちゃめちゃ怒られていた。


やっぱ蟷螂さんは怒ると怖い人なんだぁ

とぼんやり見ていたら、蜜蜂がその手に持った袋を見せながら近づいてきた


蜜蜂「すみません…まだ起きないと思って買い物に行ってました」


袋の中身はどうやら俺の為の物だったらしい

コレを買いに行くのに俺を縛って小屋に監禁して放置して行ったのか…。書き置きくらいしてくれ

しかも、めちゃめちゃ怒られた後にそれを貰うのはとても気が引けるのだが?


蜜蜂「袴とセーラー服どっちがいいですか?」


それはお前の趣味か?


と言いそうになったのをぐっとこらえた。

袴もセーラー服も生地がとてもよくて、おそらくだが金持ち層が着るものじゃないか?

それにそんな高そうな服を着て山道を歩けと?汚したら怒られない?

他にも、何に使うの?って綺麗なガラスペンが出てきたり

化粧道具?真っ赤な口紅が出てきたり


「あの、コレは目立つんじゃ?君らと同じ滋味系和装は無いの?あ、それ組織の制服だった?

えっと…変装のために着るなら山を降りてからにしたいです汚しそうだし」


蜜蜂「えー、あっそっかそっか。こんな山奥でお洒落してもしかたないねー。髪も括る?リボンもあるんだよ、綺麗な御髪だねー。」


無遠慮に手が伸びてきた


触られたくない、蟷螂を見ると目が合った

もう怒って無さそうだったから後ろに隠れた


蟷螂「ハァ…蜜蜂もう構うな」


蜜蜂はショックを受けたような顔でこちらを見ていた。

「なんで蟷螂さんに懐いてるんですか!」とか「せっかく買ってきたのに」とかごちゃごちゃ言ってたけど

その後も蟷螂の背中に庇われてる気がして少しだけ安心できた。



いつの間にか寝ていたらしい

知らない場所で他人に囲まれてても疲れたら寝れるもんだなぁ


外が少しだけ明るくなっていた。寒いしまだ早朝かもしれない。

手に何かを握りしめていた


これ蟷螂さんの服じゃね?ひぇ

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