第3話 器は魂を宿すのか
頭がぼんやりする、それにこれは温泉の匂いだ
なんでこんな所で寝てるんだ?うっ寝過ぎたか、体がダル重い
はっ誰かいる!
「誰だお前?!」
鍵を持ってる!と言うことはじーさんの関係者か?「……どちら様ですか?仕事関係の人?」
眼の前の男が一瞬揺らいだ
次の瞬間には後ろを取られていた
コイツやりよる!かなりの手練れだな!
しかもわかりやすくナイフを首に突きつけてくる
あ、ヤベっ俺死ぬの?
男「動くな、喋るな、質問にだけ答えろ。
お前は何者だ?」
「……ここの住民」
「富岡ゲンナイはどこにいる?」
あのじーさんの名前は富岡ゲンナイって言うのか、一緒に暮らしてたけど知らんかった
「……書き置きを残して行方不明」
「書き置き?」
「部屋にあります、見ますか?」だから殺さないで!
「怪しい動きをしたら殺す…案内しろ」
男はナイフを背中に突きつけたまま部屋に案内させる。
手を頭の後ろに組んで歩く
男は歩いてる時も質問をしてきた
「お前とゲンナイの関係は?」
「科学者と被検体?」多分、俺自身も良くわからんからあんま突っ込んで聞かないで。
それから男は色々と質問をしてきたけど
俺はじーさんの事を殆ど何も知らなかった事が分かった。
ただこんな離れ小島の無人島に施設作ってるんだから、頭のイカれた変質者か、ヤバい薬でも開発してるアブナイ組織の人間とかかな?と妄想してたんだが
本当にヤベー博士だったのかよ!あのクソジジイ!今度会ったらしばく!
そして自室に手紙を置いておくんじゃなかった。
俺の散らかった部屋に人を入れるなんて、微塵も想定してなかったから
「…部屋を先に片付けてもいいですか?散らかってて」
「無駄な足掻きは辞めろ!時間稼ぎのつもりか?さっさと中にいれろ!くだらん真似はするなよ?一瞬で首を掻っ切る」
背中にナイフを押し当てられて背筋が寒くなる
パスコード設定してない、ただのセキュリティロックかかってるよって見せかけてるだけの扉を押して開けた
雑然としてる汚部屋。せめて落ちてるパンツくらいは拾いたかった。
なんか本気で警戒してるし…刺されたら洒落にならん
「…手紙はどこだ?」
「机の上です」エロ本の隣の…くぅ~恥ずかしい
"マコちゃんへ
おじーちゃんは出かけて来ます
探さないで下さい"
「何だこのふざけた手紙は?」
「全く同じ感想です、俺たち気が合うみたい」達筆なのがまた苛つくよね
ドンッ!
男が背中を突き飛ばして、前のめりにコケた
そして振り返るとナイフを今度は眼前に突きつけてきた
「本物の手紙はどこだ?これはゲンナイの直筆ではないだろ」
「…?じーさんの直筆だろ。組織の人間に出してた手紙と違うのか?前鬼か後鬼の代筆じゃ?」
今度は胸ぐら掴まれて壁に押し付けられた、地味に苦しい
「富岡ゲンナイのサインもない」
「ぐっ…知ら、ないです…ただの書き置きだし…サインなんて、しないんじゃ?」
腕を捻りあげられると顔を近づけてきて
「本当の事を言え、まずは腕からだ」ボソッ
ひぇ
ギリッと腕に力を入れられる
コイツ本気かよ!腕折られるの?これから拷問されちゃうの?
ヤバい組織のエージェントに拷問されるの?んひぃ
「知らない!本当の本当に知らない!痛っ、ぐっ……うぇーん、ほ…ん"どゔに"じり"ま"ぜん"
グズッ痛っ助けてぇ折らないでぇ」
本気の泣き落とし作戦は成功したようだ
手を離してもらえて、ドサッとへたり込む
はっとして服を閉めた。
ガウンがはだけてメロン大の肉の塊が丸見えになっていた…
男は面倒くさそうな顔で見下ろすと、懐から小さな手ぬぐいの切れ端を出して俺を捻り上げていた手を自分で拭った。
面倒くさそうな顔ではなく、汚いものを見る時の顔だったのか…お前が胸ぐら掴んだからはだけたんだろ!!
ひぇ、俺やっぱ殺される?
「ゲンナイの依頼したものについてどこまで知ってる?正直に答えろ」
「先程も言いましたが、ほとんど知らないです…けど、一部じーさんの作業を手伝って作ってました。何を作ってたか知らなかったんです!
どこのどなたと何を取引していたかも存じ上げません。知ってるとしたら前鬼か後鬼です」
「あの化物は何だ?」
「詳しくは知りません、メンテナンスもじーさんがやってたし、助手で遺伝子学的には人間に分類される」はず。
「フム…被検体と言っていたな?どういう事だ?」
「俺についてなら、じーさんの実験室の奥にファイルがある」
「それは、お前がいた水槽の部屋か?」
「はいそうです」
「蠍、聞いていたな?実験室の奥に隠し部屋がある見てこい」
ドアの所から「見てきてやるよ」と声がした。
誰かもう一人いたらしい全然気づかなかった
俺どうなっちゃうの?まだ死にたくないなぁ
離れ小島からの脱出ゲームとかしてみたかったけど、人生そんなうまく行かないもんだね
とかぼんやり考えていたら前鬼が音もなく部屋に入ってきた
"これはどういう状況ですか?"
あっ俺の部屋で暴れるんじゃねーよ
前鬼に助けを求めるよりも先にそんな事を思ってしまった。
気付いたら男がザッと後ろから片腕で首を絞あげてきて、片方の手はナイフを前鬼に向けていた
「動くなっコイツを殺す!」
"ハィ?あぁ…そういうプレイですか?"
「動くな!怪しい動きをするな!」
「前鬼そういうプレイだ!…おにーさん落ち着いて下さい。あいつ、前鬼は手加減知らないんです。俺の部屋を荒らされたくない(コソッ)」
"ちゃんとゴム付けて下さいよ?ここでメンテナンスは出来ませんから"
と、ふざけた事を言い残して前鬼が去っていく
男の腕は力んでいてビクともしなかったが、密着してるから脈打つ心臓の鼓動と震える肌の緊張感は伝わってきた。
今更だが、この人間はちゃんと生きてるのだ
腕も熱があって暖かかったし…じーさんの加齢臭じゃない人間の匂いだ!
そして蠍のと呼ばれた少年が青い表紙のファイルを持って帰ってきた。
ファイルと聞いて紙媒体の方を持ってきたのか
データ上のファイルは見つけられなかったんだな。
俺もよく知らない俺のファイルの中を蠍と言う少年が読んでいく
〇〇年〇月〇〇日正午過ぎ
島流しの死体を拾う
15年ぶりくらいかの、死体は伴天連の若い女
検死の結果も血液検査も実験に何の問題もない
ただな女の体かぁ、前の体は壊れてしもたしな、次の被検体がいつになるかわからん
マコトすまーん、器が女じゃが伴天連は珍しいしええやろ
〇〇年〇月〇〇日(※3日後)
施術を開始する
魂は肉体に宿るものなのか肉体から魂が作られるのか
〇〇年〇〇月〇日(※翌月)
シナプス促進剤を注入 脳機能の活性化を確認
〇〇年〇〇月〇〇日(※更に翌月)
言語機能の回復の兆しが見える
〇〇年〇〇月〇〇日(※更に翌月)
年末は餅が食べたい
〇〇年〇月〇〇日(※2ヶ月後)
毎日おねしょしとる 神経回路がうまく繋がってないのかもしれん
そろそろ流動食は卒業じゃな
〇〇年〇月〇〇日(※更に3ヶ月後)
後鬼の後追いをするようになった
世話してるから懐いたのかもしれんがワシを見たら泣きよる、悲しい
夢遊病は落ち着いてきた、指吸いの指タコができていた。
(※翌日)
後鬼の添い寝で夢遊病も指吸いもしなくなった
釈然としないが脳波も安定してる、情緒や感情のようなものが育ってきた
後鬼に熱源装置を埋め込んで人肌の再現を検討中
もう、春になるからすぐ外すかもしれん
と、そこまで呼んで蠍が止まった
蠍「なぁ、これはゲンナイジジイの育児日記じゃね?」
この日記は俺の事!?うぅ…公開処刑のようだ、もうやだ恥ずかてぃー!!
蠍「リーダー…」
リーダーと呼ばれたこの男は顔色を悪くしていた
「そなたは、いったい何者なのだ?」
「……じーさんと、科学者と被検体?いや実験体?人工生命体?"器に魂は宿るのか器が魂を宿すのか"じーさんの研究テーマだった」
じーさんは前者で俺は後者だと思う
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