第2話 罪人の島 探索チームリーダー視点
蠍「なぁ、リーダーさんよぉ、まだ着かねーの?」
蜜蜂「蠍さん、それしか言えないんですか?またカードゲーム付き合いますよ。あんまりリーダーさんを怒らせないで下さいよぉ」
蠍「お前すっげー弱ぇーじゃん?飽きたしぃ無理だしぃ」
蜜蜂「えぇ~、じゃあ手加減無しハンデ無しで勝負しますけど負けても怒らないで下さいね?」
蠍「はぁ?手加減無しとか調子乗ってんな?やってやろーじゃん?」
コードネーム蠍と蜜蜂、そして私が蟷螂
罪人の島からの連絡が途切れてから随分立つ。
最後に連絡を受けたのは2年前で、その少し前頃から定型文しか送られてこなくなった。
かつて支援していた天才科学者の富岡ゲンナイ
毒薬から生物兵器まで依頼すれば何でも作ると言われていた
ゲンナイが用意した大きな鳥によって手紙や物資を運んでいたが、その鳥も5年前から来なくなりこちらから鷹を使って手紙のやり取りをしていた。
しかし、依頼したモノが届かない
パトロンもついに痺れを切らしてゲンナイとの契約を解除することになった。
蠍「なぁ、ゲンナイのジジイって死んでたりしてな?もう結構な歳だろ」
蜜蜂「いやぁ〜、ぶっちゃけ僕も生きてない方に賭けますね。そうなら、死体の一部でも持って帰ればいいですかね?」
契約解除…すなわち口封じだ
ゲンナイの手元には、よそに流されては困る情報や手紙が多数残ってる
もし生きていれば、依頼したモノがあるなら契約を続行しても構わない
と見せかけて始末するのが我々の仕事だ
最優先は依頼したモノの回収だが、上層部は無いだろうとふんでる
「雲行きが怪しくなってきた、引き返すか…」
蠍「えぇ!リーダー、ここまで来るのにも相当な時間かかったよなぁ?帰ってまた来るのとか無理すぎる」
蜜蜂「僕も、このままもう少し様子見でもいいと思います。晴れるかもしれませんし」
「多数決なら、このまま様子見になるな」
しばらくして、この選択を後悔する。
船は嵐の中を進むことになったからだ。操舵室の窓に打ち付けられる雨は、ガラスが割れそうな程音も勢いも強かった
蜜蜂「蟷螂さん!やばくないですか?」
蠍「リーダー!だから帰ろうって言ったのに!無理すぎる!無理無理絶対に無理!」
蜜蜂「蠍さんが最初に続行って…わぁっ!揺れが大きい!はっ波が!!」
「くっ…舵がきっ!でかい波がくるぞ!掴まれっ」
船が一回転して船室がぐちゃぐちゃになった
バチッ
停電して真っ暗になり、モーターが止まった
それでも嵐はやまない、月明かりもない真っ暗な海の上を舵の取れない船が波にのまれていく
どのくらい時間がたったのかも、どのくらい流されたのかも解らない
船は砂浜に座礁していた。
窓から陽の光が船室を照らし出す
「グッ…蠍、蜜蜂、無事か?」
蠍「ん~~…無理、気分悪すぎるし…もー無理」
蜂蜜「頭打ってタンコブ痛っっ。あ、僕ら島に着いてたんですね。晴れてるぅ…蟷螂さん!人影が!」
蠍「ゲンナイか?」
「確認に行くぞ…とその前に船の確認が先だ!
最悪、島に数日いる事になるかもしれんぞ」
蠍「人影が先だろ?俺がちょっくら見てきてやるよ!なぁに、見るだけ!」
蜜蜂「リーダー…」
「蠍と蜜蜂2人で行け、油断するな?」
船を確認する、底を少し削られてるがギリギリいけそうだが、アンテナが折れて無くなってる
「エンストしただけで無事だったか、走れそうだな(ホッ)」
…1時間経ったか?2人が戻って来ない
蠍を探すために十姉妹を飛ばすが、収穫がないと戻ってきた
入れ違いにならないように手紙を残しておく
カゴからイタチを出して匂いを追わせるとしよう、装備を整えて森に入っていく
「尾白、蠍か蜜蜂を探せ!」
「キュッ」
尾が白いイタチの
随分と骸骨を枝に吊るしてるな、ワザとか?
侵入者を拒むように見せかけて引き返さそうとしてるのか…
木の幹に真新しい引っ掻いたような傷跡があった
熊よりも大きな鍵爪?何なんだいったい
あれは、蜜蜂の使う飛び道具だ!
ここで戦闘行為が行われていたのか、蠍の鎌の跡らしき切り裂かれた枝も確認できた。
間違いない、ここで何者かと戦闘していたのだ
焦る気持ちを抑えて慎重に進む事15分ほど進んだ所に民家のようなボロ小屋が見えた。
尾白がその場でクルクルと回っている
足跡を見失った時にするサインだ
木の枝を飛び移り、小屋の周りの気配を探る…微かな息遣いも逃さぬよう神経を尖らせる
「ピュィ…」尾白を隠れさせて待機させる
小屋の中にゆっくりと入る…
何の変哲もないボロい小屋だが、違和感?
あっ炊事場が無いのに鍋が飾ってある、この家はダミー小屋だ!
その時かすかに風の音が聞こえた、壁の奥から?
尾白が何かを咥えて戻ってきた。
見ても、これが何かは全く解らない
その時、小屋の外から音がした
蜜蜂「蟷螂さん!ここヤバいです!変なのがいます!逃げましょう!」
蠍「リーダー、ありゃどう見てもゲンナイのジジイじゃねーよ!やべーよ!島の裏側は罪人共の廃村だったみてーだが、全滅してら…全部白骨してる」
蜜蜂「リーダーさんその鍵はどうしたんですか?」
「鍵?…蜜蜂にはこれが鍵に見えるのか?」
蠍「あぁん?」
蜜蜂「え、あ何となく鍵のように思えました。だって、あそこ鍵穴でしょう?ほらここ見て下さい」
蜜蜂が壁の何かの模様を指さした
鍵を持ったまま近づいて、触ると壁一面の模様が光っていた
蠍「蟷螂!お前のそれ!鍵も光ってるぜ!」
壁がまるでレンガが崩れるようにゴトゴトと開いていった
そこに地下に降りる階段が現れた
「どうやら調査が必要なようだな…注意を怠るな」
蠍が先頭を行く、一番小柄で足音が一番静かだからだ
ほとんど足音もたてずに階段をスルスル降りていく。
一番下についた時にパッと明かりがついた
ギクッとしたが、特に何もない
蠍「何もしてねぇ…扉もあかないが、この模様さっきの鍵と関係してるのか?」
鍵を持ったまま扉に触れようと近づく
触れる前に扉がウィーンと音をたてて開いた
蜜蜂「自動ドア?ゲンナイさん天才科学者だったから自分で作ったの?凄っ!」
「入るぞ…」
入ると廊下もパッと明かりがついた
左右に廊下が続いてる
入った所でドアがひとりでに閉まった…出る時は鍵は必要ないのか蠍が近づくと扉が開いた。
「私がここを見張る、蠍は右、蜜蜂は左、10分して戻らなければ蜜蜂から探しに行く」
10分後に左の廊下を進んでいく
蜜蜂は慎重だからすぐに追いつけると思った
案の定、3番目の部屋に蜜蜂がいた
「蜜蜂っ……」
「リーダーさん!水槽見て!あの子生きてますよ!」
薄濁った水の水槽に白い髪の女が浮いていた。
顔にマスクのようなものを繋がれていて呼吸がそこから出来ているのか
最初に視線がそこにいってしまったが、見たこともない機材に、怪しい薬品棚、実験器具がそこかしこに散らばっていた
「あ、あの子の目が開いた!リーダーさんあの子を助けましょう!」
円柱の水槽の上に登っても出口なんて見当たらない、そもそもどうして生きてるのだ?
どこから出せばいいのだ?
その時、サイレンがなった
蜜蜂「ヒャッ!?」
「何事だ?!」
遠くから蠍の声で「ヤバい!奴が来てる!蜜蜂!リーダー無事かぁ!?」
ガキン、ガキンと戦闘してる音も聞こえてきた
蜜蜂「蠍さん!」
バンッと勢いよく蠍が入ってきた
そのすぐ後ろから黒い鎧武者が入ってきたが
手が人間のそれではない!
森の巨大な鍵爪はコイツだったのか
"キョォォォ!"
不快な不協和音のような叫び声をあげて、私のいる水槽の方に飛びかかってくる
鋭い鍵爪がこちらに伸びてきた、思いの外素早く動いていたが蠍が鎖付の武器を投げて足を止めた
バキンと水槽が割れて中の水がドロリと流れ出てきた
そして、白い体が中の液体と一緒にズルんと流れ出てきた。
近くにいた蜜蜂か駆け寄る
蜜蜂「大丈夫か?」
「ゴボッゴバッゴホゴホ…ハァッゴホゴホハァハァ」
"キョォォォ!"
鎧武者が蜜蜂に向かって鍵爪を振り下ろした
間一髪の所で蜜蜂が女を抱いて横に飛び鍵爪から逃れた。
私も飛び道具を投げて応戦する
蠍が脇差しを抜いて斬りつけるがボロボロなはすなのに、鎧武者の鎧に傷1つつけられなかった
蠍の振った剣を掴んで蠍ごと壁に叩きつけた
「ぐはぁ!…くっ」
「逃げろ蠍!クソッ止まれぇー!」
鎧武者がビクッと一瞬止まってこちらを振り向いた。
鍵が光ってる!これが関係してるのか?
鍵をかざして「止まれ!」
鎧武者が一瞬動きを止めるが完全には止まらない!逃げる蠍を追いかけて鍵爪を振り下ろした!
女のかぼそい声で「前鬼やめろ」と聞こえた
振り向くと蜜蜂が肩を抱いて上半身をおこした女が薄めを開けながらえずいていた
女が「そこの人、タオルを取ってくれませんか?目が見えなくて…風呂に入りたい……」と言うと気を失って倒れた
黒い鎧武者は大人しくなり部屋から出ていったがすぐに戻ってきた。
その手にはタオルを持っていて、蜜蜂の前に置くとまた部屋から出ていった。
蠍「なぁ、ありゃ何だよ!
俺の村雨が刃こぼれしちまったじゃねーか!ふっざけんなよ!」
蜜蜂「それより、この子どうします?連れて帰っても……?」
蠍「あー、色々と問題あんじゃね?」
蠍の言う問題とは
・この罪人の島の住民は基本、島から出してはいけない事
・バレずに連れ出しても、上に報告義務があること
・上が処分を言い渡せばそれまで、運良く生かしたままでも、上に身柄を預ける可能性が高いこと
・忍びの里に連れて行くには結婚するしかない事
「得体のしれない気味悪い女だ…このまま捨て置け」
蜂蜜「……責任は僕が取ります!連れて帰りましょう」
蠍「責任って…最悪お前ごと処分かもしれねーぜ?それにこの島にいるってことはさ、この
「後者と前者では違うだろ…子どもに罪はない。生まれてくる腹は選べないからな」
蠍「リーダーがいいならいーんじゃね?俺知ぃーらね」
"あの、湯浴みの用意が出来ました"
バッと全員で振り返った
掠れた不協和音のような声が突如聞こえたが
近づかれた気配が無かったのだ
生き物なら出る息遣いや気配がほとんど感じられなかった
"あぁ寝ちゃってるんですね、起こします?とりあえずお風呂に入れて温めましょう。低体温症になりかけてます"
手招きしてる鎧武者
蜜蜂が女の体が冷たい事を気にしてか、タオルで巻いてまるで温めてるように抱きしめていた。
意を決して蜜蜂が女を抱いて立ち上がった、そして鎧武者の後ろをついて歩く
蠍「付いて行って大丈夫か?」
「女を捨てろと言った所で私達に勝ち目はないだろ…本音を言うなら今すぐ船に戻りたい」
蠍「無理じゃね?」
いくつか曲った先の扉を開けると登り階段があり、抜けたところに立派な温泉があった。
外につながっている!
蜜蜂が服のまま女を抱いて温泉に入り甲斐甲斐しく世話を焼きはじめた。
手酌で肩に湯をかけて溺れないように頭を支えている
女の抜けるような白い肌がだんだんと血色が良くなってきている
蠍が露天風呂から塀の外に飛ぶ
「波の音がする、外の様子をみてくる」
女がのぼせる前に風呂から出て
蜜蜂が鎧武者の持ってきた服に着替えるため更衣室に入った
女を見ておけと言われたがまだ起きないだろう
ガウンに包まれてるが血色の良くなった火照った肌に、ガウンからこぼれそうな胸が目に入ってしまう。
長いまつげに形が良い鼻筋、目を閉じててもわかる、この女は美しい顔だと
変な気がおこるとは思わないが、目を離してしまった。
その、一瞬のすきに女が起き上がっていた
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