第45話 事務員紹介となる
ディーノさんが帰ったあと、ボクとアリシアは彼の採用について話し合った。
「S級冒険者で、ケルベロス討伐にも貢献した人だから、能力的には申し分ないと思うけど――どうする?」
彼女にたずねると――
「はい、私もそう思います」という答えが返ってきた。
「ただ……」
ボクが言いづらそうにしているので、「どうしました?」と彼女が聞き返してきた。
「そのう……ちょっと、なれなれしいかなって」と、苦笑いする。
「まあ、そうですね」
アリシアも苦笑いするのだが――
「でも、決して悪い人ではないと思いますよ。ほら、イタリアの出身だと言ってましたし、きっとあれが異性に対しての礼儀なのですよ」
礼儀ねえ……確かにイタリア人というと、あんなイメージを持っていたけど――
「アリシアが気にしないというなら、ボクは構わないけど――」
「私は気にしませんよ。面白そうな方ですよね」
「――えっ?」
面白そう?
「はい、私はキライではないですよ」
そう笑顔で話す。
キライじゃないって、それじゃ、好きなタイプということ?
「私はイイと思いますが、あとはヒロトさんが判断していただければと思います」
うーん……正直、ああいう女たらしは性に合わないんだよなあ。だけど……
さすがに、自分の好き嫌いで人を雇ってはいけないし……なんて、思ってしまう。
「わかった。それじゃ明日、採用するって冒険者ギルドに話しをするね」
次の日、冒険者ギルドへディーノさんを採用すると伝えた。その足で、王都物産へ向かう。
もう一つの求人案件――発注、会計などをお願いする事務員の件がどうなったか、聞くためだ。
店の中に入って、従業員に若ダンナとお会いしたいと伝える。すると、さっそく彼が現れた。
「ちょうどヨカッタ! ヒロト君、実は条件の合う人が現れたんだ――」
「――えっ?」
ボクは店の事務室に招かれ、若ダンナから話を聞いた。
「女性なんだが、帝国のダルタール商会で働いていた経験があって、取引先との価格交渉や、会計をやっていたらしい」
ダルタール商会はダルタール帝国内でも一、二位を争う大商会。当然、ボクも知っている。
そんなところで、取引先との交渉をやってきて、会計のおぼえもあるのなら、たしかに、ボクの提示した条件にピッタリだ。
「だけどなあ――」と今度は悩ましげな表情になる若ダンナ。
「だけど?」
「実は――彼女、商会で働いていたという以外、年齢も出身も、商会を辞めて王国へ渡って来た理由さえも答えてくれなかったんだ」
「はあ……」とボクは気の抜けた返事をする。
年齢や出身地ばかりでなく、王国へやってきた理由も話さないというのは、なにか裏がありそう――と、考えてしまう。
「試しに、計算問題もいくつか出してみたんだけど、全て正解だった」
「――そうですか」
どうやら、会計をやっていたというのはウソじゃなさそうだ――そう、若ダンナも言っている。だが、やはり経歴を話してくれないのはやはり……とあまり浮かない顔だ。
「それと、もう一つ。帝国で働いていたというのも気になる」
「――と、いうのは?」
「帝国は
「――えっ?」
王国がケルベロスを討伐したことは帝国にも知れ渡っている。そして、それが魔盾によって成し遂げられたという情報も入っていることだろう。
そればかりでない。魔盾によって最近、王国内の魔物討伐速度が急速に上がっていて、魔石の流通量も増えている。魔剣などの材料となる魔石は国力にも影響するので、他国も気になることとなっていた。
大国である帝国としても、魔盾の製法をぜひとも入手したいと考えているはずだ――と、若ダンナは説明するのだった。
「――つまり、その女性は帝国のスパイかもしれない……ということですか?」
「まあ、帝国のスパイが『帝国から来た』なんて言わないだろうから、考えすぎかもしれないが……それでも、注意すべきだろう」
こういうタイミングで帝国から来ることじたい、疑ったほうがイイと言う。
しかし――
「だからといって、これを逃したら、今度いつ条件に見合う人が見つかるかもわからないし……」
ボクはその人と会って、話をしてみたいと、若ダンナにお願いしたのだった。
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