第44話 面接となる
さっそく、冒険者ギルドに求人を出していた、強化魔法ができる魔導士がやってきた。
「私はディーノ・クリオーネと申します。
黒髪、彫の深い顔はいかにもラテン系という感じ。つまり、かなり濃い。
「ディーノさんですね、ボクは一応、ここの責任者となっているヒロト・ニジカワです」
ボクは自己紹介して、彼と握手をする。それから、アリシアを呼んだ。
「こちらが強化魔法の使い手でボクの仕事を手伝ってくれている――」
「アリシア・リンです」
アリシアが自分の名前を相手に伝えて、スカートを摘まみながら頭を下げる。
「おお! なんと美しい! 白雪姫のようだ」
そう言ってディーノはひざまずき、アリシアの手を取る。
「――えっ?」
そして、手の甲にいきなりキスをした!
「なっ!」
思わずボクは声が出てしまう。
「あ、あのう、何を……」
アリシアも突然のことで面食らい。慌てて手を引っ込めた。
「これはすみません。あまりの美しさに心を奪われ、つい――」
つい……で、キスするのか?
「それで、このあと何をすればよろしいでしょうか?」
「あ……」
考えてみたら、タバサたちは成り行きで雇用した。なので、普通に求人して、応募してきた人は彼が初めてである。
さて、採用までにやることっていえば、やっぱり……
「えーと、それじゃ冒険者証の提示をお願いできますか?」
彼をテーブルに座らせ、ボクとアリシアが対応する。
つまり採用面接をすることにした。今まで面接をされる側しか経験したことがないボクは、面接する立場になって逆に緊張していた。
「これでイイでしょうか?」
そう言って、ディーノさんがカードを出す。いわゆる身分証で、異世界ファンタジーで良く出てくるモノとほとんど同じ。名前と職種、冒険者クラスが明記されている。
「えっ? 冒険者クラス、Sですか⁉ それじゃ、どこかのパーティに?」
冒険者クラスは十段階あり、一番上がSSになる。ただし、まだSSクラスの冒険者はいない。トップ勇者パーティのアーノルドさんもクラスS。つまり、彼は最上位の魔導士ということだ。
それだけ実績のある魔導士なら、トップクラスのパーティに所属していても不思議ではないのだが――
「いえ、私は決まったパーティには所属しておらず、フリーで活動してました。時々、他のパーティに助っ人で入ったりします。そういえば、ケルベロス討伐では、ブルズに加わって戦ったんですよ」
「えっ? ブルズの?」
一週間前、王都にウレシイ知らせが入った。北部、フーベル地方へ遠征していた王国軍が魔獣、ケルベロスを討伐し、フーベル地方を奪還したのだ。
王国が魔族軍から領土を奪い返したのはこれが初めてということで、大変な騒ぎだった。
ケルベロス討伐の要だった勇者パーティ、『ブルズ』と『
「ブルズのアーノルドさんからヒロトさんのことは何度も聞かされていました。とても素晴らしい盾職人だと」
「そうでしたか」
「はい、それでこの求人を見てすぐに決めました」
なるほどと思う。しかし、まだ気になる点が……
「それにしても、S級冒険者ほどの人が、どうして、盾作りに興味を?」
そんなことをしなくても、冒険者としてもっと稼ぎの良い仕事があるはずだ。
「はい、それは強化魔法のレベルを上げたいと考えてのことです」
彼は火、風、土、水、それぞれの属性魔法で第三位階までの攻撃魔法を習得したそうだ。
「しかし、強化魔法は攻撃魔法と比べ、レベル上げが大変なのです」
本来、魔道戦士の魔法である強化魔法だが、魔導士でもレベル三十になると強化魔法を習得できるようになる。しかし、強化魔法は味方がいないと発動しない。なので、攻撃魔法に比べ使う機会が少なく、そのため、レベルがなかなか上がらないそうだ。
「それでも、なんとか第二位階の強化魔法まで習得したのですが、それからが――」
そんな時に、魔石に強化魔法を封じ込めることを行うと、比較的容易に強化魔法のレベルが上がるという話を聞いたらしい。
「それで、そのような仕事を探していたときに、運よく、ヒロトさんのクエストを見かけたのです」
強化魔法のレベル上げができるうえに、報酬までもらえる。だから、迷わずクエストに応募したのだと言う。
確かにそれなら納得がいく。S級冒険者のレベル上げにも貢献できるのなら願ったりだ。
「ただ、私は魔石に魔法を封じ込みる作業をやったことがないので、それを教えていただけないといけません」
「それなら、アリシアが教えられると思います。どう?」
「はい、問題ないです」
すると、ディーノさんの顔がパッと明るくなった。
「それはありがたい! よろしくお願いします!」
身を乗り出して、アリシアの手を握る。
「は、はい――」
アリシアの頬かみるみる赤くなった。
彼女に対してなれなれしいので、ボクは少しムッとしてしまう。
「事情はよくわかりました。採用の可否については二、三日後までに冒険者ギルドに伝えますので、それまで待っていただけますでしょうか?」
事務的にそう伝えた。
「はい、わかりました。それでは連絡をお待ちしております」
ディーノさんはそう言って、礼儀正しいお辞儀を見せる。
「それではアリシアさん、一緒にお仕事をできる日を楽しみにしております」
彼女に向けて笑顔を見せると、彼は工房をあとにした。
「はあ……」とボクはため息をつく。
第二位階の強化魔法までできる魔導士――能力的には申し分ないのだけど……
なんか、モヤモヤした気分になるのだった。
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