第4話 エルフ♀がボクのベッドで寝ている……となる

 この世界には、エルフやドワーフ、獣人もいるらしい。『らしい』というのは、話を聞いたことがあるだけで、今まで見たことがなかったからだ。


 ボクの住むウィルハース王国の王都、ウィルハースシティの住民は人間が大多数。それ以外の人種はほとんど住んでいない。

 だから、エルフを見るのはこのコが初めてだった。


 透き通るような銀色の髪。真っ白な肌。頬がほのかにピンク色をしていて、美味しそうな白桃のようだ。そして、長いまつ毛――つまり、ものスゴい美少女でドキドキしてしまう――って、ちがーう! 今はそんなことを考えている場合じゃない!


「どこか痛いの? 医者に連れていけばイイ?」

「オ……」

 エルフの女の子が目を閉じたまま、そうつぶやく。

「……オ?」

「オナカが空いて……動けません……」

「……………………はい?」

 そのまま、彼女は気を失ってしまった。


 さすがに放置するわけにはいかず、自分の工房まで彼女を背負って運ぶ。そして、自分のベッドに寝かせた。そういえば、自分のベッドに女の子が寝ているなんて、この世界はもちろん、前の世界を含めても初めて――そう思うと、妙に緊張してしまう。


 寝息を立てているエルフを見て、ボクはため息をついた。

「オナカが空いていると言っていたよな……仕方ないか……」

 とうぶん起きそうもうないので、ボクは市場へ行きなおすことにした。



「あれ? ここは?」

 市場から戻ってくると、料理というにはそうな煮物を作る。出来上がったところで、女の子の声が聞こえた。鈴を鳴らしたような、カワイイ声だった。


「あ、起きた?」そう声をかける。

「えーと、あなたは?」

「ボクは虹川ヒロト。ここで盾職人をしている召喚人しょうかんびとだよ」

「えっ? 召喚人の方ですか?」


 この世界はもう一万人以上の召喚人がいる。王都でもかなりの人数が暮らしているのだが、それでも現地人に比べたら圧倒的に少ない。だから、こういう反応も慣れっこだ。


「えーと、キミの名前を聞いてもイイかな?」

 テーブルに料理を並べながら、そうたずねてみた。

「あ、スミマセン。アリシア・リンと言います。私も召喚人です」

「……えっ?」


 彼女も召喚人? しかし、それはオカシイ。

「あの……失礼だけど、キミはエルフだよね?」

「あ、はい。私、召喚のとき、女神様にエルフの姿にしてもらえないかとお願いしたんです」

「えっ? そんなお願いできたの?」

「はい。そうしたら『できますよぉ――』って……」


 しまった。そんなことだったら、自分もカッコイイ姿にしてもらえばよかった――って、いまさらそんなこと言っても仕方ない。


 ボクは彼女が路上に倒れていた経緯をたずねた。

 どうやら、男たちに何かされたわけではなく、空腹で気を失っていただけらしい。だから、男たちのことを彼女はおぼえていなかった。


 彼女を助けた時の状況を話すと――

「そ、そうだったのですか……それは、ご迷惑をおかけしまして――」

 すまなそうに頭を下げるエルフの女の子に、ボクは「気にしないで」と言う。


「――それで、どうして倒れるまで空腹だったの?」

 そう質問してみる。

「実は……働いていた魔法研究所をクビになってしまって……」

「えっ?」


 その時、彼女のオナカが鳴った。彼女の真っ白な顔が見る見る赤くなる。

「ハ、ハ、ハ……とりあえず、先に食べようか?」

「えっ? だけど……私、おカネとかなくて――」

 ボクは頭を横に振る。

「イイんだ。こういう時はみんなで助け合わないと――」

「で、ですけど――」


 そう躊躇ちゅうちょするのだが、またオナカが鳴ってしまう。

「ね? 遠慮しないで」

「ゴ、ゴメンナサイ……お言葉に甘えさせてもらいます……」

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