第3話 女の子を助けることとなる

 いかにもヤバそうな男二人の足元に女の子が倒れている。その会話にもヤバい単語が並んでいた。


 つまり、女の子はかなりマズい状況――ということは間違いない。

 さすがに放っておけないよなあ……


「そこで、なにをしているのですか?」

 ボクは男たちにそう声をかけた。

「はあ? 誰だテメエ?」

 いかにもモブが言いそうな言葉だ。


「その女の子をどうするつもりですか?」

 そう言いながら、彼らに近寄る。さて、これで逃げていってくれればイイのだけど……


「テメエの知ったこっちゃねえだろ? をどうしようとオレたちの勝手だ。わかったら、あっち行ってろ! イタイ目に遭いたいのか?」

 そういきがって、相手はボクの胸元を掴んできた。


 とか言っていたけど、どう意味だろう? まあ、それはあとでイイや。

「アナタたちは現地人げんちびとですよね?」

「はあ? テメエ、召喚人しょうかんびとかぁ?」

「まあ、そうですけど」とボクは応える。


 すると、男はニヤリとした。

「ならちょうどイイ。オレ、召喚人を一度殴ってみたかったんだよ」

 そんなことを言ってくる。


 召喚人はこの世界にやってきて、現地人を魔族や魔物から守っている。なので、大半の現地人は召喚人に対して好意的だ。しかし、『突然やってきて、善人ずらしている』召喚人をいけ好かないと思って、嫌っている現地人も少なくない。


 しかし九割近くが冒険者など戦闘職である召喚人に、手を出そうという現地人は滅多にいないのだが……


「その身なり――テメエ、非戦闘職だよな?」

 どうやら、職人が普段着ている麻生地の服を見て、そう思ったらしい。まあ、見た目が貧弱で、顔も大人しそうなので、昔からよくナメられていたんだけど……


「あのう……やめておいたほうがイイですよ」

 一応、忠告した。

「ハッ! いまさら、遅えんだよ!」

 男はボクの頬を狙って、拳を振り下ろしてきた。


 バゴッ!


「イテェェッ!」

 そう悲鳴をあげたのは男のほうだった。殴った拳を抱きかかえ、うずくまった。だから言わんこっちゃない……ボクはため息をつく。

「テ、テメエ! なにしやがった⁉」

 もう一人の男が驚きながら、そう言ってくる。


「なにもしてないよ」

「ふざけるな! なら、なんで殴ったほうがダメージを受けるんだ⁉」

「それが、レベル差だよ」


 この世界、召喚人と現地人にはいろいろと違いがある。一番の違いはレベルアップ。召喚人はレベルアップという能力を持っているが、現地人にはそれがない。戦闘職だと、レベル十を超えるころには、現地人とは比べモノにならないほどの身体能力を有することになる。


「テ、テメエ、戦闘職だったんだな? そんな一般人みたいな恰好で、ダマしやがって!」

「いや、ボクは盾職人だよ」

「――えっ?」


 この半年、ボクは愚直に盾職人として盾を作り続け、レベルアップに精を出した。獲得経験値十倍の特典もあったし、短期間でレベルアップした。今のレベルは七十二。召喚人の中でも、かなりの高レベルになっているはずだ。


 生産系職は、戦闘をしても経験値が入らない。だから戦闘スキルのレベルが上がらなかったりするんだけど、生産によりレベルが上がると、身体パラメータもそれなりに高くなる。だから並みの現地人だと、ボクの防御力が高すぎて、素手で殴ると自分のダメージのほうが大きい。ブロック塀を殴るようなものだ。


「ち、チクショー! おぼえとけ!」

 そう言って、男たちは逃げていった。うーん、この歳になって初めて『捨てセリフ』というモノを生で聞いてしまった。


 まあ、そんなことはどうでもイイとして――

 ボクは女の子に近寄る。


「キミ、大丈夫か?」

 カラダを抱き上げ起こす。その時、長い耳が目に入った。


 こ、このコ、エルフだ!

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