第5話 二人で食事となる

 彼女をテーブルに座らせ、パンと煮物が入った器を置いた。


「こんなモノしかないけど」

 そう言って、ボクも向かいの席に座る。


「そんなことはないです。いただきます」

 エルフの女の子は煮物を口にすると、なにか吹っ切れたように無我夢中で食べ始めた。よっぽどオナカが空いていたんだな。


「どのくらい食べてなかったの?」

 彼女は口に食べ物が入ったまま、「かれこれ三日は――」と声にする。


「三日も⁉ ねえ、よかったら、どうして研究所をクビになったのか、訊かせてもらえる?」

 そう言うと、彼女の動きが止まった。


「あ、ゴメン! 話したくないなら、話さなくても……」

「い、いえ、そういうわけではないのですが……」

 スプーンを置いて、続きを話してくれた。内容はこうだ。


 彼女は召喚されたとき、強化魔法が使える魔導剣士を選んだそうだ。しかし、いざダンジョンに行くと魔物が怖くて、逃げて帰ってきたらしい。

「それ以来、私は戦ったことがないのです……」


 運よく、魔法研究所の人を紹介されて、そのまま研究所で強化魔法の研究をしていたそうだが……

「私を雇ってくれた研究所の所長さんが戦地に招へいされて、先週、新しい所長さんがやってきたのです。そしたら、私を見るなり『に与える席はない』と言われて――」

 いきなり解雇を通達してきたらしい。


 亜人――? それって獣人とか、別の動物の特徴を持った人種のことをいうのでは――?


「この世界では、エルフも亜人に分類されるそうなんです」

「そ、そうなんだ……」


 この国でも、今の王様になってから、亜人にも人権を与える法律ができたと聞いている。

 しかし、亜人を差別する現地人げんちびとは今も多いらしい。研究所でもそういう人からイジメられていた――そう彼女は話す。


「それでも、前の所長さんが私をかばってくれたんです。だから、表立ってイジメられることはなかったので、なんとかやっていけたのですが……」

 所長が交代したとたん、アリシアは研究所から追い出された——ということだ。


「ひどい……エルフというだけで……」

 召喚されるときに、エルフの姿にしてもらったせいで、そんな仕打ちに遭ってしまうとは……

「仕方ないんです。私がちゃんと確認しなかったから……」

 そうかも知れないけど……


 ボクも女神の勧めるがまま盾職人になって、今、とても苦労している。

 確かに、選ぶのは自己責任なんだけど、それで一生が決まってしまうのは、なんか納得ができない。


 自分も同じような立場だから、彼女のはとてもわかる。なんとか助けてあげたいと思うのだが、いったいどうすれば……


 その時、彼女が頭を下げてきた。

「あの……ぶしつけですけど、今日、ココに泊まらせてもらえないでしょうか?」

「――えっ?」

 ココに泊まる⁉


「だ、だけど、この家、ボク一人だよ。その……男の家に泊まるのは……」

「ダメでしょうか?」

 上目遣いで聞いてくる。そんな顔をされても……


「ダメって……ボクは構わないけど……そうじゃなくて、初対面の男の家に泊まるのはさすがにイヤなんじゃ……」


 慌てるボクに、彼女は「私、エルフですよ?」と不思議そうな顔をする。


「それって、どういう……」

「私は床の上でも寝れますので、場所だけ貸していただければ――」


 一文無しで、他に泊まるアテもないから……と、頭を何度も下げられた。


「そ、そんなことを言われても、倉庫は荷物で寝れる場所なんてないし……あとはこの部屋と工房しかないよ」


「一緒の部屋じゃイヤでしたら、私は工房でも大丈夫です」

 いやいや、工房は土間なので、さすがにそんなのところで寝させるわけには――


「そ、それじゃ、ボクのベッドを使って」


 前にアーノルドさんからもらったブラックタイガーの毛皮が倉庫にあったはずだから、自分はその上に寝ると言うと――


「いえ、ヒロトさんはベッドで寝てください。私にその毛皮を貸していただければ、それで充分です」


 結局、アリシアに押し切られる形で、彼女が床で、ボクがベッドで寝ることになった。

 食事を済ませ片づけを終えると、もう寝る時間となる。


 しかし、よく考えたら女の子と一緒の部屋で寝ていることも初めての経験である。彼女はよっぽど疲れていたのか、毛皮にくるまるとすぐに寝息を立て始めるのだが――


 ど、どうしよう……やっぱり、意識しちゃうよ……ね、眠れない……

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