第6話 エプロン姿となる
結局、なかなか寝付けず、明け方近くになってやっとうとうとして……
「はっ! 寝坊した!」
慌ててベッドから起き上がる。すると、とてもイイにおいがした。
「あ、ヒロトさん、おはようございます」
そんな声が聞こえたので、そちらを向くと――
「どうしたのですか? そんな顔をして?」
そこに天使がいた。
いや、それは大げさだが、エプロン姿のアリシアが大きなスプーンを持って微笑んでいる。その姿に見とれてしまった。
「えっ? いや、なんでもない……それはともかく、なぜエプロンをしているの?」
「あっ、ごめんなさい。勝手にお借りしてました」
それは構わないけど……いったい、何のために? それにしても、イイにおいが――
「はい、一晩泊めていただいたお礼に、朝食をお作りしました」
朝食を⁉
「そんなことをしてもらわなくても――」
「いえ、私ができることは、これくらいしかないので……」
そう言いながら、パンとシチューを入れたお皿をテーブルに並べる。
「そのう、お口に合うかわかりませんが……」
匂いにさそわれて、ボクはテーブルに座る。そしてさっそく、シチューを口にした。
「うまい!」
自分が作る料理とは比べモノにもならない! こんなに美味しい料理を食べるのはひさしぶりだ。
「そうですか。よかったぁ」
そう微笑むアリシアは本当に天使のようだった。少し意識してしまう。
「う、うん、こんなに美味しい料理を作ってくれてありがとう! アリシアも食べなよ」
「私はイイです」
「えっ? なんで?」
アリシアはうつむくと、「昨日もごちそうしてもらいましたし、今日もいただくわけには――」と申し訳なさそうに言う。
「そんな……アリシアも食べて!」
一人で食べるより二人のほうがずっと美味しくなる! そう、彼女に伝える。
「本当にイイのですか?」
ボクは「もちろん!」と応えた。
「ですけど――」
「ボクはキミと一緒に食事がしたいんだ」
「――えっ?」
自分で言って恥ずかしくなるのだが、もう口に出してしまった言葉は戻らない。
「あ、ありがとうございます」
彼女はうつむき、真っ白な肌はほんのり赤くなった。
それから、自分の分のシチューもテーブルに並べたアリシアが席に座ると、「いただきます」と言って食べ始める。
「おいしい!」
よろこんで食べているアリシアを見ると、自分もうれしくなる。まあ、作ったのはアリシア本人なんだけど……
「ところで、アリシアはこれからどうするつもりなの?」
そうたずねると、彼女の顔色が急にくもる。
「はい……もう一度、ダンジョンに行って、狩りをしてみようかと……」
ひととおりの強化魔法はできるので、それを使ってなんとか狩りを続けるつもりだと言う。
「そう……ところで、どんな強化魔法ができるの?」
自分は生産系のジョブなので、戦いの経験はほとんどないのだけど、何かアドバイスできないか――なんて考える。
「えっ? そうですね、防御力強化や攻撃力強化、俊敏性強化魔法も使えます」
それぞれ、魔法には
「第三位階⁉ それはスゴい! トップクラスのパーティーメンバー並みじゃないか!」
以前、アーノルドさんから、彼のパーティーにいる魔導士が第三位階の火属性魔法を習得したと、自慢していたのを思い出した。それにしても――
「戦闘経験もないのに、どうしてそこまでレベルを上げられたの?」
「私は魔法研究所で魔石に強化魔法を封じ込める仕事をしていたので……」
「えっ? 魔石に魔法を封じ込める?」
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