第42話 デートとなる

 ボクはさっそく、王都物産の若ダンナと相談する。

「すみません、発注、会計のデキる人を紹介してもらえませんか?」

 すると、若ダンナは、「うーん……」とうなる。


「実はウチも、召喚人しょうかんびと相手の商売が増えて、増員のための求人を出しているんだけど、なかなかそれに似合う人材がいなくてねぇ」


「はあ……」とボクはため息をつく。


「しかし、ここはヒロト名人マイスター・ヒロトからの頼みだ。イイ人がいたら、真っ先に紹介することにしよう」


 若ダンナがそう言ってくれたので、「ありがとうございます!」と何度も頭を下げた。


「工房の家事を手伝ってもらう使用人の件は王室侍従長と相談するようにと、皇太子殿下が言っていたよな……あとは、魔導士か……」


 ボクは外出用の服に着替え終えると、工房で仕事をしていたサムさんやボブさんに「ちょっと、出かけてくる」と声をかけた。


「ヒロトさん、お出かけですか?」

 これから外に出ようとしたところで、アリシアが話しかけてきた。

「うん、そうだけど?」

「それなら、私も一緒に行きます。ちょうど、市場にお買い物したいと思っていました」


 家事もお仕事もこなして、いそがしいのに、そのうえ買い物まで……なんか、申し訳ないので、ボクが用事のついでに市場へ寄っていくと言うと――


「二人で行ってきてください」

 そう、ボブが声をかける。

「いや、だけど――」


 すると、サムとジャックも――

「そのほうが、気分転換になってイイですぜ」

「アッシもそう思っていたところでした。ぜひ、デートしてきてくだせえ」


「デ、デート⁉」

 ボクはデートという言葉を意識して、慌ててしまう。


「そ、そうですよね。私と一緒に歩きたくないですよね……スミマセン。気が付かなくて……」


 アリシアがうつむいてしまったので、なおさら慌ててします。


「そ、そうじゃないから! そ、そのう――それじゃ、一緒に行こうか? いや、一緒に行こう!」

 思わず、そんなことを言ってしまう。


 アリシアはほほ笑んで「はい!」と応えてくれた。



 そんなボクたちを見て、盾職人の山にはニヤニヤしていた。ボクはなんか照れくさくなる。


「アリシアおねえちゃん、ヒロトおにいちゃん。いってらっしゃい。ボクたち、おるすばんしてます」


 タローとサリアがお行儀よく頭を下げる。とってもイイ子たちだ。


「おう、おみやげヨロシクな!」

 タバサがそれを言うな!


 ということで、久しぶりにアリシアと二人でお出かけする。デートなんて言われたもんだから、ヘンに意識して、なんかぎこちない歩き方になっているのが、自分でもわかった。


「それで、ヒロトさんはどちらへ行かれるのですか?」

「あ、ああ――冒険者ギルドだよ」


 魔物の敵意を引き付ける強化魔法が使える魔導士を募集するのだと説明した。それと、工房の家事全般を任せられる使用人も雇うつもりだとも言う。


 よろこんでくれるのかと思ったのが、アリシアは浮かない顔だ。


「ごめんなさい……私がお役に立てないばかりに――」

「えっ? ち、違うよ! その逆! アリシアが頑張り過ぎているから、少しでも負担を減らしてあげようと……」


 まさか、そんなふうに誤解してしまうなんて思わなったので、ボクは慌てて否定した。


「……ありがとうございます」


 アリシアはそう言ってほほ笑んでくれたが、やっぱり気にしてしまったようだ。

 どうしよう……



 そのまま、ろくに会話もできず冒険者ギルドの前に来てしまった。

「それじゃ、ボクはクエストを頼みに行ってくるから」

「はい、私は市場へ行きますね」


 結局、それで別行動となってしまった。



「はあ……ボクは何をしているんだよ」


 せっかく、ひさしぶりに二人きりになったというのに、逆に気まずくなってしまった。



 クエストの申請は思っていたより早く受理され、ボクはギルドを出た。

 今ならまだ、アリシアは買い物中かもしれない――そう思って、急ぎ市場に向かった。


 市場はものスゴい人で、小柄なアリシアはなかなか見つからない。結局、場内を二周したがアリシアに合えなかった。


「もう、帰ったのかもしれないな……」


 そう思い、市場を出た。すると、入り口の路上で小物を広げていた露店の前でアリシアが座っているのが見えた。なにか、商品を見ているようだ。


 そおっと近づく。アリシアが見ていたのは、彼女の髪の色と同じ銀色のバラを模した髪飾りだった。


「それ、気に入った?」


 ボクがそう言うと、アリシアはびっくりした顔でボクを見た。


「ヒロトさん、いらしたのですか?」


 ちょうど今、アリシアを見つけて声をかけたんだと話す。


「そうでしたか、それでは帰りましょう」

 そう言って、彼女は立った。


「それ、買わないの?」とボクがたずねると――

「はい、私には似合いませんから……」と彼女はニッコリする。



 そのまま露店を離れて、ボクたちは帰り道を歩いた。

 でも、やっぱり気になる――


「アリシア、ちょっと待ってて!」

「あ、はい……どうしたんですか?」


 ボクは「すぐに戻る」と言って、来た道を引き返す。そして、さっきの露店にやってきた。


「オジサン、それ――」



 急ぎ戻ってくると、アリシアは「用は済みましたか?」とたずねるので、「うん」と返事をする。


「アリシア、これ」

 そう言って、小さな袋を彼女に渡した。


「――これは?」

「ボクからのプレゼント。開けてみて?」

「――えっ?」


 彼女は袋から銀の薔薇ばらの髪飾りを取り出す。


「ぜったい、アリシアの髪に似合うと思うよ」

 ボクはそう言ってあげた。


「ありがとうございます……大事にします」

 少しうるんだ目で、彼女はお礼を言ってくれた。


 なんか、あまり話せなかったけど、ちょっとだけデートっぽくなったのだろか……

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