第39話 お頭(かしら)となる

 昼食のあと、ボクは武器屋へ向かった。工房を引っ越したので、その連絡である。


「オヤジさん、こんにちは。今日は連絡があってきました」

「ヒロト君! ちょうどイイ時に来てくれた!」

「――えっ?」


 武器屋に入ると、イカツイ顔の男たちがボクを囲んだ。

「オマエがヒロトか?」

「えーと……あなた方は?」


 人数は三人。カラダも大きい。そんな男たちがボクをにらむので、命の危険さえ感じてしまう。

「オマエに話がある」

 そう言うので、ボクは息を飲む。身なりから現地人げんちびとの職人のようだが、いったい、何の用だ?

 彼らにうらまれるようなことをした記憶はない。そもそも、彼らは誰だ?


 すると、突然、三人とも床に座るではないか!

「――えっ?」

 そして土下座ずる。


 な、何が起きているんだ⁉


「たのむ! オレたちに魔盾まじゅんの作り方を教えてくれ!」

「――へっ?」


 まだ状況が把握できないのだが、これじゃ他のお客さんに迷惑になってしまう。彼らを立たせて、空いている席に移動してから、話を聞くことにした。


 彼らは現地人の盾職人だと教えてもらった。やはり、冒険者の間で広まった魔盾ブームで、普通の盾が売れなくなり、このままでは廃業しなければならない――というところまで、追い込まれてしまっていたようだ。


「そしたら、タバサがオマエに弟子入りしたと言うじゃないか⁉ それならオレたちも――ということになったんだ」


 しかし、前の工房に行ったら、すでに。慌てて、武器屋にボクの所在を聞きに来たらしい。


「たのむ! 俺たちもオマエの……いや、ヒロト名人のところで働かせてくれ!」

「ボクのところで働かせてくれって……まいったなぁ……」


 自分より一回り以上年配と思われる人にそう言われても……と、ボクは頭を抱えた。


「ヒロト君、ウチからもたのむ。魔盾の引き合いが増えていくばっかりなんだ。ニセモノも出まわって、みんな混乱している」

「えっ? ニセモノ⁉」


需要に対し供給が極端に不足すると、ニセモノが現れ、ホンモノの評判まで落ちてしまう――そういう事態になりかねない。

 供給を安定して、適正価格にならないと、今後もっと大変な騒ぎになってしまう――武器屋のオヤジはそれを懸念しているという。


「うん、そういうことならわかりました。みなさんに盾作りをお願いします」


 ボクがそう応えると、盾職人の三人が喜んで互いの肩をたたき合う。


「だけど、ボクが満足できる盾でなければ受け取らない。それでイイですか?」

 三人ともそれでイイと言う。


「まかせとけ! ちゃんとした材料さえあれば、オレたちだってイイ盾を作れるさ!」

「ああ! タバサが作る盾よりもイイモノを作るぞ!」


 タバサより……と言われて、期待してイイのか、その程度なのかと落胆したほうがイイのか……いったい、どっちなんだろうと、ボクは苦笑いするのだった。


「それで、ヒロト君の工房はどこに行ったんだ?」

 武器屋のオヤジに言われて、「そうだった」と元々の用事を思い出す。


「オヤジさん。これを」

 そう言って、王宮内の工房入出許可証を渡した。


「ヒロト君! 王室のお抱え職人になったのかね⁉」


 武器屋のオヤジは目を丸くする。盾職人の三人も慌てた。

「王宮の中だなんて、オレたち入れないんじゃ……」


 そこは、ボクが交渉すると伝えた。


「王宮といっても、敷地のすみっこだし、王室の人が住む宮殿とは別の建屋だから……」

 武器屋のオヤジのように、入出許可証を発行してもらえるはずだ。


「おかしら、わかりましたぜ」

「お頭⁉」

「おうよ! オレたちの雇い主なんだから、これからは『お頭』と呼ばしてもらいます」

「は、はあ……」


 また、呼び名が増えてしまった……

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