第38話 家族となる

 翌日、タバサたち三人も王宮の工房に移り住む許可をもらったので、さっそく、引っ越しを準備を始めた。とはいっても、必要なのは盾作りに必要な工具類と、生活品くらい。それも、王宮の使用人が荷馬車を出して運んでくれたので、一回でほとんどの荷物が運べてしまった。

 あとは、倉庫にある荷物くらいだが、それは急ぎではないので、時間に余裕ができたら運んでくればイイ。


「うわぁ――」

 タバサ、タロー、サリアが新しい工房の中に入ると、その広さに口を開けて呆然ぼうぜんとしていた。


「ここが、ボクたちのになるの?」

 タローがまだ信じられないという顔で言うので、「そうだよ」とボクは言ってあげた。


 吹き抜けの大広間から螺旋らせん階段で二階に上がる。一番奥の比較的大きな部屋をタバサたちが使うように決めた。


「ここにベッドを三つ――一つは二段ベッドがイイかな?」

 ボクがそう言うと、タバサが「ベッドなんて持ってないぞ」と言い返す。

「買うんだよ。これから」

「――えっ?」


 びっくりするタバサ。「そんなおカネなんてない」と言う。

「ボクからのプレゼントだよ。まあ、その分、お仕事をがんばってもらうけどね」

 さっそく、午後から買いに行こうと言った。


 ベッドで寝られるとはしゃぐ三人を見るとなんかほほ笑ましい。


「それで、ボクがこの部屋で、こっちの部屋がアリシアでイイかな?」

 アリシアが「はい!」と嬉しそうに返事をした。


 するとなぜかタバサが不思議そうな顔をする。

「――? タバサ、どうしたの?」

「なぜ、二人は別々の部屋なんだ?」

「――えっ?」


「夫婦は一緒に寝るモノだろ?」

「なっ!」

 ボクとアリシアは二人一緒に変な声をあげてしまった。


「ち、違う! ボクたちはそういう仲じゃないから!」

 ボクは慌てて否定する。アリシアは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった……


「そうなのか? ならなぜ、二人は一緒に住んでいるんだ?」

「――えっ?」

 いきなりそう言われて、なんて応えればイイのか困ってしまう。

「えーと……」


 ボクはアリシアと一緒に住むことになった経緯を話した。

「ふーん。つまり、ヒロトはアリシアを拾った――ということだな?」

 拾った……って、子猫みたいに――まあ、そうなのかもしれないけど……

「それじゃ、ボクとサリアと同じだね」とタローが言った。

「えっ? それってどういう――?」


 タローもサリアも身寄りのない子供だったのをタバサの父親が連れてきて一緒に住むことになったそうだ。

「そう……だったんだ」

 タバサも孤児だったそうで、三人とも血のつながりはないらしい。

 彼女たちもいろいろ苦労したんだな――


「よし! それじゃ、引っ越しのお祝いにお昼は美味しいモノを食べよう!」


 まだ、荷物の整理中だったが、みんなで市場に行って、ひとりひとり食べたいモノを買ってきた。

 そして、丸く白い新品のテーブルに五人がそれぞれ座り、たくさん並べられた料理を見て、目を輝かせる。


「なんか、家族ができたようで、ウレシイです!」

 アリシアが満面の笑みを見せる。

 家族――? うん、そうだね。

「それじゃ、家族新しい門出を祝って、かんぱーい!」

 みんな、それぞれの飲み物を手にして、「かんぱい!」と声をあげる。


 こうして長い間、ひとり暮らしだったボクは、たった一ヵ月で五人という大所帯の家族を持つことになった。

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