第37話 内見となる

 シャルロット殿下とジェシカさんが持ってきたお話を詳しく聞くために、ボクとアリシアは王宮へ向かった。



「この工房は彫刻師の名人マイスターが使っていたのだが、先月で引退して田舎へ帰ってしまったんだ」


 スチュワート殿下が直々に工房を案内してくれた。

 前の人が残していった家具や備品の処理や清掃が終了したばかりらしい。



「ここをボクたちに貸していただけると?」


 ボクとアリシアは顔を見合わせる。工房というより小さなお屋敷だった。部屋の数はざっと見ただけでも十を超えており、前の人がアトリエとして使っていたという大広間は、二、三十人ほどのパーティーが開けるくらい広い。


「あのう……ちょっと、大きすぎませんか?」

 アリシアが恐縮しながらスチュワート殿下に申し上げる。


「なに、大きいことに越したことはない。もちろん家賃は取らないよ」

「家賃を払わなくてもいいのですか?」


 ここは、王室が支援する芸術家の工房だから、その経費は王室から出されるそうだ。


「掃除が面倒だというのなら、使用人を雇えばいい。その給料も王室の経費から出してあげよう」

「えっ? 使用人のお給料も⁉」


「つまり、二人は王室お抱えの職人になるということだ」

「えっ? 王室お抱え⁉」



 いままで王室が支援してきたのは、彫刻や絵画、それに音楽家のような芸術家ばかりだった。武器に関わる職人を王宮の工房に招き入れたことは、今までなかったらしい。つまり、ヒロトたちが初めて王室が抱える職人となるわけだ。


「まあ、それだけヒロト君たちがこの王国にとって重要な人物だと判断してのことなのだよ」


 魔盾まじゅんのウワサは既に他国まで及んでいる。おそらく魔族にも知られたことだろう。魔盾の情報を盗もうとする他国の諜報ちょうほう員や、ヒロトたちのいのちを狙ってくる者もいるかもしれない――そう、スチュワートは説明した。


「ボ、ボクたちの命を⁉」

「実際に、キミ達の工房近くで不穏な人物を見かけたと、見回っていた衛兵から連絡があった」

「は、はあ……」


 きっと、それはタバサのことだな……ボクは苦笑いする。


「という事情もあって、キミ達には一刻も早く、こちらへ移り住んでほしい」


 皇太子殿下にそう言われ、もはや断ることもできなくなったボクたち。だからといって、こんなに大きな工房を二人で住むなんて……


 そのとき、ボクは「はっ――」と思い、アリシアに耳元で話しかけた。


「えっ?」

 アリシアは最初、おどろいた表情をしたが、「それはイイ考えだと思います!」と笑顔で言ってくれた。だから、ボクは殿下にあるお願いをする。


「実は、今日から一緒に仕事をしてくれる人たちができたんです。その人たちも一緒に住んでもいいですか?」

 もちろん、タバサたちのことだ。


「うーん。まずはその人たちの素性を確認してからになるな……」


 スチュワート殿下は悩ましい表情を見せる。なので、ボクは一緒にいたシャルロット殿下とジェシカさんに、タバサたちのことを説明してほしいと頼んだ。


「そうか……話はわかったが、やはり陛下と宰相の許可を取ってからになるな」

 まあ多分、大丈夫だという話を殿下がしてくれたので、ボクたちは大よろこびする。


「それじゃ、さっそく帰って、タバサたちの考えを聞くことにしよう!」

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