第36話 食卓を囲むこととなる

 十分後、タバサは二人の弟妹を連れて戻ってきた。ああいう姉だから、どれだけやんちゃな子供たちが来るのかと身構えていたのだが……


「ヒロトさん、アリシアさん。タ、タローといいます」

「サリアです。よ、よろしくおねがいします」

 弟のタローが六歳、サリアは四歳と自己紹介した。そんな年齢とは思えないほど、とてもお行儀の良い弟たちである。

「どうだ? オレに似て、とてもしっかりした弟妹だろ?」

 タバサが自慢げな表情をするので、ボクとアリシアはどんな顔をすればイイのか悩んだ。


 それから五人でテーブルを囲み、昼食を楽しむ。三人ともアリシアの料理に感動してくれたので、連れてきてもらってヨカッタと思う。


 食事のあとは、ボクとタバサは作業に戻り、アリシアは二人の子供たちを一緒に食事の後片付けを始めた。それも一段落したというとき、外にまた王室の馬車が停まる。どうやらもう一人、うるさい子供……もとい、美しいお姫様がやってきたようだ。


「アリシア! 遊びにきたぞ!」


 相変わらず、大人びたしゃべり方でシャルロット殿下が工房に入ってくると、ボクの顔を見るや否や――

「ヒロトよ、今日は二人に良い知らせを持ってきてやったぞ!」

 そう、エラそうに声をあげる。


 良い知らせ?


「ヒロト師匠、誰だ? あの小生意気なピンクのドレスを着た子供は?」


 タバサが耳元でそんなことをささやく。ボクが「シャルロット殿下だよ」と伝えると――


「えっ? で、殿下⁉」


 急にカチカチに固まってしまった。まあ、王女様がいきなり前に現れたらそうなるよな……


「ん? なんじゃ、そいつは?」

 シャルロットがタバサに気づきそうたずねるので、ボクはタバサを紹介する。


「お、おはつにお、お目にかかりましゅ……タ、タバサともうしましゅ」


 あのタバサがしおらしく頭を下げる。いくら、敬語になれていないからって、かみまくりだぞ?


「――なるほど、ヒロトの弟子か。では、オマエもわらわの下僕として名を連ねることをゆるす。これからもハゲめ」

「あ、ありがとございます!」

 そう、ウレシそうに返事をした。


 なんか、ボクの弟子になっているし……いくら相手が殿下だからって、下僕だぞ? よろこぶことかぁ?


「これは殿下。おひさしぶりです」


 食器の片づけが終わったアリシアが工房にやってきて、シャルロットに挨拶あいさつする。おひさしぶりと言ったのは、この三日ほど殿下はココに来てなかったからだ。


「ひさしぶりじゃなアリシア。会いたかったぞ……ん? その者は誰じゃ?」


 アリシアにピッタリくっついていたタローとサリアに気づいたシャルロット。アリシアが二人を紹介する。


「タローです。お目にかかれてこ、こうえいです」

「サリアです。でんか――」


 二人ともあわててひざまずき、シャルロットに挨拶をする。緊張はしているが、六歳と四歳とは思えない、しっかりした対応だった。


「そうか、タローとサリア。二人とも苦しゅうないぞ。妾のことはシャルロットと呼ぶが良い」


 ん? なんかボクよりこの二人のほうが待遇がイイぞ。ボクなんか、いまだ『下僕』あつかいなのに……


「タロー、サリア。決して殿下に失礼がないよう――だぞ」

 そう言うタバサのほうが、ボクは心配だ。



 不意に――

「それで、ヒロト。今日はそなたに話があって来た」

 気配もないまま、誰かに耳元でささやかれる。ボクは慌てた。

「うわっ! ジェシカさん⁉」

 シャルロット殿下の付き人、ジェシカさんである。実は彼女も召喚人しょうかんびとだと最近知った。ジョブはなんと忍者らしい――そんなのもあったとは……それはともかく、話とは?


「王宮の敷地内にある工房がひとつ空いたので、二人に貸し与えることとなった。今日は、それを伝えにきた」


「――えっ?」

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