第35話 師匠となる

 ボクが指定した時間ちょうどにタバサは工房へ姿を現した。自分の工具もひととおり持ってきている。

 その意気込みは買ってあげてもイイ。


師匠ししょう! よろしくお願いします!」

 師匠って……まあイイか……


 ボクは彼女の前に、材料と作ってほしい盾の見本を置いた。

「これと同じものを作ってほしいのだけど、イイ?」

「わかりました! 師匠!」

 返事はとてもイイのだけど……

「そのう……師匠っていうのはやめてくれる?」

「わかりました! ではなんとお呼びすれば?」

「ふつうにヒロトでいいよ」

「わかりました! ヒロト!」

 ……まあ、いいか。


 それからは自分の仕事を始めて――一時間ほどたったころ。

「ヒロト師匠! できました!」

「えっ? もう?」

 意外と腕が立つのだろうか? そう思って、できあがった盾を見ると――

「うっ……」

 ちょっと絶句する。まあ、一応カタチにはなっているのだけど……


「あのさタバサ、ここのくぎの位置が違っているよ。あと、ここも金具から木材がはみ出している」

 

 ボクが指摘した部分をタバサはのぞき見る。

「なるほど! そうか! もう一度やってみる!」

 そう元気な返事が返ってきた。

「あと、全体的にカンナかけが足りない。それじゃ毛羽立って、その部分から割れたり、腐ったりしちゃうよ」

「わかった! やってみる!」

 まあ、注意したところを素直に受け入れてもらえるのは、とてもありがたいことだ。


 真剣な顔つきで作業を続けるタバサを見て、「ふう……」と、ため息をついた。


「タバサさんの腕前はどうですか?」

 アリシアが心配して、ボクに話しかけてきた。

「うん、まだ荒っぽいけど、作業は速いし、なにより真面目に取り組んでくれているから、結構早く、仕事を任せられるかも」

 ボクがそう言うと、「それはよかったですね!」とアリシアもウレシそうだった。


 それからも、何度かやり直してもらったりしていると、しだいにイイ出来になってきた。父親の仕事を手伝っていたことはある。

 気が付けばお昼になっていた。


「ごはんの用意ができましたよ」

 アリシアの声が聞こえてきた。

「タバサさんも一緒に食べませんか?」

「――えっ?」


 おどろくタバサをボクは手招きする。

「アリシアの料理はとてもオイシイよ」

 そう言うと、アリシアはテレた顔をする。

「オレもイイのか?」

 そう言って、恐る恐る近づくタバサ。料理を見て喉を鳴らしていた。


「ほら、席に座って」

 そううながすのだけど、なぜかタバサは座ろうとしない。そして、急にこんなことを言いだす。

「この料理、持ち帰ってイイか?」

「えっ?」

 アリシアと一緒におどろいてしまう。持ち帰る?

「弟たちにこの料理、食べさせてあげたい」


 タバサとその弟妹は、朝、昼、晩、パンとミルクだけなのだそうだ。

「そうか……それじゃ、ココに呼んだらどう?」

 ボクがそう提案すると、タバサはびっくりした表情を見せる。

「イイのか?」


 アリシアに「まだ料理ある?」とたずねると、「はい、ありますよ」とニッコリされる。

「だそうだよ。呼んできなよ」

 ボクがそう言うと、タバサはよろこんで「それじゃ、連れてくる!」と工房を飛び出して行った。


「ハ、ハ、ハ――なんか、にぎやかになりそうだね?」

 アリシアも、「はい、楽しみです!」と言ってくれた。

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