第31話 下僕となる

 武器屋のオヤジが帰ると、今度は馬車が止まる音が――外を見ると、昨日と同じ王族の馬車が見えた。


 いったい、誰が? と思っていたら、中からシャルロット王女殿下が飛び出してきた――えっ?

「アリシア、あそびにきてやったぞ!」

 そう言って、アリシアに抱きつく。いや、だからなぜ殿下が⁉


「いやあ、殿下がアリシアのところへ行くと言ってきかないので、連れてきてしまった」

「アーノルドさん⁉」

 頭を掻きながら、アーノルドさんが殿下の後ろから現れる。

「だからって、こんな街中に殿下を連れてくるなんて……」

 何かあったら大変だと言うのだけど――

「そのためにオレもついてきたのだけど……まあ、オレよりもっとスゴ腕の護衛が殿下にはついているからな」

 スゴ腕の護衛?


「ヒロト・ニジカワ殿でありますね」

「――えっ? うわっ!」

 突然耳元で女性の声が聞こえたので、振り向くと赤毛ボブカットの女の子が! 顔、ち、近い……

 白い軍服を着ている――ということは騎士?


「だ、誰⁉」

 慌てて離れると、女の子はこうべを垂れた。

「突然の訪問で申し訳ございません。私は殿下の護衛の者です」

 護衛? それじゃ……


「彼女はジェシカ・コルテーゼ。今言ったスゴ腕の護衛だよ」

「は、はあ……」とボクは気の抜けた返事をしてしまう。


「アリシア、遊ぼうぞ!」

 シャルロット殿下が無邪気に、アリシアの袖を引っ張る。


「あ、あのう、殿下――ここではヒロトさんがお仕事するのに邪魔となってしまいます」

 そう、ボクに気を使ってくれるのだけど――


「ヒロト? コヤツのことか?」

 殿下がカワイイ指をボクに向ける。コヤツ――って、なんか、アリシアに比べて扱いがひどくない?

 アリシアが「はい、そうです」と、応えると――


「コヤツはアリシアの何なのじゃ?」

「えつ?」


 殿下に言われて二人は顔を赤くする。


 ボクとアリシアの関係――簡単にいえば同居人。と、いうことは同棲相手⁉

 いまさら、アリシアのことを意識してしまう……彼女はボクのことをどう思っているのだろう――

 アリシアがどう答えるのか、ボクもドキドキして待ってしまう。


「ヒ、ヒロトさんは、そ、そのう……お仕事仲間です!」

 アリシアがそう言うので、ボクはなぜかガッカリしてしまう……まあ、仕事仲間なんだよね……


「そうか。と、いうことは、コヤツはアリシアの下僕ということだな?」

「――えっ?」

 また、アリシアと一緒に声が出てしまう。げ、下僕⁉

「あ、あのう、殿下?」


「アリシアの下僕ということは、わらわの下僕でもあるな。おまえ、名を何と申す?」

「え、えーと……ヒロト・ニジカワです……」

 一応、名乗った。


「そうか。喜べ、今日からヒロトは妾の下僕じゃ。ジェシカ、ソナタにコヤツの教育係を申し付ける。とくと鍛えよ」

 ――――――――えっ?

「かしこまりました」

 えっ? えぇぇぇぇっ⁉


「ハ、ハ、ハ! ヒロト、スゴいなあ! 昨日はマイスター、今日は殿下の下僕かぁ! どんどん出世するなぁ!」


 いやいや、これって出世しているのかぁ?


「それじゃ、ヒロト、ビシビシ鍛えるので覚悟しとけ」

 ジェシカさんがそんなことを言う。なんか、さっきと話し方が変わっているんですけど?


「うわぁぁぁぁ! カンベンしてくれ~!」

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