第30話 銘入りとなる

 王宮から帰ってくると、アリシアは熱を出して寝込んでしまった。魔石に第三位階の魔法を封じ込めて、まだ体力が戻っていないのに王宮に行ったモノだから、疲れてしまったらしい。


 彼女を寝かしつけると、ボクは新しい盾作りに挑戦していた。


 魔盾を作るようになってから、七十五だった盾職人のレベルが、八十にまでなった。七十から七十五までレベルが上がるのに二か月かかったというのに、わずか一週間で、同じだけ上がったのだ。魔盾の効果はスキルにまで影響しているようだ。


 レベル八十になった時点で、新しい盾が作れるようになった。その一つが『アイギス』という盾。神様が作ったとされる伝説の盾だ。


 まだ、どんな効力がある盾なのかわからないのだが、やっぱり作ってみたいと思う気持ちはある。

 材料も高価で、中には市場では手に入らない魔物の材料もあるのだけど、魔盾で稼いだお金がある。魔物の材料もアーノルドさんからもらっていたので、一応作れる。


 こういった、高レベルの製品は何度も挑戦しないと成功率が上がらない。経験上、それを知っているので、時間があれば挑戦しているのだ。


「ヒロトさん、ゴメンナサイ。これから夕飯を作ります」

 日も沈んで暗くなりかけたころ、アリシアが起きてきた。


「それなら、大丈夫だよ。王宮から料理の残りをもらってきたらから。それより、体調はどう?」

「はい、もう大丈夫です。ただの魔力切れですから」

 ほとんど回復したと笑顔で言われた。まあ、念のため、明日も仕事をお休みしようということになった。


 その翌日、武器屋のオヤジがやってきて――

「二人とも名人マイスターになったんだって? スゴい出世だな。もう、クン付けじゃなくて、サマと言わなければならないな」

 そんなことを言われる。

「やめてください。今までどおりでイイです」

 ボクは苦笑いした。『サマ』なんて言われたらキモチ悪い。本当にカンベンしてほしい。

「それで、今日は何でしょう? 仕事は明日から再開するつもりなんだけど」


 まだ、売れるモノはないと伝えると、オヤジは「イヤイヤ、今日は催促さいそくに来たわけじゃない」と言う。

「マイスターのお祝いに、これを持ってきてやったんだ」

 そう言って、金属の棒をボクに差し出した。先に何かプレートが取り付けてある。

「これって?」

「焼き印だよ」

 焼き印?

「ためしに押してみな」


 言われるがまま、木材の切れ端に、焼き印を押してみる。それには、星が三つ、その下に『A&H』と書かれていた。


「三つの星はマイスターが作った品物の証。そして、『A』アリシア『H』ヒロト、それが二人の銘柄ブランドだよ」

銘柄ブランド――」

「これから作る盾には、この焼き印を押してくれ。銘入りとして、取り扱うぞ」


 銘入りの品を世に出すことは、職人になった者なら誰でも目標とすることだ。ついに、ボクはそれを叶えたんだ。そう思うとムネが熱くなる。


「そのう……」とアリシアが申し訳なさそうに、話しかける。

「私の名前が入ってもイイのですか?」

「何を言っているんだ! アリシアの名前も入ってこそ、ボクたちの盾じゃないか! そう!

 『A&H』こそ、ボクたちの銘柄ブランドだよ!」


 興奮しながら、アリシアに伝えると、彼女も「はい!」と言って、うれしそうな顔をしてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る