第29話 おともだちとなる

 ボクとアリシアは王宮に呼び出され、魔盾まじゅんを作ったことをたたえられた。

 そして、名人マイスターの称号をいただき、勲章までもらった。


 一週間前までは、その日食べることさえ困っていたというのに、この変化に追いついていけない。みんなアリシアのおかげだ。彼女に出会えてよかった!

 ボクがアリシアを見ると、彼女はそっと笑ってくれた。


「ところでブルームハルト侯」

 称号授与の一連の儀式が終了したあと、国王陛下がそう口にした。ボクとアリシアはビクッとする。

「なんでございましょう? 陛下」

 侯爵が歩み寄ると、軽く会釈をする。

「魔法研究所のことだが、賢者グラハムを所長の任から外し、そなたが引き継いだと聞いたが、それはまことか?」


 その質問に、侯爵は特に顔色を変えず「そのとおりでございます」と申し上げる。

「現在、フーベルの戦況が思わしくないため、グラハム殿に赴いてもらい、兵士の士気を高めていただきたいと考えたしだいです」

 戦況が好転するまでの間、自分が所長職を預かっている――そう言葉を続けた。


 しかし、実際は自分の支援する魔導士に研究所の重要ポストに就けて、その成果を独り占めしようとしているとアーノルドさんから聞いている。

 陛下の前で平気でウソを言う侯爵に、ボクはハラを立てたが、ことを荒立てるわけにはいかないのでグッと我慢する。

 

「そうか――貴公に聞きたかったのは、ここにいるアリシア・リン嬢の件だ」

 ――えっ? とアリシアをあげた。

「彼女は研究所を解雇された、そう聞いたのだが――」

 陛下の質問に、侯爵は「申し訳ございません。そのことは存じておりませんでした」と平然と言ってのける。

 エルフというだけでクビにした張本人のクセに、なんてふてぶてしい人なんだ。


「そうだったか――それなら、どうじゃ? アリシア・リン嬢をもう一度、研究所で働かせてもらえないかな?」

「――えっ?」

 ボクとアリシアは同時に声が出てしまう。アリシアを研究所へ?


 でも、アリシアにとってはそれが一番イイことだ。これまでどおり、強化魔法の研究が続けられるのだから――でも、なんだろう。とてもムネが痛い……


「――仰せのままに」

 侯爵がそうこうべを垂れた。


 アリシア、良かったね――ボクはそう声をかけたかった。だけど、その言葉が出てこない。

 その時、アリシアが口を開いた。


「陛下、恐れながらお願いがございます」

「リン嬢、なんだね?」

「私はこのまま、ヒロトさんの工房で働きたいです」

「――えっ?」

 工房ではたらきたい?

 せっかく、研究所で仕事ができるというのに、それを断る?


「――リン嬢の気持ちはわかった。しかし、ソナタは研究所に必要な人材だ。それに、上級職人として相応の待遇と給料も約束しよう。それでも、気持ちは変わらぬか?」

 陛下がそう引き留めるのだが、アリシアは「はい!」とハッキリことわった。


「アリシア、本当にそれでイイの?」

「ヒロトさん……ごめんなさい。勝手に決めてしまって……ご迷惑だとは思いますが、これからも一緒にはたらかせてください」

 アリシアが頭を下げるので、ボクは「そんな、迷惑なんてこれっぽっちも思ってないから――」とあわてて応える。


「それじゃ、これからも魔盾を作る手伝いをさせてもらってイイですか?」

「も、もちろん! こちらこそ、よろしくお願いします」

 ボクが頭を下げると、彼女は喜んでくれた。

 それを見ていた、陛下もスチュワート殿下も微笑んでいる。もしかしたら、二人も「こうなるのでは?」と、考えていたのかもしれない。


 その時、シャルロット殿下がちょこちょこと歩いて、アリシアの前に立つ。なにごとか? と、二人で見ていると――彼女は、アリシアの顔をじーっと見つめる。

「ソナタはエルフなのか?」

 そう、お声をかけてきたので、アリシアは「は、はい」と返事する。


「やはりそうか! に出てくるエルフとそっくりじゃ! もっと、よく見せよ!」

 しゃがむように言うので、アリシアがひざまづく。

「うわぁ! お人形さんみたいじゃ! カワイイぞ!」

 シャルロット殿下がそう言ってアリシアにしがみついた。


 殿下こそ、大きな目でお人形さんのようにカワイイ! アリシアと抱き合っている様子は本当に尊い――い、いや、ボクはなんて失礼なことを考えているんだ!

 頭を横に振って、煩悩を振り払う。


「名前はなんていう?」

「アリシアと申します、殿下」

「そうか――アリシア、わたしとおともだちになるのじゃ!」

「――えっ?」

 おともだち? シャルロット殿下とお友達?

 ボクとアリシアは慌てて陛下とスチュワート殿下を見る。だけど、二人ともにこやかな表情で、うなずいてくれた。


「はい、殿下。ぜひ、お友達に」

「そうか! なら、わらわのこともシャルロットと呼ぶがイイ!」

 そんな、二人のやりとりを会場のみんなが、ほほえましい――という表情で見ていた。


 フェルマイヤ国王陛下が、パンッ! パンッ! と二度、柏手を打つ。

「さて、みなのもの。待たせて申し訳なかった。今日は孫のシャルロットのために集まってくれて、本当に感謝する。ささやかだが、用意したモノを食べていかれよ」

 陛下の合図で全員が食事に手を付け、思い思いに会話を楽しむのだった。

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