第27話 お披露目式となる

 大きな会場のこれまた大きなテーブルには、たくさんの料理が乗せられていた。

 ボクとアリシアはその美味しそうなご馳走に目を奪われる。


「こ、これ全部食べていいんですか?」

 思わず聞いてしまう。


「もちろん」とエレーナさんが言うので、骨付きローストチキンに手を伸ばす。そしたら、彼女にその手を叩かれた。


「まだ、ダメ。国王陛下の挨拶が終わったあと、みんなで乾杯してからよ」

 そうなんだと、いまさら理解する。いろいろとマナーがあるんだな……気を付けないと……



 すぐに、新しい客がぞろぞろと会場に入ってきた。着ている服から、貴族や軍人だとわかる。


 あとで聞いた話だが、会場には位の低い者から入場するらしい。最初に自分たちのような準貴族。次に入ってきたのは伯爵までの貴族たち。そして――


「ブルームハルト侯爵、侯爵夫人、ご入場!」


 そういうアナウンスが聞こえた。ボクとアリシアはビクッとしてしまう。


 開いた扉から、口ひげで少し太った男性が入ってくる。ブルームハルト侯爵だった。隣の派手な浅黄色のドレスと、『これでもか!』というくらい盛っている髪の女性がご夫人なのだろう。



 それからも、何組かの公、候爵家の名が呼ばれた。



 その後、しばらく出席者で雑談していたのだが、突然、静かになり、全員が上座の方向へ顔を向ける。


 上座の入り口が開くと、王冠を頭に乗せた初老の男性が現れた。一斉に頭を垂れるので、ボクも真似した。アナウンスはなかったが、ボクも一度は顔を見て知っている。

 現、ウィルハース王国の国王、フェルマイヤ陛下だ。


 陛下のうしろからエリザベート王妃が現れ、二人同時に座った。


 少し時間を置いて、スチュワート皇太子が現れ、陛下に向かって左側の席に座る。次に現れたのは皇太子殿下より少し若い男性。おそらく、第二王子のレオン殿下だ。



「皆の者、顔を上げなさい」

 レオン殿下が着席してすぐに、陛下からお声をかけられた。全員顔を上げる。ボクもそれにならった。


「皆が集まってくれたことに感謝する。今日、こうして孫のシャルロットが無事五歳を迎えられたことは、ひとえに皆がこの国のために精を出してくれたおかげである」


 陛下の声は穏やかだが、この広い会場に響き渡っている。


「それでは、紹介する。孫のシャルロット・ウィルハースだ」


 また、上座の扉が開くと、桜色のドレスを着た金髪のカワイイ少女が現れた。とても緊張した面持ちだが、しっかりとした足取りで陛下の席の前までやってきて、ドレスのスカートをつまみながら軽くお辞儀する。


「おおっ、なんとカワイイ、お姫様なんだ」

「フィリシア殿下の生き写しだ」

 そんなささやきが、会場のいたることころから聞こえた。


「フィシリア殿下って?」

 ボクがそうつぶやくと、アリシアが「亡くなられたスチュワート皇太子の正妃様です」と小声て教えてくれた。


 そうなんだ……皇太子様の奥様は亡くなられたんだ。



「シャルロットの誕生日を祝うために、集まってもらった皆の者に、ささやかならが料理を用意した。ぜひ、味わっていただきたいのじゃが、その前にもう一つ、皆に知らせたいことがある」


 辺りがざわついた。陛下はお言葉を続ける。


「我がウィルハース王国の宿願であった、北部、フーベル地方への遠征が決まった」


 会場全体から「おおぅ!」という歓声があがった。陛下が手をあげ、静めると――


「軍を指揮するのはランバート将軍。そして、ケルベロス討伐を任せるのは勇者アレンのパーティ『ブルズ』である」

「おおぅ!」と再び声があがる。アレンさんたち、スゴい人気だなあ。


 また、歓声が静まったところで、陛下がこう述べる。


「いままで我が軍が何度も苦油を飲まされてきた、あの魔獣ケルベロス討伐をこのタイミングで決定した理由は、ひとえに魔盾まじゅんの発明があったからである!」


「――えっ?」


 ボクは思わず声が出てしまう。ほぼ同じタイミングで、アリシアからも声が漏れていた。

 魔盾の発明が決手⁉


 陛下がこちらを向くと、ボクの隣にいたアーノルドさんが、今日改造したばかりの魔盾を手にして上座へ向かう。そして、陛下の横に立つと、魔盾を高々と掲げた。


「おおぅ! なんと美しい盾なんだ」

「素晴らしい!」

 そんなささやきが聞こえてくる。


 すると、今度はスチュワート殿下が前に出て、こう説明する。


「この盾には、第三位階の『魔物の敵意を引き付ける魔法』を封じ込めた魔石が取り付けられている!」


「第三位階の魔法が封じ込めた魔石⁉」


「なんという盾なんだ!」

 そんな驚きの声が会場全体から聞こえた。


「この盾は我が国の――いや、人類の宝だ!」

「おおぅ!」

 会場が大騒ぎだ。その中心にボクたちの作った魔盾がある。そう思うと、ムネがいっぱいになった。


 同時に手を握られた感触が……アリシアだった。


「――えっ?」


 少しビックリしたけど、彼女の手も震えていた。きっと、ボクと同じ気持ちでいるんだと思うと、うれしくなる。ボクは彼女の手を握り返した。



「それでは、ここでこの偉大なる盾、『魔盾』を制作した二人を紹介する。ヒロト・ニジカワとアリシア・リン、こちらに!」



「――えっ?」

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