第26話 お着替えとなる

 あれから馬車に押し込められたボクとアリシア。十分後には王宮の中にいた。


 別々の部屋へ連れて行かれ、四、五人のメイドに囲まれる。そして、いきなり着ている服を全部脱がされた!


「男でしょ? 堂々としていなさい!」


 一番年配の女性からそう言われる。だけど、メイドの中にはボクより若い女の子も。そんな状況でスッポンポンになっているのだから、さすがに恥ずかしい!


 シルクっぽい、薄くてツヤのある、いかにも高価そうな下着を履かせられた。「自分で着れるから」と言ったのだが、「これは私たちの仕事です」と無下に断られる。


 次にヒラヒラの多いシャツを着せられ、その上から臙脂色に金色の糸で刺繍された派手なスーツを身にまとった。


 今度は油くさいベトベトしたモノを頭に塗られ、髪をオールバックで固められる。



 最後に胸元のポケットに白いハンカチを差し込まれ、白い手袋を手に持たされると大きな鏡の前に立たされた。

「いかかです? 男前になりましたでしょ?」


 それはアニメとかに登場する貴族の姿だった。ただ、顔が自分……つまり、東洋人の顔なので――


「なんか、似合ってないです――」


 それが本音だった。はっきりいって、こんな姿で人前に出るは恥ずかしい。罰ゲームじゃないかと思ってしまう。


「そのうち慣れてきますよ」とメイドの人は言うのだけど、正直、このまま逃げて帰りたかった。



 部屋の扉が開くと、今度は軍服を着た男性――たぶん、近衛兵の人――に「待合室へお連れします」と言われ、彼のうしろを歩いた。

 長い廊下の突き当りまで歩かされる。一番奥の扉を近衛兵が開けると「お呼びするまで、こちらでください」と、中に入らされた。


 部屋にはボク一人。


「くつろげって言われてもなあ……」


 置かれている家具はどれも高価そうなモノばかり。キズつけてはいけないと、触ることもできない。そのうえ、窮屈な服を着ているから、座るとオナカが痛くなる。つまり、ずーっと立ちんぼ。



「はあ……場違いなところに来ちゃったなぁ」

 憂鬱になっているところに、突然扉が開く。


「よう、ヒロト! もう着替えたのか?」

 そう言いながら入ってきたのはアーノルドさん。アレンさんも一緒だ。二人とも純白の軍服をまとっている。騎士ナイトの正装だ。二人とも騎士の称号をすでにいただいているのだ。


 その後ろから聖職者の祭服を着た男性。治癒職で、アストレア聖教の洗礼を受け、今は司教にまでなったロバート・グレンさん。ボクが頭を下げると、彼も無言で会釈した。そういえば、この人が話しているところをいままで見たことがない。


 そして三人の後ろから、真っ赤なドレスに同じく真っ赤な長い髪。長身だけど、おそろしくスタイルのイイ美女が入ってきた。彼女の名はエレーナ・スウェインさん。第三位階の火、風、水、土、四つの属性魔法をマスターした、現世の大賢者グランドフィロソファーと早くもささやかれている魔導士。彼女も爵位としては騎士なのだが、軍服ではないのは趣味なのだろうか。


 ロバートさんもエレーナさんも、トップ冒険者パーティ『ブルズ』の正規メンバーである。


「ヒロト君、お久しぶり」

 エレーナさんがニッコリ笑って挨拶するので、緊張してしまう。


「いやあ、男前になったな!」

 そう言って、アーノルドさんが背中を叩くので、ボクは苦笑いする。だけど、ブルズの方々が来てくれたことで、緊張が和らいだ。


 また、扉が開いた。


「まあ! お人形さんみたい!」


 エレーナさんがそう声をあげた。男性陣はその可憐な姿に言葉を失う。もちろん、ボクもだ。


 中に入ってきたのは、ライトグリーンのドレスを身にまとったアリシアだった。恥ずかし気に頬を赤く染めながら、中に入ってきた。


「あ、あのう……私がこのようなドレスを着て、本当にイイのでしょうか?」

 アリシアはオドオドしながらそんなことを言う。


「なにを言っているのですか? 今日は二人も主役なのですよ」

 アレンさんがニッコリしながら、言ってくれた。


 ボクたちも主役のひとり?

 本当に、そんなことでいいのだろうか?


 まだ、自分が置かれている状況がわからないまま、近衛兵の人が呼びにきた。全員、大広間に移動させられる。

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