第23話 嫌がらせを受けることとなる

「ヒ、ヒロト君! いったい、なにをしたんだ⁉」

 翌朝、武器屋のオヤジが血相を変えてやって来た。


「なにをした……と、言われましても……」

 何があったのか、たずねると……


「ヒロト君と取引する店には、今後一切、ブルームハルト侯爵の息がかかった職人の製品は卸さない――そういう通達が出回っているぞ」


「――はあ」と気の抜けた返事をしてしまう。


 あの侯爵、やることが早い。もう嫌がらせか……



「シュトラールからきていた魔盾の注文もキャンセルになった」


 そういえば、『王国の双璧』と言われるトップランク冒険者パーティーの一つ、『シュトラール』もブルームハルト侯爵が支援していたんだっけ?


「まあ、仕方ないですね……」



 ボクはオヤジに昨日の話をした……


「そうだったのか……しかしヒロト君、それは大変なことをしてしまったよ」


 ブルームハルト侯爵家はこの国で王家に次ぐ重鎮。その侯爵ににらまれたとなれば、王都はもちろん、王国全体で仕事ができなくなる――そうオヤジは心配する。



 現在のブルームハルト侯爵は半年前に当主になったばかりらしい。先代当主はとてもイイ人で、召喚人に対してさまざまな支援をしていたそうなのだが、その先代が突然倒れ、今の当主に代わった。それからというモノの、有望な冒険者パーティーと職人を囲い込んで、その利益を独り占めしているらしい。


 逆に成果の出ない冒険者や職人は支援を打ち切られ、今は苦しい生活を強いられているとも聞く。



「そんな侯爵の横暴を嫌って、彼との契約を破棄した武器職人がいたのだが、もう一か月前から行方不明なんだ」


「――えっ?」


 その職人もヒロトのように王都での取引を妨害されたらしいが、彼は「帝国に行けばイイ」と意に介さなかったそうだ。しかし、彼が王都から出たという話も聞かないまま、突然姿を消してしまったらしい……


「それって……」

 それ以来、その職人の姿を見たモノはいない。



 そんな話もあり、ブルームハルト候に歯向かう者はいなくなった。公爵が王国の裏社会ともつながっている――なんて、ウワサも耳にするらしい。


「彼はもともとこの国の商人だった人物でね。先代の娘と結婚して養子になったんだ」


 先代がいたころは、自身の商才を活かして、侯爵家に尽くし、王国の発展にも力を注いできた。


 侯爵家に嫡男となる男子がいなかったため、先代は彼を時期当主に指名する。


「その直後に先代は亡くなったんだがな……」

 それからは、彼はこの王都でやりたい放題らしい……



「そう……なんですね」


 オヤジさんの話を聞いて、ボクは顔を青ざめる。


 自分も王都で仕事ができなくなったら、他の町や帝国に行けばイイと軽い気持ちでいた。しかし、どうやら、そんなに甘い話ではなさそうだ。



「ヒロトさん、ゴメンナサイ……私のせいで……」


 アリシアが責任を感じているようなので、「ボクがそうしたいから、侯爵の話を断ったんだ。だから、気にしないで」と伝える。


「いえ、違うんです。あの人……ブルームハルト侯爵が私を研究所から追い出したんです」


「――えっ?」


 前任を戦地へ送り込んで、研究所の所長となったのが侯爵だったそうだ。そういえば、侯爵はアリシアのことを知っているような言い方だった。なるほど――と思う。


 自分が追い出した相手のために、自分の誘いを断られたことが余計気に食わなかった――だから、嫌がらせがより陰湿にになっていると、彼女は考えたらしい。


「――そうかもしれないけど、それならなおさらそんなヤツに屈服するわけにはいかないよ」

 ボクはアリシアに「なんとかするさ」とはげました。


 だけど、実のところどうすればイイのかボクもわからない。



 とにかく、ボクのせいで、武器屋のオヤジにまでイヤがらせが及んでも困る。誰かに見られる前に、ここから出て行ったほうがイイと話した。

「すまないが、そうさせてもらうよ」


 オヤジが工房から出て行ったのと入れ替えで、アーノルドさんが工房に入ってくる。


「ヒロト、聞いたぞ! 侯爵とやり合ったんだってな!」

 なんか、とてもウレシそうだ。ボクが事情を話すと――



「なに、心配するな。困ったことが合ったら、オレがなんとかすると言っていただろ?」


「――えっ?」

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