第21話 謁見となる

 馬車に乗ってから十分ほど……ボクは大きな屋敷の入り口で下ろされた。

 こんな大きな屋敷を近くで見たことがなかったので、口を開けて見上げてしまう。


「ニジカワ様、どうぞお入りください」


 白髪の男性に連れられ屋敷の中へ。そこは赤や青、金色の装飾で飾られ、豪華そのもの。観光気分でキョロキョロする。

 そのまま長い廊下を歩き、突き当りの部屋に招かれた。


「うわ……」


 思わず声が出てしまう。巨大な部屋に、これまた大きな木目調のテーブル。壁には金色の装飾に、銀の燭台。高さが十メートルはあろうかという窓から光がさして眩しい。


「こちらにお座りください」


 白髪の男性がそう手を指し示す。別の若い男性が椅子を引いてくれて、ボクはそこに座った。


「ただいま、飲み物をお持ちします」


 すぐにメイド服を着た若い女性が、良い香りのする飲み物をこれまた金の縁取りがある白いカップに淹れ、ボクの前に置いた。


 ボクはその女性を目で追ってしまう。本物のメイドなんで初めて見た。


「よくぞ来てくれた。ヒロト・ニジカワ君」


 そういう声を聞いて振り向く。濃い緑にこれまた金糸で細かい刺繍の施された服を着た男性が現れた。豊かな白い髪はどうやらカツラのようだ。口ひげは黒い。


「ブルームハルト侯爵ですぞ、お立ちください」

「――えっ?」


 白髪の男性に言われて、ボクは慌てて立ち上がった。


「良い良い、座りたまえ」


「はあ……」言われるままに座り直す。


「さて、改めて自己紹介をしよう。儂はブルームハルト侯爵だ」

 大きな椅子に座りながら、彼はそう名乗った。


「はあ……」

 こういった状況では自分はどう受け答えしてイイのかまったくわからず、ただ茫然としてしまう。


「貴公の活躍は耳にしておる。魔盾まじゅんというモノを開発し、対魔物の戦い方を一変させたそうだな。まことにすばらしい」


 いきなりほめられ、「い、いえ」と一応謙遜する。


「では、率直に伝えよう。ぜひ儂に貴公のパトロンをさせてもらえないか?」


「――えっ?」


 パトロン――つまり、ボクを支援してくれるということか?


「我が屋敷の敷地内にある工房を貴公に貸し与える。もちろん、必要な工具、材料は新たに買い与えよう。それだけでない、生活に必要な品は全てこちらで用意する。ただし、作成した魔盾は全て引き取らせてもらう」


 つまり、仕事から生活まですべて面倒を見てくれるということか……


 召喚人の武器職人や錬金術士の中には、大貴族の下で働いていると聞いていたが、まさかボクにそんな話がくるとは――


「そして、毎月の給金、金貨三十枚を約束しよう」


「き、金貨、三十枚⁉」


 思わず声が大きくなってしまった。金貨一枚で、大銀貨十枚分の価値がある。それを毎月、三十枚⁉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る