第20話 侯爵からのお呼び出しとなる

 ブルームハルト侯爵家といえば王国三大貴族の一つ。つまり、とても高貴な人だ。そんな人が自分と会いたいと言っているらしい。


「侯爵がどうしてボクに?」

「ニジカワ様の作られた魔盾まじゅんについて、侯爵は大変興味を持っておられるようです」

「――えっ?」

 三大貴族と言われる人が魔盾に興味を持っている?


「はい、魔盾は対魔物の戦い方を大きく変える素晴らしい発明だと、侯爵から直々にお言葉をお伝いしたいそうです」

 侯爵からお言葉をいただける⁉



 この世界はまだ封建社会である。王族、貴族のチカラは絶大だ。


 それは召喚人しょうかんびとであっても同じで、有力貴族のうしろ盾があれば、いろいろと都合がイイ。特に生産系ジョブの場合、取引などでトラブルに巻き込まれることがある。そんなときに、貴族のチカラで助けてくれるのだ。


 盾職人のボクには、いままで貴族から声がかかることはなかった。正直なところ、盾に注目する貴族なんていなかったのである。


 だけど、こうして声をかけてもらえたということは、ボクにも貴族のうしろ盾ができるかもしれない。それも三大貴族といわれるような人なら申し分ない!


「あのう……この人たちは?」

 ちょうど市場から帰ってきたアリシアが食材を手にして入り口から入ってきた。


「アリシア、ちょうど良かった。この人たちはブルームハルト侯爵の使いの人たちで、ボクを屋敷に招待してくれるそうだよ!」


「えっ? ブルームハルト……侯爵……」

 急にアリシアの顔色が悪くなる。あれ? どうして?


 アリシアは侯爵についてなにか知っているようだったが、それをたずねる前にアーノルドさんが声をかけてきた。


「おいヒロト、このかわいいエルフちゃんは誰だ?」

 そう言って、ボクの肩に腕を乗せてくる。


「あ、このコはアリシアさん。強化魔法ができる魔導剣士なんです」

「おお! それじゃ、第三位階の強化魔法が使えるアテというのは?」

「はい、アリシアのことです」


 アリシアにもアーノルドさんを紹介する。

「あ、お話はヒロトさんから聞いておりました。よろしくお願いします」

 アリシアは頭を深く頭を下げてアーノルドさんに挨拶した。


 すると、アーノルドさんはボクの耳元でささやく。

「ヒロトもやるなあ。こんな、カワイイ子を彼女にするなんて……」

 えっ? か、か、彼女⁉

「ち、違いますよ!」とボクはすぐに否定したのだが、アーノルドさんの顔はニヤニヤしたままだった。



 そのタイミングで咳払いが聞こえ、そちらを向く。例の白髪の男性だった。

「それではヒロトさん、屋敷までお連れします」

 そう言って、男性は右手を胸元に当てて頭を下げた。


「とにかく、行ってみよう」とボクはアリシアに言う。


「私は……イイです」

「――えっ?」

 イイって……彼女は行きたくないということと?


「侯爵からニジカワ様をお連れするようにと承っております」

 そう白髪の男性は言う。なぜ、自分だけ?


「私がお留守番してますので、ヒロトさん、行ってきてください」

 アリシアがそう言うので、なにかモヤモヤした気分になる。しかし、相手はこの国の重鎮。下手に断るわけにもいかない。男性に「わかった」と応えた。


「それでは――」と男性がボクを外に連れ出そうとするところ、アーノルドさんが再び耳元でささやく。

「侯爵なんだけど、あまりイイ話を聞かないから、気をつけろ」

「――えっ?」


 ボクはアーノルドさんに顔を向けるが、彼はささっと離れたので、それ以上聞けないかった。

 イイ話を聞かないって……?


 それから、アリシアを工房に残し、ボクは派手な装飾がほどこされた馬車に乗せられた。

 

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