第17話 大評判となる

「ヒロト君! 居るか⁉」


 翌朝、アリシアと一緒に朝食を食べていると、武器屋のオヤジが工房にやって来た。


ふぁいはいふぁうれふふぁなんですか?」

 あまりにも突然やってくるので、スプーンを口にくわえたまま喋ってしまう。


「ヒロト君! 魔盾まじゅんをあるだけ売ってくれ!」

「……ふぇっ?」


 オヤジはかなり慌てた様子だったので、とりあえず話を聞くことにした。


「今朝から、魔盾がほしいという冒険者が殺到しているんだよ」

 どうやら、スタンピードで配った魔盾の評判が口コミで広がり、武器屋に押しかけてきたそうだ。


「ヒロトさん! ヨカッタですね!」

 アリシアが嬉しそうに言う。

「う、うん……だけど、今は在庫がないんだ」

 売れる盾はすべて昨日のスタンピードで配ってしまった。


「それじゃ、すぐに作ってくれ!」

 材料がなければこちらから支給すると、オヤジは言う。


「盾一枚、大銀貨で買い取る。もちろん、材料費はオレ持ちだ」

「――えっ?」

 材料費別で大銀貨⁉


 昨日は冒険者にやはり大銀貨一枚で買ってもらったが、今度は材料費を含めず――つまり、工賃だけで大銀貨が手に入る!

「スゴいですね! ヒロトさん!」

 大喜びのアリシアだが、本当にそれでイイのだろうか?


「それで――何枚、必要なんですか?」

「とりあえず、二十枚はすぐに欲しい!」

「二十枚か……それじゃ、四日、いや五日後に……」

 一日、作れる盾の数は五枚。単純計算でも四日はかかる。それから魔石を取り付けるとなるとあと一日ほしい。

「五日⁉ いや、今日中にほしい!」

 今日中に二十枚⁉


「いや、さすがにそれはムリだよ」

 ガンバっても六、七枚を作るのがやっとだと応える。


「そこをなんとか――そうだ、盾ならウチの在庫を使えばイイ!」

 ――えっ? 在庫の盾――? それってつまり……

「現地人が作った盾でも、イイんだろ?」


 やってみたことはないが、おそらく召喚人が魔石の組み込み作業を行えば、盾は現地人が作ったモノでも問題ないはず――だけど――


「オヤジさん、悪いけどそれはできない」

「どうしてだ⁉ 魔石の取り付けだけで大銀貨一枚を払うと言っているんだぞ?」


 たしかに、盾を作らなくてもイイのだから、自分の仕事量だけを考えれば、かなり楽だ。それでいて、報酬が同じなんだから、とってもオイシイ話だとはわかる――だからって……


「はっきり言って、現地人の作った盾は質が悪いうえにデキも安定していない。ひどいモノだと一回の攻撃で壊れそうだ。ボクはそんなモノを売りたくない」


 自分の盾を買ってくれた人が払ったおカネ以上に満足してほしい。それは、職人としてのプライドであり、絶対に譲れないと伝えた。


「……わかった。お客さんには待ってもらうように頼むけど、『それなら要らない』と言われるかもしれない。それでもイイんだな?」

 ボクは「はい」と応えた。


「オヤジさん、わがまま言ってすみません」

「イイってことよ。実のところウチも質の悪い商品を売るのは気が引けていたんだ」

 それでも冒険者は少しでも安い盾をほしがるので、しかたなく仕入れていた――そう、話してくれた。


「材料屋にはウチに請求書を回せと言ってくれ。夕方、できた分だけ取りにくる」

 そう言って、武器屋のオヤジは帰って行った。


「ヒロトさんは立派です!」

 アリシアはそんなことを突然言う。


「立派?」

「だって、おカネよりもお客さんの満足を大事にするなんて、なかなか言えることじゃないです!」

 そう言って、目を輝かせる。


「ハ、ハ、ハ……やっぱり、お客さんが喜んでほしいから――」

 昨日も、「魔盾は素晴らしい」と冒険者たちはほめてくれた。それは、おカネなんかよりずっと価値があると思う。


「まあ……だから、いつまでたっても貧乏なのかもな」

 そう苦笑いする。


「いえ、きっといつか冒険者さんもわかってくれます! ヒロトさんの盾が価格以上の価値があることを!」


 そう熱く語ってくれるので、なんか感じる。だけど、アリシアもそう考えてくれているんだとわかって、ボクは自信を持った。自分の判断はやっぱり間違っていなかった――と。


「よし! 朝食が終わったら、さっそく材料を仕入れよう! 今日も忙しいぞ!」

「はい!」

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