第16話 同居人となる

 ボクとアリシアは王都で有名なレストランに足を運んだ。

「なんでも好きなモノを頼んで」


 そう言うのだけど、彼女は「ヒロトさんが頼むモノと同じでイイです」と応えるので、「それじゃ……」と魚のグラタンとビーフのミートボールが入ったシチュー、そして、二種類のパスタをメニューから選んだ。


「ビールも頼むけど、アリシアさんも飲むでしょ?」

「えっ? い、いえ、私はお酒、飲めないので……」

 少し慌てたような顔で、断ってきた。


「ごめん……お酒、嫌いだった?」

「えーと、そのう……私、未成年ですから……」

 ……………………えっ?


「あのう……アリシアさんって、何歳なの?」

 すると、下を向きながら小声で、「十六です……」と応える。

「えっ? うそ――」


 確かに、幼くは見えていたのだけど……

「エルフって長命だと聞いていたから、てっきり、同い年くらいか、もしかしたら年上かと思っていた」

 童顔のエルフが数百歳……なんて、ラノベの設定では当たり前だったから、勝手にそうだと思い込んでいたのだけど……


「い、いえ、私は元々人間ですから……」

 そういえば、そうだった。しかし、自分より九歳も年下だったなんて……


 ん? 待てよ――ということは、ボクは未成年の女の子と同じ部屋で寝泊まりしていたということ⁉


 いまさら、そのことに気づいて冷や汗が出る……この世界には青少年保護条例とかないよね?

「ハ、ハ、ハ……」


 それから、並べられた料理を二人で無我夢中になって食べた。アリシアが作る料理も美味しいけど、やっぱりプロの料理人が作る料理は格別だ。あっという間に平らげて、オナカがふくれる。


「ふう、食べた食べた」

「はい、こんなに美味しいお料理を食べたのは半年ぶりくらいでした」

 満足という顔をしている互いを見て、二人とも笑ってしまった。


 これも、アリシアとボクで作った魔盾まじゅんが売れたおかげ。スタンピードがやってきたという偶然もあったのだけど、アリシアがいなければ、こんなに美味しい料理は食べられなかった。


 だけど――


「あのさ……これからのことなんだけど……」

 ボクがそう口にすると、アリシアはうつむいて「はい……」と返事する。


「運よく在庫の魔盾は売れたけど――武器屋が買い取ってもらえないのだから、これ以上、魔盾を作るわけにはいかないよね?」


 ボクがそんなふうに話を切り出すと、アリシアも「そう……ですね……」と歯切れの悪い言い方で応えた。


「もう、アリシアはダンジョンでやっていけるようになったし、ボクも盾の修理とかがあるから、二人で一緒にいる必要ない……よね?」

「……はい」


 そこから、二人とも黙ってしまった。

 つまり、今後は別々にやっていくことになる――そう伝えなければいけないのだけど、どうしてもそれが言えない。


 楽しかった――


 二人で仕事をすることが、とても――


 魔盾を作って、ダンジョンに行って、ゴブリンを狩って……


 だけど、そんなことをいつまでも続けられない。ボクは盾職人で、彼女は戦闘系のジョブなのだ。

 きっと、彼女もそう思っているだろう……でも、できることなら……


「あのさ」

「あの……」

 二人同時に声を出す。


「え? なに?」

「ヒロトさんこそ、なんですか?」

 ボクは「アリシアから言って」と伝えるのだが、アリシアも「ヒロトさんからどうぞ」と言ってくる。


「それじゃ、二人で同時に言おうか?」

「は、はい」

 ボクは少しだけ期待していた。もしかしたら、彼女も同じことを考えているんじゃないかと……

 そんな、根拠のない思いが、こんな提案になったのだ。


「それじゃ――せいの――」


「このまま、一緒に仕事を続けないか?」

「このまま、一緒に働かせてもらえませんか?」

 同時に言って、同時に驚いた。二人で顔を見合う。そして、笑った……


「また、食事を作ってもらっていいかな?」

「はい! よろこんで!」

 やっぱり、彼女も同じ気持ちだったんだ。そう思うと、なんかとてもうれしかった。


 それから、の工房に戻ると、さすがに今日も同じ部屋というわけにはいかないので、倉庫として使っていた隣の部屋を片付け、アリシアの寝るところを作る。ちょうど、同じ高さの箱が六つあったので、それをベッドにして、買ってきた布団を敷いた。


「まだ、ゴチャゴチャしているけど。明日、片付けるから――」

「いえ、このままでも大丈夫です。寝るところを作ってもらっただけで充分です!」


 彼女はそう言ってくれるのだけど、さすがにそれじゃ申し訳ない。今日は、倉庫の荷物を工房に移して、明日、近くに倉庫を借りることにしようと考える。


 こうして、二人の同居生活は続くこととなった。

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