第15話 感謝されることとなる

 その冒険者は興奮しながら、さっきの戦いを語り始める。


「言われたとおりに、この盾に魔力を加えたら、魔物が集まって来るじゃないか! しかも、ヤツら盾しか攻撃してこないんだよ。だから、なんなく倒せるんだ!」


 彼は腰にぶらさげた巾着袋を開けて、大量の魔石を見せてくれた。同じ時間で、今までより何倍も多く倒せた。しかもノーリスクだから、魔物の群れに突っ込むのが楽しくてしかたなかった――そんなふうに言うではないか!


「はい! それが魔盾まじゅんの効果です」

「――まじゅん?」


 魔石で魔物の敵意を引き寄せる効果を持たせた盾――だから『魔盾』なんだと説明する。


「そうか! 魔盾まじゅんか! うん、その名にふさわしい、本当にスゴイ盾だ! これは大発明だよ!」


 そこまで褒めてくれるなんて――めちゃくくちゃウレシイ! 作ってヨカッタ!



「それで、これいくらなんだ?」

「えっ?」

 代金を払うと、その冒険者は言う。


「いえ、みなさんのおかげでスタンピードがおさまったのだから、おカネなんてもらえません」

 そう断るのだが、彼は「こんなに素晴らしい盾をタダでもらうわけにはいかないよ」と言ってくれた。


 そんなに喜んでくれたことのほうが、おカネよりもずっとうれしいのだけど、アリシアにもおカネを渡してあげなければと思ったので、せっかくだからもらうことにする。

 だけどいったい、いくらもらえばイイのだろう……


 いつも、武器屋に卸している売値は銀貨三枚だった。武器屋はそれを銀貨五枚程度で販売していた。ということは――魔石分、銀貨一枚上乗せして、銀貨六枚かな……と考える。


 いや、待てよ……こんなに喜んでくれるんだから、もう少し吹っ掛けられるんじゃないだろうか?


 そうしたら、アリシアに渡せるおカネも増やせる!

 それじゃ……


「えーと、銀貨八枚でイイですか?」

「銀貨八枚だと⁉」

 冒険者が目を丸くするので、慌てる。ヤバい! さすがに吹っ掛けすぎたか⁉


「そんなに安いのか⁉」

「――えっ?」


 安い――?

「それで、この性能とは! キミたちは神か⁉」


 なんか、ものスゴく驚かれて、逆に拍子抜けしてしまう。

「はあ……」と気の抜けた返事をしてしまった。


「わかった! それじゃ、これで」

 そう言って、冒険者はボクに大銀貨一枚を渡した。


「あっ! スミマセン、今、おつりがなくて……」

「何を言っているんだ? おつりなんていらないよ。それより、またこれを作ってくれよ! じゃあな!」

 その冒険者は満足そうな顔をして、城門へ向かった。


「ヒロトさん、ヨカッタですね!」

 アリシアが笑顔でボクにそう言う。


「ああ……なんか、すごくほめられちゃったね」と、ボクは頭を掻いた。


 するとアリシアが頭を横に振る。

「本当に、スゴいんですよ。この『魔盾』は――」


 あの冒険者が言うとおり、大発明なんだとアリシアも言ってくれた。


「うん、これもアリシアのおかげだ。キミがいなければ、『魔盾』はできなかった」


 魔物の敵意を引き寄せる魔法――そんなモノがあることなんで、アリシアから聞かなければ知らなかった。アリシアと出会いて本当にヨカッタ!


「わたしこそ、ヒロトさんに会えて、こんなにイイ思いができました。本当にヨカッタです!」


「――えっ?」



 その時、別の冒険者も近づいてきた。


「この盾の代金、オレも払うよ」

「えっ?」


 そう言って、大銀貨を手渡す。



 それからも、魔盾を渡した冒険者が次々やってきて、おカネを払ってくれた。なにより、全員とても喜んでくれていたのが、とてもうれしい。


 結局、大銀貨二十枚という大金をボクは握りしめていた。



「ハ、ハ、ハ……なんか、スゴいことになったね」

「そ、そうですね……」

 アリシアも目を丸くしていた。


「せっかくだから、ちょっと贅沢をして、お昼は外食にしようか?」

「――えっ?」

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