第14話 スタンピード襲来! となる

 スタンピード――

 魔物が大挙して向かってくる現象のことである。


 一、二か月に一度、大規模なスタンピードが王都近くまでやってきていた。時には城門を突破され、王都内にも入り込んで大きな被害をもたらすこともある。


 現地人で構成する騎士団と王都に残る召喚人の冒険者たちが、防衛のため戦うのだが、毎回、多数の犠牲者が出ていた。


 前回、王都近くで発生したスタンピードでは、召喚人しょうかんびとの冒険者も百人近くが亡くなっている。一部は王都内に入り込み、市民にも犠牲者が出る大惨事になってしまったのだ。


 だんだんスタンピードの規模が大きくなっているという声もあり、冒険者ギルド、騎士団が警戒していたのだが――


「こうしてはいられない――」と、ボクは下ろしたばかりの魔盾をもう一度手押し車の上に乗せ始めた。


「どうするのですか?」

「ありったけの在庫を持って、城門の外に行くんだ!」

 魔物と戦って、盾が壊れることもある。そんな冒険者のために盾を無償で配るんだと説明する。


「えっ? そんなことをしたら、ヒロトさんが損するんじゃないですか⁉」

「そうだけど、戦いに負けたら、損だなんて言ってられないからね」

 王都を守るために、自分もやれることをやりたいんだ――そう伝えた。


「そうなんですね。わかりました! 私も手伝います!」

 アリシアも一緒になって手押し車に乗せる。

「ありがとう! アリシア!」

「いえ、私もお役に立ちたいんです!」



 盾を乗せ終わると、二人で城門へ向かった。

 城門近くは、逃げてくる一般市民と、外へ向かう冒険者や騎士たちで大変な騒ぎになっている。


「危ないだろ! どけ!」

 殺気だった冒険者や逃げ惑う市民たちが、手押し車を引っ張るボクたちに文句を言う。


「きゃあ!」

 後方から荷台を押していたアリシアに、逃げてきた中年男性がぶつかってきて、彼女が倒された。

「邪魔なんだよ! このやろ!」

 そう言い捨てて、王都の中心部へと走っていってしまう。


「アリシアさん、大丈夫⁉」

「はい……大丈夫です」


 混乱しているから仕方ないのかもしれないけど、こっちもみんなを守るためにガンバっているのに――そう思うと、ちょっとやるせなくなる。


 気を取り直して、城門の外に出た。すでに魔物の群れがここからでも見えた。しかし、応戦する冒険者がどんどん増えてきている。今は膠着状態というところだ。


 それが一時間くらい続くと、冒険者側にもケガ人が現れる。城門前に運ばれて治癒魔法をかけてもらっている姿が見られた。


「よし、ボクらもガンバろう」

「はい!」

 アリシアもやる気を見せている。


「盾が必要な人はこちらを持っていってください!」

「盾あります!」

 そう二人で叫んだ。


「盾をもらえるか⁉」

 剣士の男性冒険者がそう言って、ボクに近づいてきた。


「はい、どうぞ!」

「ありがたい――ん? なんだ、これ? 魔石か?」

「はい! 盾に魔力を込めて使用してください。魔物の敵意が盾に引き付けられます」


 そう言うと、ちょっと不思議そうな表情をその冒険者は見せたが、「わかった、やってみる」と言って、再び戦線に駆け出した。


「よし、この調子で!」

「はい!」


 それからも、盾をほしがる冒険者が次々と現れる。彼ら全員に魔盾まじゅんの説明をすると、半信半疑ながら「試してみる!」と言ってくれた。

 そして、あっという間に準備した二十枚がなくなる。


 それからは戦況を見守るしかなかった二人だが、あきらかに魔物を押し返している様子が伺えた。戦線がここからどんどん遠ざかっている。


「――どうやら、勝てたようだな」

「はい、そのようですね」

 アリシアもホッとした表情を見せる。


 冒険者たちが何人もこちらに戻ってきた。魔物は退散したようだ。

「勝ててよかったですね!」

 アリシアが笑顔で言うので、ボクも「うん、よかった!」と微笑んだ。


「じゃあ、帰るか」

 そう言って、手押し車をUターンさせた時。こっちに向かってくる人物が見えた。


「おいキミたち! 盾をくれたキミたち!」


「えっ? あ、はい?」

「よかった間に合って。お礼を言いにきたんだ」

「お礼?」


 そう言われて、最初に魔盾をあげた冒険者だったと思い出す。

「ああ、この盾スゴイな!」


「――えっ?」

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