第13話 不良在庫となる

「すまないが、それは要らないよ」

「――えっ?」

 

 さっそく、魔盾まじゅんを武器屋に持って行って売り込んだのだけど、オヤジから買い取りを断られてしまう。


「そんな……使ってみたら、絶対にこの盾のスゴさがわかりますから!」

 ボクは、魔盾の素晴らしさを一所懸命説明のだが、オヤジには伝わらないようだ。


「ヒロト君、だからといってもねえ……結局、盾に求められているのは性能じゃなくて、安さなんだよ。なのに、魔石を取り付けたりしたら、かえって価格が上がっちゃうでしょ?」


 付加価値を加えるより、原価を下げてできるだけ安い盾を作ってほしい――オヤジはそんなことを言う。


「原価を下げるったって……」

 これ以上、安い材料を使ったら、盾の性能も耐久性も下がってしまう。品質だって安定しない。そんなモノを客に売るなんて、盾職人としてのプライドが許さない。


「でもね、それが今のニーズなんだよ」

 そう言われるともう説得のしようがなかった。



 仕方ない……今日も在庫を持ち帰ることにする。

「残念ですけど……大丈夫ですよ。きっと、いつか魔盾のスゴさをみなさんわかってくれますよ」

 アリシアはボクをはげましてくれるのだが……


「そうはいっても、こんなに沢山の在庫、いったいどうすれば……」

 こんなことなら、二十枚全部、魔石を取り付けんじゃなかったと後悔した。


 工房に戻ってきたところで、ボクはアリシアに頭を下げる。

「ゴメン。アリシアの魔石十六個の代金だけど、しばらく待ってもらえるかな?」

 今日の売り上げから、彼女に支払おうつもりだった。なのに、そのがはずれてしまい、申し訳なく思う。


「そんな。あれはヒロトさんの魔盾があったから手に入ったのです。だから、ヒロトさんのモノですよ」

 彼女はそう言ってくれるのだが、やっぱり、それじゃダメだ。


「それに、魔石に魔法を封じ込めた作業代も払わなくちゃいけないし……」

「それは――そう、私を泊めてくれたお礼です。おカネなんてもらえません!」

「でも、料理も作ってくれたし――」

「食材はヒロトさんが買ったモノですよ。逆に私が食べた分をお払いしなければ……」

 そんな言い合いをしているうちに、二人とも笑ってしまう。


「もう、その話は終わりにしましょ?」

「うん、そうだね。後悔しても仕方ないし……おカネが足りなくなったら、昨日みたいにダンジョンで狩りをすればイイんだよね」

「はい!」


 ダンジョンに行けば、魔石を手に入れられる。つまり、おカネは稼げる。だから、もう生活に困ることはない。そう思えるだけでも、ずいぶんと気持ちがラクになった。


「それじゃ、ボクはアーノルドさんから預かった大盾の修理を……」

 その時、外から笛の音が聞こえた。


 ピーッ! ピーッ! ピーッ!


 長い笛の音が三回。

「これって……」


「スタンピードだ!」

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