逆恨み
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一条は雄叫びを上げると、渾身の一撃を放つべく拳を握った。それを見た神崎は防ごうと身体を動かす──だが、間に合わずに彼は拳をまともに受けてしまった。
「ぐはぁっ!」
神崎は声を上げると、地面に倒れた。
一条は肩で息をしながらも何とか立っている状態だったが、それでも勝ったという確信はなかった。何しろ相手は、あの神崎なのだ……油断すればこちらがやられるだろう。
「う……ぐっ……」
神崎は呻き声を上げながら立ち上がると、一条に向かって突進してきた──だが、その動きは明らかに鈍っていた。どうやら先程の一撃が効いているらしい。
一条は攻撃を避けると、神崎に蹴りを入れた。
「ぐふぅっ……!」
神崎は大きくよろめく──それを見てチャンスだと思った一条は再び攻撃に転じた。
容赦なく神崎の腹部に拳を叩き込む──そして、神崎は地面に膝をつくと、苦しそうに息を吐き出した。
「はぁ……はぁ……て、てめえ……」
「まだやるか?」
一条がそう聞くと、神崎は首を横に振った……そして、彼は舌打ちをしたかと思うと立ち上がった。どうやら降参するつもりはないらしい──だが、もはや戦える状態ではないことは明らかだった。
一条は拳を握り締めると、勢いよく拳を振りかぶった──そして、それが神崎の顔面にヒットした。
「ぐはっ……!」
神崎は大きく吹き飛ばされると、地面を転がった。
その様子を見て、一条は勝利を確信した。
「はぁ……はぁ……」
神崎は倒れたまま動かない──どうやら気絶しているようだ。
一条は大きく息を吐くと、その場に座り込んだ。身体中に痛みが走るが、それでもセリナを守り抜いたのだという達成感の方が大きかった。だが、油断は禁物だ……いつ神崎が目を覚ますか分からないのだから……。
「悠人くん!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには心配そうな表情をしたセリナが立っていた。
彼女の姿を見て安心したせいか、急に身体の力が抜けて倒れそうになったが……なんとか堪えた。
「大丈夫!?」
「うん、何とかね……」
一条はそう答えると、セリナはホッとした表情を浮かべた。そして、ゆっくりと近づいてくると、優しく抱きしめてくれた──甘い香りに包まれて思わずドキッとしたが、同時に疲れも押し寄せてきて何も考えられなくなった。心地よい疲労感に包まれていると、セリナが耳元で囁いた。
「ありがとう……守ってくれて……」
「当然のことをしただけだよ……」
そう言って一条が笑うと、セリナも微笑んだ──その笑顔がとても美しく見えて見惚れてしまうほどだった。彼女はしばらくの間ずっと一条を抱きしめていたが、やがてゆっくりと身体を離すと、彼女は口を開いた。
「悠人くん……詳しくお話を聞かせて」
セリナの表情は真剣そのものだった。
一条は頷くと、これまでの経緯を全て彼女に話すことにした──名無しの権兵衛のこと以外は……。
◇◆◇◆
「そうなんだ……そんなことがあったんだね……」
セリナは複雑な表情を浮かべると、静かに呟いた。無理もないだろう……ただでさえ疲れているのに、更に追い討ちをかけるような出来事が起きたのだから。
「ごめん……もっと早く伝えておけばよかったんだけど……」
一条は申し訳なさそうな表情を浮かべるが、セリナは首を横に振った。
そして、穏やかな笑みを浮かべると言った。
「ううん、気にしないで……それより今は、神崎くんをどうするかを考えましょう」
そう言うとセリナは神崎の方を見た──彼は未だに地面に倒れたまま動かない。
このまま放置しておくわけにもいかないので起こそうと一条が近づくと、不意に神崎が起き上がった。
「うっ……!」
神崎は小さく呻くと頭を押さえる──だが、すぐに我に返ると、怒りに満ちた表情で一条たちを睨み付けた。
「てめぇら……ぶっ殺してやる!」
神崎はそう叫ぶと拳を振り上げた──だが、その直後だった!
セリナが放った平手打ちが神崎の頰に当たったかと思うと、彼は地面に転がったのだ!
突然のことに一条は呆然としていると、セリナは冷たい口調で言った。
「まだ懲りないみたいね……」
セリナは神崎に歩み寄ると、冷たい視線で見下ろした。
「神崎くん……あなたは最低で世界一のクズ男よ」
「なっ……」
神崎は驚いて目を見開くが、すぐに怒鳴り散らした。
「黙れ! バカ女が俺に説教するんじゃねぇ!」
「バカはあなたです!」
セリナはそう言って、平手打ちを繰り出した。
『パシンッ!』という音が響くと、神崎は苦痛に顔を歪めた。
「いっ……!」
「はぁ……まったくあなたは、どれだけ恥を晒すのですか……」
セリナはそう言ってため息をついた。
そんな彼女に向かって、神崎が怒鳴る。
「黙れ黙れ黙れ黙れ……黙れぇぇぇぇぇぇぇ!! てめぇに僕の何が分かるっていうんだよ!」
「分からないし、知りたくもない!」
セリナはきっぱりと言った──そして、軽蔑するような視線を向けた。
その表情を見た神崎は、悔しそうに唇を嚙んだ──だが、それでもまだ懲りていないようだ。彼は立ち上がると、今度は一条に向かって罵声を浴びせてきた。
「おいっ! お前のせいだぞ! 全部お前のせいなんだよ! お前が僕の邪魔をしなければ、こんなことにはならなかったんだ!」
神崎は一条の胸ぐらを掴むと、思い切り揺さぶった。だが、それでも一条は何も答えなかった。むしろ冷めた目で見つめるだけだった。それを見た神崎は舌打ちをすると、今度はセリナに向かって叫んだ。
「おいっ! バカ女! こんな奴のどこがいいんだよ!?」
だが、セリナは冷ややかな視線を送るだけで何も言わなかった──それに腹を立てた神崎はさらに声を荒らげる。
「クソッ……てめぇら絶対にぶっ殺してやる!!」
そう言うと神崎は、ポケットから折りたたみナイフを取り出した。
それを見た一条は慌てて叫んだ。
「セリナさん、危ない!」
しかし、既に遅かった──神崎はセリナに向かって突進すると、彼女を押し倒した。
そして、馬乗りになると──手に持ったナイフを彼女の首に近づけたのだった。
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