情報提供

 2人がやってきたのは新宿駅東口から少し離れたところにあるカフェだった。

 店内に入ると店員が出迎えてくれたので、空いている席へと案内してもらった。


 そして、それぞれが飲み物を注文した後で──一条は口を開いた。


「昨日の電話の内容は本当なんですよね?」

「ああ、本当さ」


 男は即答する──あまりにもあっさりとした返答だったので、少し拍子抜けしてしまった。


「それで……このままだとセリナさんが死ぬってどういうことですか?」

「そのままの意味だよ……このままだと彼女は死ぬことになる」

「どうしてセリナさんが死ぬのかちゃんと説明してください!」


 一条は少し苛立った様子で尋ねた。


「君は随分とせっかちなんだね?」


 男はククッと笑うと、神妙な面持ちになって言った。 


「まあ、いいだろう……彼女を救うためには君に動いてもらわなければならないからね。私が知っていることを全て話してあげるよ」


 男はそう言うと、考え込む素振りを見せながら呟いた。


「まずはどこから話そうか……」


 一条は緊張しながら男の言葉を待つ──すると、男は静かに口を開いた。


「その前に1つだけ聞いておきたいことがあるんだけど……」

「何ですか?」

「君はセリナちゃんのことを愛しているかい?」


(なっ……!)


 唐突な質問に一条は動揺してしまったが、すぐに平静を取り戻すと静かに答えた。


「はい、もちろんです」


 一条の言葉を聞いた瞬間、男はククッと笑うと言った。


「そうか……それなら安心したよ」

「……どういうことですか?」


 一条が尋ねると、男は淡々とした口調で答えた。


「いやなに……もし君がセリナちゃんのことを愛していなかったら、どうしようかと思ってね……」


(どういうことだ?)


 一条は疑問に思ったが、あえて聞かなかった──今は少しでも情報が欲しかったからだ。


 それからしばらくの間沈黙が続いた後で、男は再び話し始めた。


「セリナちゃんはね、とある人物に狙われているんだよ」

「とある人物……?」

「その人物は君もよく知っているはずだよ」

「……誰ですか?」


 一条が尋ねると、男は答えた。


「セリナちゃんのストーカーだよ」

「え……? それってどういう……)


 一条が戸惑っていると、男は続けて言った。


「彼女はそのストーカーに毎日つきまとわれているんだ。しかも日に日にエスカレートしている。最近では彼女の自宅の前まで押しかけているよ」


 男が話している内容は衝撃的だった……まさかセリナさんがそんな目に遭っていたとは思いもしなかったからだ。


「それで、俺はどうすればいいんですか?」

「なあに、簡単なことさ──君がセリナちゃんを救い出すんだよ」


(救えるのか? 俺が……セリナさんを……)


 一条は戸惑った。自分に彼女を救えるだけの勇気があるのか不安だったのだ。


 すると、男は優しく微笑んで言った。


「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。君はセリナちゃんにとって、かけがえのない存在なんだ……自信を持っていいと思うよ」

「そうですかね……」


 そう言いながらも一条は考えていた──自分に何ができるのかということを……。


(でも、今はやるしかない……!)


 決意を固めた一条に男が尋ねる。


「それで……どうする?  早速行動に移すかい?」


 一条は力強くうなずいた──すると男は、笑みを浮かべた後で言った。


「それじゃあ最後に、1つだけ忠告しておくよ」

「何ですか?」

「くれぐれも無茶だけはしないようにね……。もし君が死んでしまったら、全てが終わってしまうんだ──それだけは覚えておいてくれ」


 男は真剣な口調で警告するように言った。

 一条は黙って肯くことしかできなかった──それほどまでに男の目は真っ直ぐだったのだ。


(この人は一体何者で何を考えているんだ……?) 


 そんな疑問が一条の頭をよぎったが、今は深く考えないようにしようと思う……今考えるべきことは彼女を救うことだ──それ以外は全て後回しでいい。


「それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ」


 男はそう言って立ち上がる──そして、一条の耳元でこう囁くと店を出ていった。


「君がセリナちゃんを救い出すのを楽しみにしているよ」


 その声を聞いた瞬間、背筋に冷たいものを感じたが──それでも一条は絶対に彼女を救うという強い決意を胸に抱きながら、その場を後にしたのだった──。

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