放課後デート

 一条とセリナは教室を出ると、そのまま映画館へと向かった。道中では他愛もない話をしながら歩いていた2人だが、不思議と会話が途切れることはなかった。むしろ、もっと話していたいという気持ちにさせられたくらいだ……それくらい一条はセリナと過ごす時間は楽しかった。


 やがて目的地に到着した──そこは大きな映画館で上映されている作品は洋画から邦画まで幅広いジャンルのものが揃っているようだった。

 

 セリナは迷うことなく中へ入ると、そのままチケットを購入した。その後、飲み物を購入するために売店へと向かうことになった。


 一条がレジで注文を済ませると、セリナは小さな袋を手に持っていた。どうやら店舗限定の飲み物らしい……それを見た瞬間、一条は俄然興味が湧いてきた。


「それってどんな味なの?」

「ふふっ……飲んでみる?」


 セリナは悪戯っぽい笑みを浮かべながら聞いてきたので一条は素直に頷いた。すると、彼女はドリンクを差し出してくる──それを受け取ると、一条は一口飲んだ。その瞬間、口の中に何とも言えない甘みが広がるのを感じた……それと同時に爽やかな香りが鼻を抜けていった気がした。


 その味わいはまさに絶品としか言いようがなかった。


「美味しい……今まで飲んだことのない味だ」

「不思議な味だね!」


 セリナは嬉しそうに微笑んでいた──そんな彼女を見ていると、自然と心が安らいでいく気がした。本当に可愛らしいと思う……できることなら24時間毎日一緒にいたいとさえ思ったほどだ。


 そんなことを考えているうちに、上映時間が近づいてきたので、急いで劇場内へと向かった。


 中に入ると、席はほぼほぼ埋まっていた。

 一条たちは最後尾から2列目というなかなか良い席に座ることができた。

 それと同時に照明が落とされていき、映画が始まった──内容はよくあるラブストーリーだったが、主人公たちの心情描写が非常にリアルだったため感情移入することができた。特に最後のシーンは思わず涙が出そうになったほどだ……それくらい感動的だった。


 2時間近くある作品だったが、あっという間に時間が過ぎていった。


「すっごく感動的な映画だったね!」


 映画館を出た後、セリナは興奮気味に言った。

 その言葉を聞いた一条も大きく頷いて同意する。


「うん……最後のシーンは特に感動的だったね」

「あの主人公の気持ちを考えると……涙が止まらないよぉ」


 一条はふと腕時計を見る──時刻は午後7時前を指していた。空を見上げると既に真っ暗になっていて、街の明かりが灯っていた。その景色を見て思った──まだ一緒にいたいと……。


「セリナさん、もしよかったら夕食を食べてから帰らない?」

「えっ!?」


 突然の提案に驚いたのか、セリナは目を大きく見開いていた──だが、すぐに笑顔になると嬉しそうに頷いた。


「そうだね! ご飯食べてから帰ろっか!」


 2人は近くのレストランに入店した。


 席に着くと、メニューを広げて注文する料理を決めることにした。


「悠人くんは何にする?」

「そうだなぁ……俺はこの和風おろしハンバーグにしようかな」


 一条がそう言うと、セリナは少し考える素振りを見せた後で口を開いた。


「私はオムライスにしようかな」


 2人は注文を終えると、料理が来るまでの間、雑談をして過ごすことにした──話題は主に先ほど観た映画の感想についてだった。

一条がそれを語っている間、セリナは楽しそうに相槌を打ちながら聞いてくれた。それだけで心が温かくなっていくのを感じた。


 それからしばらくすると、やがて料理が運ばれてきた。2人ともお腹が空いていたので夢中で食べ進めていった──そして、あっという間に完食してしまった。


「美味しかったね!」

「うん! とっても満足!」


 2人は満足そうに微笑むと、店を出た──辺りは既に真っ暗になっていたが、街の明かりで周囲は明るく照らされていた。

 このまま帰るのも少し寂しいと思い、一条は勇気を出してセリナに声をかけた。


「セリナさん……もしよかったら、もう少し一緒にいれない?」


 すると、セリナは頬を赤らめてモジモジしながら答えた。


「私も……もう少し悠人くんと一緒にいたい……」


 その言葉を聞いた瞬間、一条の中で嬉しさが込み上げてきた──そして同時に胸が高鳴った──きっと今の自分は顔が赤くなっているのだろうと思った。


「じゃ……じゃあどこか行きたい場所とかある?」


 すると、セリナは少し考えた後で口を開いた。


「その……よかったら私の家に来ない?」


 その言葉に一条は耳を疑った──まさか家に誘われるとは思わなかったからだ。だが、断る理由もないので素直に頷いた。


 そして──セリナの家へと向かうのであった。

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