忍び寄る影

 店内に入ると香ばしい匂いが鼻腔を刺激する……それだけで食欲がそそられるような気がした。


 席に着くと、一条はメニュー表を開いた。

 するとそこには、様々な種類のラーメンが載っていた。どれも美味しそうだったので目移りしてしまう……。


「俺は味噌ラーメンにしようかな」

「私も、お兄ちゃんと同じのにする!」

「じゃあ、私もそれにしようかな」


 3人は同じものを注文することを決めた。


 そして──一条は店員を呼ぶと、注文した。


 それから数分待つと、料理が運ばれてきた──まずはスープを一口飲む──濃厚な味わいだ。口の中に広がる味噌の風味がよく、とても美味しい。次は麺を啜る──コシのある中太麺で食べ応えがある。スープとの相性も抜群だった。


 3人は夢中になって食べ進めていった。


 そして──あっという間に完食してしまった。


「美味しかったな」


 一条が満足そうに言うと、茜は笑顔で同意した。


「うん! ここのラーメン最高だね!」

「本当に美味しかった!」


 2人とも満足そうな表情をしていた。

 そんな2人を見て、一条も嬉しくなった。


(今日は2人が喜んでくれたようで良かった……)


 その後、一条は会計を済ませると、店を後にした。外に出ると既に日は沈み、辺りは暗くなっていた。街灯の明かりだけが頼りだ。だが、一条は不思議と怖くはなかった──隣に大切な人達がいるからだろう。


 3人で並んで歩きながら帰路につく……その間も会話は途切れなかった。話題は主に今日のことについてだったが、それだけで十分楽しかったし楽しめた。


 やがて別れ道に差し掛かると、一条は立ち止まりセリナの方を見た──すると、彼女も同じように足を止めて見つめ返してきた。


「セリナさんと一緒に出かけれて、とても楽しかったよ!」


 一条は素直な気持ちを伝えた。

 すると、セリナは頬を赤らめて微笑んだ。その表情はとても可愛らしくて思わず見惚れてしまうほどだった。


「私も楽しかった! 悠人くんと一緒にれて!」


 2人の視線が交差する──その瞬間、2人とも自然と笑みがこぼれた。

 そして、お互いに手を振り合うとそれぞれ帰路についた……その後ろ姿を見送りながら考える。


(明日からまた学校か……)


 そう思うと、一条は憂鬱な気分になった。だが、同時に楽しみでもあった──なぜなら明日もセリナに会えるからだ。


(よしっ……頑張ろう!)


 一条は心の中で気合いを入れると、帰路についた。


 そんな一条たちの後ろ姿を遠くから見ている人物がいた。その人物はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、静かにその場を後にしたのだった──。


◇◆◇◆


 翌日──一条は学校へ行くために自宅を出た。そして、いつものように徒歩で通学路を進んでいく──途中、信号待ちをしている時に空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。その美しさに見惚れていると、後ろから声をかけられた。


「おはよう……悠人くん」


 一条が振り返ると──制服姿のセリナがいた。彼女の笑顔を見た瞬間、胸が高鳴るのを感じた──それと同時に幸せな気分になった。やはり好きな人と一緒にいる時間は特別だと思う……だからこそ大切にしたいのだ。


「おはよう、セリナさん」


 2人は挨拶を交わすと歩き出した──その途中で一条は周囲を見回す──周囲には同じ制服を着た生徒達の姿があり、皆楽しそうに談笑しながら登校しているようだった。

 その光景を見ていると自然と笑みがこぼれてくる。


「どうかしたの?」


 セリナは不思議そうに首を傾げながら聞いてきた。


 そんな彼女に向かって、一条は言った。


「いや……ただ幸せだなって思っただけだよ」

「そっか……。私も幸せだよ! 悠人くんと一緒に居れて!」


 セリナは満面の笑みを浮かべながら答える──その笑顔が眩しくて、一条はつい見惚れてしまった。そんなことを考えているうちに学校に到着した。


 玄関口で靴を上履きに履き替えると、そのまま教室へと向かうことにした──その間も他愛もない話をしたりして楽しい時間を過ごしたのだった。


 そして、自分たちの教室に辿り着くと中に入っていく……するとそこには、既にクラスメイト達がいた。各々が好きな場所に座って談笑しているようだったが、一条達が入ると一斉に視線を向けてきた。その視線に居心地の悪さを感じたが、すぐに慣れた。

 

 一条は窓際にある自分の席に座ると、いつものように窓の外を眺めることにした──すると、隣の席のセリナが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、悠人くん……今日の放課後って空いてる?」


 突然、そんなことを聞かれた一条は驚いた。


 だが、特に予定はないので正直に答えた。


「ああ、大丈夫だよ」


 すると、セリナは嬉しそうな表情を浮かべて言った。


「それなら放課後、一緒に映画を見に行こうよ!」

「うん、いいよ」


 一条は即答した──断る理由などあるはずがないのだから当然だが……。


 一条の返事を聞いたセリナは嬉しそうに笑っている。


 それから間もなくして担任の教師が入ってきたので会話はそこで終わった……その後はいつも通りの時間が過ぎていった。


 授業が始まり、教師が黒板に文字を書いていく音が響き渡る──その単調な音に眠気を誘われてしまいそうになるが、なんとか堪えてノートを取っていた一条。だが、次第に瞼が重くなっていきウトウトし始める。


 すると、隣の席のセリナから声をかけられた。


「悠人くん、眠たいの?」


 セリナは心配そうな表情を浮かべている……どうやら居眠りをしていたのを見られていたようだ。


 一条は苦笑いを浮かべながら答える。


「ちょっとだけな……」

「ふふっ……ダメだよ、授業中に居眠りしちゃ……」


 セリナは微笑みながら言った──その表情はとても優しげで慈愛に満ちたものだった。思わず見惚れてしまうほどの美しい笑顔だったが、すぐに一条は我に返ると、誤魔化すようにして話題を変えた。


「そういえば、映画ってどんなジャンルのやつを見るの?」

「うーん……恋愛ものかな」

「えっと、それってつまり……恋人向けのってこと?」


 一条は少し照れくさそうにしながら聞き返した。


 すると、セリナは笑顔で答える。


「うん、そうだね!」

「そっか……」


 一条は一瞬戸惑ったが、すぐに納得した。セリナが映画それを望むのなら、自分は喜んで協力したいと思っていたからだ──それに自分も少し興味があるし断る理由はないと思ったからである。


 そして──放課後になった。

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