遊園地デート

 電車に揺られること30分──3人は遊園地に到着した。休日ということもあり、多くの人で賑わっている。


「まずは何に乗ろうか?」

「ジェットコースターに乗りたい!」


 セリナが真っ先に答えた。

 彼女は瞳を輝かせているように見えた。

 よほど楽しみなのだろう……そう思ったら微笑ましい気持ちになった。

 茜も頷いていたので、2人とも賛成のようだ。


「じゃあ、行こうか」


 3人はジェットコースター乗り場に向かった。

 並んでいる間もセリナはソワソワしていた。

 余程楽しみなのだろう……一条は微笑ましく思った。


「楽しみだね!」

「そうだね」


 一条とセリナが話していると──茜が会話に割って入ってきた。


「ねえ、お兄ちゃん……ちょっといい?」

「ん? なんだ?」

「その……手、繫いでもいい?」


 茜が恥ずかしそうに尋ねてきた。

 一条は驚いた──普段、自分からそういったことを言わない妹が、そんなことを言ってくるとは思いもしなかったからだ。


 一条は嬉しくなり──笑顔で答えた。


「いいよ」

「やった!」


 茜は嬉しそうな表情を浮かべると、一条の手を取った。そして、ギュッと握りしめてくる。心なしか妹の頰が赤く染まっているように見えたが……きっと気のせいだろう。


 3人は順番がくると、ジェットコースターに乗り込んだ。安全バーが下がり、ゆっくりと上昇していく──そして、頂上まで来ると一気に急降下を始めた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 一条の隣に座るセリナが悲鳴を上げる。

 一条も心臓が飛び出しそうな気分だったが──隣を見ると、茜は目を輝かせていた。

 どうやら絶叫マシンが好きなのかもしれない……そう思ったら微笑ましくなった。


 ジェットコースターから降りると、3人はベンチに座って休憩することにした。

 飲み物を買うために一条が自販機に向かうと、茜が口を開いた。


「お兄ちゃん、私はカルピスがいい」

「はいよ。セリナさんは何飲みます?」

「私は……ミルクティーで」


 一条は自販機で飲み物を買うと、2人の元へ戻った。そして、買ってきた飲み物を手渡す。

 3人は飲み物を飲みながら、ゆっくりとした時間を過ごすことにした。


 すると──セリナは何かを思い出したかのように一条に話しかける。


「その……悠人くんに聞きたいことがあるんだけど……」


 セリナはモジモジしながら聞いてきた。

 気になった一条はとりあえず聞いてみた。


「なに?」


 セリナは少し間を置いてから──意を決したように言った。


「その……悠人くんは私と妹さん……どっちが好きなんですか?」

「えっ!?」


 一条は驚いた声を上げた。

 セリナは真剣な眼差しで一条を見つめる。


(どうしよう……答えるべきなのか?)


 すると、茜が口を開いた。


「そんなの決まってんじゃん! お兄ちゃんは私のことが大好きなんだよ!」


 茜は堂々と宣言した。

 確かにその通りなのだが……やはり恥ずかしいものがある。


「あ、ありがとう……茜のことは好きだよ」

「えへへ……嬉しい!」


 茜は照れ笑いを浮かべている。

 そんな妹を見ていると胸がキュンとなるのを一条は感じた。


「わ、私だって悠人くんのことが大好きだよ!」


 すると今度は──セリナが対抗するように声を上げた。どうやら彼女も譲る気はないようだ。2人とも真剣な眼差しで一条を見つめてきている。


 一条は彼女たちの視線に圧倒されてしまった。


(ど、どうしよう……!?)


 2人は自分のことを好いてくれているらしい……その気持ちは本当に嬉しいし、ありがたいことだ。だが、どちらか1人を選ぶというのは難しい問題だ。


 一条は悩んだ末──正直に話すことにした。


「その……俺は2人とも大好きだよ」


 すると、2人は意外そうな表情を見せた。

 

 そして──お互いに顔を見合わせると笑い始めた。


「な、何がおかしいんだよ?」


 一条は困惑しながら尋ねた。


 すると──茜が答えた。


「だって、お兄ちゃんらしいと思ったから」

「どういう意味だよ?」

「お兄ちゃんは優しすぎるんだよ……少しは我儘わがままになってもいいのに」


 茜は優しい表情を浮かべながら言ってきた。

 その言葉にセリナも頷いている。

 どうやら2人とも納得してくれたらしい。


(良かった……)


 一条は安堵の溜息をついた──もしも逆の立場だったら、彼女たちと同じことを言ったかもしれない。一条がホッとした表情を浮かべると──茜が腕にしがみついてきた。そして、上目遣いで見つめてくる。その仕草はとても可愛かった。


「じゃあ次は、メリーゴーランドに乗りたい!」

「分かったよ。それじゃあ行こうか」


 一条と茜はメリーゴーランドに向かって歩き始めた。セリナは2人の後を追いかけながら思う──やっぱり自分は妹さんには勝てないのだと。


(でも、負けるつもりはないですよ?)


 セリナは心の中で呟いた。


 そして、彼女は微笑んだ──とても幸せそうな笑みだった。


 3人はメリーゴーランドに乗った。

 茜は嬉しそうにはしゃいでいたが、セリナは恥ずかしそうに俯いている。どうやら、こういった乗り物は苦手らしい。


「ねぇねぇ! 写真撮ろうよ!」


 茜が目を輝かせながら言ってきた。

 一条も賛成だった──せっかく遊園地に来たのだ。思い出を残しておくのも悪くないだろう。


「そうね。じゃあ、撮るよ!」


 3人はメリーゴーランドに乗りながらピースをして写真を撮った。記念すべき1枚だ。後でプリントアウトして飾ろうと思う──宝物になるだろう。


 その後も様々なアトラクションに乗り楽しんだ3人だが、楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうものだ。いつの間にか日が傾き始めていた。そろそろ帰らないといけない時間だろう……一条はそう思ったが、茜はまだまだ遊び足りないようだ。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん? なんだ?」

「最後に観覧車に乗りたい!」


 茜は目を輝かせながら言ってきた。

 一条も観覧車には乗りたいと思っていたので、茜の提案に乗ることにした。


 3人は観覧車に乗ると、向かい合わせに座った。

 ゆっくりと上昇していく景色を見ながら、一条は口を開いた。


「今日は楽しかったか?」

「うん! 凄く楽しかった!」


 茜は嬉しそうに答えた。その笑顔を見ていると、一条まで幸せな気分になってくる。

 セリナの方を見ると、彼女も微笑んでいた──どうやら彼女も同じ気持ちのようだ。


「それは良かった」

「でも、私はまだ満足してないよ?」


 茜は意味深な笑みを浮かべた。

 

 一条は首を傾げながら尋ねた。


「どういうことだ?」

「この観覧車の頂上でキスすると、永遠に結ばれるんだって!」


 茜は嬉々として言った。


 その瞬間──一条は嫌な予感を感じた。

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