彼女の手料理

 一条が目を覚ますと──目の前には美しい女性がいた。透き通るような白い肌に長いまつげ。整った鼻筋にぷるんとした唇。長い銀色の髪はサラサラと揺れており、朝日を浴びて輝いていた。 


 ──まさに女神のような美しさだった。


(綺麗だな……)


 一条はボーッとしながらセリナを見つめていたが──やがて我に返ると慌てて起き上がった。そして、周囲を見渡す。そこは自宅のリビングだった。


(夢か……)


 一条は安堵の溜息をつくと、自分の頰をつねった。痛い──どうやら現実のようだ。


 すると、突然声をかけられた。


「おはよう、悠人くん」


 セリナは笑顔で一条のことを見ている。

 一条は昨日のことを思い出し、顔が熱くなった。それを誤魔化すように、話題を変えることにする。


「お、おはよう……セリナさん」

「どうしたの? そんなに顔を赤くして……」

「なんでもないよ!」


 一条は誤魔化すように叫ぶと──顔を洗ってくると言って洗面所に向かった。冷たい水で顔を洗うと幾分か冷静さを取り戻すことが出来た。


 そして──リビングに戻ると、朝食の準備をしているセリナに話しかけた。


「あのさ……昨日のことなんだけど……」 


 すると、セリナはビクリと肩を震わせた。

 明らかに動揺している様子だったが、平静を装うとしているように見えた。


「えっと……昨日は大変だったね!」

「そうだね……」


 一条が苦笑いを浮かべると──セリナも苦笑いを浮かべた。そして、何事もなかったかのように朝食の準備を再開する。だが、その頰は2人とも赤く染まっていた。


(やっぱり昨日のことは夢じゃないみたいだな)


 一条は心の中で呟くと──セリナに話しかけてみた。


「ねぇ、セリナさん……」

「な、なに!?」


 セリナはビクッと身体を震わせると、一条を見た。その顔は真っ赤に染まっている。


(やっぱり可愛いなぁ……)


 一条はしみじみと思った。本当に自分には勿体無いくらいの美人だと思う。そんな彼女と付き合えているという事実を改めて実感しただけで幸せな気分になることができた。

 そんなことを考えているうちに時間が経っていたようだ──いつの間にか朝食の準備が終わっていた。テーブルを見ると美味しそうな料理が並んでいるのが見える。どれもセリナの手料理のようだ。


「俺、茜を呼んできますね」


 一条はそう言うと、妹の部屋に向かった。

 ドアを軽くノックする──返事がなかったため、一条はまだ寝ているのだろうと思い、中に入ることにした。


 部屋に入ると──茜は着替えをしていた。


 下着姿の彼女は一条の方を振り返ると、驚いた表情を浮かべた。


「お、お兄ちゃん!? 勝手に入ってこないでよ!」

「ご、ごめん!」


 一条は慌てて謝罪をすると、部屋を出ようとした──しかし、茜に呼び止められた。 


「待って! お兄ちゃん!」

「ん?」

「なんで私の部屋に来たの? 何か用事があるんじゃないの?」

「あっ……えっと……セリナさんが朝ごはんを作ってくれたから、茜を呼びに来たんだ」


 一条は答えながら思った──自分が妹の下着姿を見ても平然としていることに。先程までは動揺していたが、今では何も感じなくなっていた。

 慣れとは恐ろしいものだ……。


「ふーん、そうなんだ……じゃあ、先にリビングに行ってて」

「分かった……」


 一条は部屋を出ると廊下を進み始めた。

 そして──リビングに戻ると、セリナが出迎えてくれた。彼女の笑顔を見るとホッとする。

 やはり自分にとって彼女は、大切な存在なのだと実感できたからだ。


「悠人くん、妹さんはどうだった?」

「着替え終わったら来るって」

「そう……なら良かった!」


 セリナは嬉しそうに微笑むと、椅子を引いた。

 一条は彼女の仕草にドキッとしたが、平静を装いつつ椅子に座った。


 そして──一条はセリナと茜の3人で朝食を食べ始めた。


「いただきます」


 一条は手を合わせると、箸を手に取った。

 まずは味噌汁を一口飲んでみることにする──優しい味わいが口いっぱいに広がった。続いて焼き魚を食べることにした──程よい塩加減で美味しかった。ご飯もふっくらしていてとても美味しい。


(あぁ……幸せだなぁ)


 一条はしみじみと思った。こんなに幸せな朝を迎えたのは初めてかもしれない。そして、セリナの方を見ると目が合った。彼女はニコリと微笑んでくれる。それだけで幸せな気分になった。


「悠人くん、美味しい?」

「うん、凄く美味しいよ!」


 一条は笑顔で答えた。

 すると──セリナの顔が真っ赤に染まった。

 恥ずかしそうにモジモジし始める。

 その仕草はとても可愛らしく思えた。


「それなら良かった……」


 すると突然、茜が咳払いをした。


「朝からイチャイチャして……私がいることを忘れないでよね?」


 一条とセリナは慌てて謝った。


 すると、茜は呆れたように溜息をついた。


 そして、黙々と食べ始める。


 気まずい空気が流れていたが──しばらくして、話題を変えることにした。


「そういえば……2人は今日予定とかあるの?」


 一条は2人に聞いた。


「私は特に予定はありませんけど……」

「私もないけど……なんでそんなこと聞くの?」

「いや、せっかくの休みだし……どこかに出かけようかなと思ったんだけど……」


 一条が言うと2人は考え込んでしまった。


 そして──同時に口を開いた。


「お出かけしに行こ!」

「出かけに行こ!」


 2人はハモるように答えた。

 どうやら意見は一致しているようだ。


「2人はどこに行きたい?」


 一条は問いかけたが──2人とも黙り込んでしまった。

 すると、セリナが恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「私は遊園地に行きたいなぁ……」

「遊園地かぁ……茜はどこか行きたいところある?」

「うーん……お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」

「そっか……」


 一条は考えた──せっかくの休日なので遊園地で遊ぶことにしよう。


 そして、出かける準備を済ませると──3人は家を出た。

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