初めてのキス

(き、気まずい……)


 2人の間に沈黙が流れる。

 その空気に耐えられずに一条が話題を振ろうとした瞬間──先に口を開いたのはセリナの方だった。


「あの……一条くん!」

「は、はいっ!?」


 一条は突然話しかけられて驚いたが、何とか返事をすることができた。


 すると、セリナは真剣な眼差しで一条を見つめる。


 その表情を見て、一条は思わずドキッとした。


(な、なんだろう……?)


 一条が戸惑っていると──セリナはゆっくりと深呼吸をしてから口を開いた。


「その……ごめんなさい」

「えっ……?」


 予想外の謝罪の言葉に、一条は戸惑った。


「えっと……どうして謝るの?」


 一条は疑問に思って尋ねると──セリナは申し訳なさそうに答えた。


「だって……私のせいで……こんなことになったから……」


(ああ、そうか……)


 一条は思った──セリナは責任を感じているのだろうと。だが、それは杞憂だと感じたので、すぐに否定することにした。


「別にセリナさんのせいじゃないよ」

「でも……!」


 セリナは納得できない様子だった。

 そんなセリナに向かって、一条は優しく微笑んだ。


「だから、気にしないで!」

「でも……」


 それでも食い下がってくるセリナに、一条は諭すように言った。


「そもそも、俺がセリナさんを助けたくてやったことだし……だから本当に気にしな──」


 すると突然、セリナが一条に抱きついた。


 そして──そのまま唇を重ねてきた。


(ちょっ……!?)


 一条が驚いて固まっていると、セリナは唇を離した──その顔は真っ赤に染まっている。


「そ、その……わ、私のせいで一条くんを傷つけちゃったから……」


 それだけ言うと、セリナは逃げるようにして保健室を後にした。


「まっ……」


 一人残された一条は呆然としていた。


 そして──しばらくして我に返った後、ベッドの上で悶絶したのだった。


◇◆◇◆


(ダメだ……全然眠れなかった)


 翌日──一条は寝不足のまま登校していた。

 昨日の出来事のせいで、頭がボーッとしている。


(まさかセリナさんが……き、ききき、キスをしてくるなんてな……)


 思い出すだけで顔が熱くなるのを感じ、一条は頭をぶんぶん振った。


(ダメだ……今は考えないでおこう)


 そう自分に言い聞かせると、一条は昇降口に向かって歩き出す。


 すると──後ろから声をかけられた。


「おはよう、一条くん」


 一条が振り向くと、そこにはセリナの姿があった。彼女はいつものように明るく微笑んでいる。

 しかし──その笑顔を見ると、どうしても昨日のことを思い出してしまうため、直視することができなかった。


 そんな一条の心情を知る由もなく、セリナは無垢な瞳でこちらを見つめてくる。


「一条くん?」

「あ、ああ……おはよう」


 一条が挨拶を返すと、セリナは嬉しそうに笑った。


(くそっ……!可愛すぎるだろ……!)


 一条がそんなことを思っていると──セリナが心配そうに尋ねてきた。


「大丈夫ですか? なんだか元気がないみたいですけど……」

「え……? そ、そんなことないよ!」


 するとセリナは首を傾げながらも、それ以上追及してくることはなかった。

 そのことに一条はホッとしていると──セリナが唐突にこんなことを言い出した。


「あの……今日の放課後、空いていますか?」

「えっ……?」


 突然の誘いに一条は戸惑っていると──セリナは続けて言った。


「昨日のお礼がしたいので……一緒にお茶でもいかがですか?」


 一条は動揺した。まさかセリナから誘われるとは思っていなかったからだ。

 

 だが、それと同時に──嬉しさが込み上げてきた。


「う、うん……大丈夫だよ」


 一条が答えると、セリナはとても嬉しそうな表情を浮かべた。


「それじゃあ放課後に校門の前で待ち合わせましょう」

「うん。わかった」


 一条が了承すると、セリナは笑顔で去っていった。


(やばいな……)


 残された一条は──嬉しさ半分、不安半分といった気分だった。

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