謎の救世主

(マズい!)


 一条がそう思った次の瞬間──神崎の顔面に拳がめり込んだ。


「ぐへっ!?」


 突然の出来事に驚いたのか、神崎は間抜けな声を出した。そして──神崎はそのまま床に倒れ込むと、気絶してしまった。


「えっ……?」


 一条が呆然としていると、セリナが駆け寄ってきた。


「一条くん! 大丈夫ですか!?」 

「あっ……うん……」


 一条は戸惑いながら答えると、セリナは安堵の表情を浮かべた。


「よかった……」

「えっと……今何が起きた──」


 一条が言いかけた瞬間、セリナが一条に抱きついた。


「へっ!?」


 一条は突然のことに驚きの声を上げると、セリナは慌てて離れた。


 そして──顔を真っ赤に染めながら謝罪した。


「ご、ごごご、ごめんなさい!!」

「あっ……いや……」


(なんで抱きつかれたんだろう……?)


 一条は疑問に思ったが、ひとまず気にしないことにした。


 すると、セリナが思い出したように言った。


「そ、そうだ! 怪我は大丈夫ですか?」

「あっ、うん……大丈夫」


(まぁ、本当は全然大丈夫じゃないけどな……)


 一条が苦笑しながら答えると、セリナは安堵の表情を浮かべた。 


「ならよかったです……」

「それより、神崎は誰に殴られ──」


 すると突然、一条の視界が歪み始めた。

 そして──徐々に意識が遠のいていくのを感じた。


(あれっ……?)


「一条くん!?」


 セリナが叫ぶ声を聞きながら──一条は意識を失った。


◇◆◇◆


「……くん!……じょうくん!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえる。


(この声は……誰の声だ?)


 一条はぼんやりとした意識の中で考えるが、思い出せない。


 すると今度は、肩を揺さぶられた。


「一条くん! 目を覚ましてください!」 


 その声に導かれるように目を開けると──一条の目の前には、涙を流しながら心配そうに見つめるセリナの姿があった。


「よかった……気がついたんですね!」


 セリナはそう言って微笑んだ。


(ここは……どこだ……?)


 疑問に思いながら周囲を見渡すと──そこは保健室のようだった。

 そして、一条はベッドの上に寝かされていることに気付いた。


「あれ? 俺は一体……」

「一条くん、突然意識を失ったから……」


 セリナの言葉を聞いて──一条は思い出した。


(そうだ! 俺、神崎と戦って……それで気絶したんだ!)


 一条は慌てて体を起こすと、腹部に痛みが走った。


「ぐっ……!」


 一条は腹部を押さえながら苦悶の表情を浮かべる。その様子を見て、セリナは慌てて一条に声をかけた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫……だよ……」


 一条がそう言うと、セリナは安心したような表情を見せた。


「そういえば……神崎はどうなったんだ?」


 一条が尋ねると、セリナは表情を曇らせた。


「それが……姿が見当たらないんです」


(姿が見当たらない……?)


 一条は心の中で呟いた。


「そっか……」


 すると、一条はあることを思い出した。


(そういえば……神崎と戦ってるときに、誰かが乱入してきたような……)


 一条がそんなことを考え込んでいると──突然、保健室のドアが開いた。


 そしてそこには──神崎の姿があった。 


「なっ……神崎!?」


 一条が思わず声を上げると、神崎は口を開いた。


「ああ? なんだ、もう起きたのかよ……」

「どうしてここに……」

「ふんっ、そんなの決まってんだろ……」


 神崎は鼻を鳴らすと、得意げに話し始めた。


「お前をぶっ殺すためだよ! お前さえいなければ……僕がセリナちゃんの一番になれたはずだったのに!」


 神崎の言葉を聞いて、一条は呆れたようにため息をついた。


「はぁ……そんな理由でかよ……」


(コイツ、本当にどうしようもないクズだな……)


 一条はそう思いながら神崎を見ていると、神崎は突然顔色を変えた。


「な、なんだよその顔! なんでそんな目で僕を見るんだよ!?」


(え……?)


「だって……自業自得じゃん」


 一条が率直な意見を述べると、神崎は激昂した。


「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 神崎は叫びながら、一条に向かってきた。


 そして次の瞬間──拳を振り上げた。 


(っ!)


 一条は咄嗟にガードしようとするが──間に合わない。


(やばっ……!)


 しかし次の瞬間──一条の目の前にセリナが立ち塞がった。

 

 そして──神崎の拳を軽々と受け止めた。


「なっ……!?」


 神崎は驚いたような声を上げると、慌てて後ろに下がった。


「お、お前……いつの間に!」


 セリナは神崎の言葉を無視して言った。


「これ以上、一条くんを傷つけないで……!」

「くっ……なんなんだよ……!」


 神崎は忌々しそうに舌打ちすると、踵を返して保健室から出て行ってしまった。


(なんだったんだ……?)


 一条は呆然としている。

 すると、セリナが心配そうな表情で声をかけてきた。


「大丈夫ですか?」

「あっ、うん……」


 一条が答えると、セリナは安堵の表情を浮かべた。


「よかった……」

「あ、ありがとう……セリナさん」


 一条がお礼を言うと、セリナは少し照れたように微笑んだ。


「いえ……私は何もしていませんから」


(そんなことはないと思うけど……)


 すると、コンコンという音が響き渡り、保健室のドアがノックされた。そしてドアが開くと、そこに立っていたのは──養護教諭の吉住よしずみ恵美子えみこ先生だった。


「あら、目が覚めたのね」

「あっ、はい」


 一条が返事をすると、先生は安心したように言った。


「よかったわ……怪我も大したことはなさそうだし……一応、今日は安静にしていなさい」

「わかりました……」


 一条が答えると、吉住先生は優しく微笑んだ。


「それじゃあ私は用事があるから行くわね」

「はい……」


 一条が返事をすると、吉住先生は保健室から出て行った。


 そして──再び一条はセリナと2人きりになった。

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