第3話 よくある逃避行 執事とお嬢様の馴れ初め編

執事のヴラド

言ったら悪いが、その名前の通り黒髪に赤い瞳と本物の吸血鬼みたいだ。

背も高くて顔も良くて仕事も出来る

実家は没落してるけど、同じ派閥の男爵家の出だったかな。


不思議なんだけど、こんな優秀なやつかいて何故男爵家は没落したんだ?

あれかな、父親ロクデナシで妻は浪費家、後継ぎ長男ポンコツだと男爵家なら没落コースまっしぐらかな。

ヴラドがいくら優秀でも幼い時に没落してたらどうにもならんしな。

むしろ公爵家に入れて将来安泰だったのでは?


屋敷で親父の補佐してたのに、親父が城に文句を言いに行ってる間に、ヴラドはお母様に断ってから俺に付いてきた。


お母様は複雑な顔をしてから

貴方ヴラドにまかせるわ、娘を守ってちょうだいね…」と送り出してくれた。


確か…22か23歳くらいかな?実際はもっと若く見える。

本当に何故付いてきたんだろう…もしやコイツも俺を狙ってんのか?

まぁ俺、それくらい可愛いけどさ


いやいや、公爵家の筆頭執事だよ?

将来安泰も安泰の老後までゆるりと働ける凄い職場じゃね?

今の筆頭執事さんのように長い事働いて後進育てたりしてさ、引退後も領地の温泉宿を退職金代わりにもらってのんびりライフ(※今の執事の夢)だったのに


青春拗らせると敷かれたレールを飛び出したくなるんかね?



「お嬢様、考え事はまとまりましたか?クフフ」


「そんなに顔に出てましたか?」


「えぇ、昔から貴女は変わらずに」


「……昔のわたくしはどんな子だった?」


「8歳より前の事ですか?」


こいつは俺がここ2年の記憶しか無いことを知ってるのか?!


「気になるようでしたら話しますよ

私はお嬢様がまだ5歳の頃。学園の入学前に公爵家にきて執事見習としてお嬢様付きになりました」


「……懐かしいわね」

全然覚えて無いんだけど!ヤバッ

ってか親父の補佐じゃなくて、お前は俺の執事だったの?


「学園に行くのにメイドと執事が必要でしたので、急いで募集をかけて急いで詰め込み教育がなされたのです。私は当時17歳でした。

執事見習として働き始めるには遅い方でしたが、急遽必要になったので…私は運が良かったのです」


メイドのアンナは覚えてるよ…俺が留学に行ってる間に領地の高級温泉宿でバイトしてそのまま職場結婚しちゃった。


「学園は全寮制ですから5歳から8歳まで私がお世話してました。……留学もご一緒しましたよ?」


「えぇ、懐かしいわね」

2年前の事なのに、なんで俺はコイツの事をあんまり覚えてないんだろう??

ってかそんなにいつも一緒にいたなら俺がマリーウェザーじゃないってバレてるじゃん!

汗タラタラしてくる、背中やオッパイの下が汗凄い。


ヴラドの余裕タップリの含み笑いのような顔が腹立つ。

全てを知ってて、それでいてからかってるかのような

が赤く光った?!

本当に吸血鬼だったりして?

吸血鬼って処女の血が好きなんだよな…あれ、俺が狙われてるのって血か!?目当ては処女の血なのか!


今日び、修道女でも処女とは限らんからな…

教会の聖女様ですらヤ○マンって噂だしな


確実に処女が欲しければ

幼い娘が大きくなるまで、自分で手塩にかけて育てて…じぶん好みの女になったら食ってやんよと?

何なの?そーゆー育成ゲームみたいなのが吸血鬼の間で流行ってたりすんの?

もしそうなら、そら一緒に来るわな!

俺は食べごろまで育てられるのか!食べごろになったら吸血死させられて眷属になったりして…ひぇ


「あっ、でも何でここ2年は離れてたの?」

あ、声に出ちゃった!ひぃ


ヴラドはほんの少しだけ驚いた顔をして嬉しそうに笑った

「お側でお使い出来なくて申し訳ございません…

お嬢様は学園の卒業式での事を覚えてますか?」


「代表の挨拶をしたわ」

卒業式の事は伝聞でしか知らない。

8歳で立派に挨拶をこなしたって皆が言ってるからそうなんだろう


「…卒業式の事は忘れましたか」

ほんの少しだけ悲しそうに赤い瞳が揺らいだ


「含みのある言い方ね?」


「長くなりますから、ゆっくりと話しましょうか。そろそろお食事の時間です。…ヨシュアはお嬢様に手は出さないでしょう。

いつもみたいに振り回しておやりなさい」


その言い方だと、俺がビッチのようじゃないか!失礼しちゃう!


ヴラドが手を差し伸べる

エスコートしてくれるらしい…既視感デジャヴ

椅子から引っ張り立たせる感覚も、手の平を伝う温かさも、親指で撫でてくる癖も、その切なそうに揺れる瞳も……俺は知らないのゴメンね


でもきっと今までたくさんエスコートされたに違いない。

胸の奥がギューッと締め付けられた。

この感情はしってる、恋しい時になる胸の切なさだ。俺も前世で学生の時にたくさん経験した。

信じられないがマリーウェザーはこの執事が好きだったんだな。

吸血鬼なのに…血吸われるのにね?


「そんな顔しないで下さい、お嬢様が笑ってないとヨシュアが私を問い詰めるかもしれませんクフフ」


マジかー、執事とお嬢様の内緒の恋?どこのエロゲ展開だよ…うわぁ

あマリーウェザーの片思いかな?この2年離れてたのって、諦めるために距離おいてたんじゃね?


でも当時はまだ8歳だよ?女の子ってマセてるねぇ

そしてコイツは慕ってきてた餌が離れようとしてたのに放置してたのか?

余裕ありすぎじゃね?マリーウェザーの乙女心を弄んでいたに違いない!影のあるイケメンいけすかねぇ


ヴラドは俺の考えを読んだかのように

「別に私は弄んだりしてませんよ

それはむしろお嬢様ですから、オレを散々振り回して弄んで…全て無かったことにするなんて……。

プクク冗談ですよ、なんて顔してるんです?

お嬢様ゲスで馬鹿な事を考えすぎです」


冗談に聞こえなかったよ

俺って執事を弄んで振り回したわがまま令嬢だったの?すみません

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