第9話 未来の果樹園
思わぬところで盛り上がった夏の大会も遂に終わりをむかえて、練習も一息着き、気を使って寄り付かないでいたのか、最近、耕治と安弘が代わる代わる計画を立てにマメに家に顔をのぞかせるようになった。
お互いに腹を探りながら友情にすがって計画を立てた日々。行きたいに決まっているのに気を使わせた。俺達のサイクリング決行の話がだいたいまとまった頃。桐本の家のガラスのギャラリーのオープンの日も目処が立って具体的な日が決まった。
資金繰りと人手不足の中、遅々として進まなかった母屋の改築も目処が立って、準備も大詰め、桐本も益々忙しく家の手伝いに飛び跳ねていた。
桐元の家の母屋は古い昔の蚕を飼っていた古民家で、長年使わないでそのままになっていた大屋根の家に手を入れて、一階の玄関と馬小屋の部分をガラス張りにした喫茶室を作った。その建物周りのゆったり残ったスペースまでは手が回らなくて当分何もしないと言っていたのを聞いて、そこをエントランスにして、喫茶室の周りに小さな果樹園を作って良いかと桐元の両親に提案してみた。
畑の横に打ち捨てられた小さな苗木がうちにも安木のところにもある。それを何処かに植えることが出来たらと思っていたから、俺と安木で朝の空いた時間に計画を立てた。その一つ、一つに手作りのガラスで出来たプレートがかけられて、朝の光に反射してキラキラと光っている。ひらがなで彫られた名前のプレートは手で触ると文字がわかる。すももやにわうめもついでに植えて、年数が経ってどれも枝いっぱいに実を付ける頃にはここは立派な小さな果樹公園になるだろうと思った。
桐本の望みの実の生る木。俺が一つ、一つ選んで植えたりんごの小さな苗木。安木の届けてくれたさくらんぼとブルーベリー。安弘の運んだ堆肥。俺達の力を合わせた果樹園が永遠に繁盛したら良いな〜。
「うまくまとまったな。庭らしくなって、ギャラリーに来た人が、ここを歩いて喫茶室まで行くのを楽しみにしてくれるといいな」
小さな苗木に果樹農家の俺達の願いが込められていた。
「早く実がならないかなあ~ねえ後どれくらい?」
桐本は待ちきれない顔をして俺に聞いた。さるかに合戦のカニのように待ちわびる…
「紅玉だけは大きいのを移したから今年は駄目だけど来年はもうなるよ」
桐本は嬉しそうに、頭の中でたわわに実った真っ赤な実を想像しているようだった。もちろん喫茶室で出されるケーキは紅玉のアップルパイ。今はお母さんが作っているけどいずれは自分で作りたいと言っていた。
桐本と俺の時間は、相変わらず静かに流れている。当然距離も縮まらない。初めて会ったときから基本的にはちっとも変わらないまま。
「焦らないでやっていこう」
と桐本の言った言葉通り、これからもこんな調子でゆっくり進んで行くんだろう。桐本の自然を見つめる笑顔は最高だ。俺は何よりも美しいと感じる。それだけで今は満足だった。
「さあ行くかな」
自転車のペダルに足をかけると、
「ありがとう、気をつけてね」
と、桐本が小さく手を振った。
「おう」
このギャラリーもギャラリーまでのうさぎの小道も、果樹園も末永くみんなに愛されるといい。オープンと同時に俺達の場所から此処を使うすべての人の場所に育っていって欲しいと思った。
俺は手を後ろ手に振りながら耕治達の所へ走っていく。ずっと、ずっと、遠い先までこんな時間が流れ続けたらいい。桐本のくれた柔らかい光が俺の中を通り抜けて耕治にも安弘にも広がっていく。
ギャラリーの扉が開いて、オルゴールの不思議な音色がポロポロと流れている。グランドをカタカタと流れたあの桐本の作ったあったかい音が…
一瞬止まって音を聞いた後、俺はまた思いっきりペダルを踏んで勢い良く走り始めた。
※焦ってます。実はもう少し書きたい。でもアイデアが纏まらない。時間を残してまた。お会いできる日を楽しみに…一旦ここで終わりにします。でも、又すぐ書くかも知れませんその時はよろしくお願いいたします。一先ず、連載のままで…
次の更新予定
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ガラスのりんご @wakumo
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