#5
戦いが終わった後、Connect ONEは河島咲希の捜索を始めた。
破壊された避難所の学校に関しては自衛隊を始めとした国の機関が対応するらしい。
そのような話を瀬川は帰投してすぐに父親に話していた。
取調室で向かい合い父親と語り合う。
「純希とか中にいた人は怪我人は出たけど無事だって。元々そんな居なかったみたいだし」
淡々と結果を話して行く息子を見て瀬川父親は胸が少し熱くなった。
「苦労をかけたな……」
「本当だよ、ここまで長かった」
少し皮肉めいた言い方をする瀬川だがその表情は爽やかだった、これまでの父親への憎しみは感じられない。
「着実に戦いは終わりに向かってる、後は消えた新生さんと河島さんを捕まえるだけだ」
二人の指名手配の資料を見せる瀬川。
正直身近だったこの二人が敵だったという事実は今も受け入れ難い。
難しそうな表情をした息子に瀬川の父親は声を掛けた。
「やはりまだ受け入れ難いか?」
「あぁ、正直辛いよ」
そんな息子を励ますように彼らが試練を乗り越えた話をし始める。
「だがお前らは試練を乗り越えた、お前も感じているだろう?」
「あぁ、正直まだ神とか完全に理解した訳じゃないけど親父の言いたい事は何となく分かった」
しっかりと父親の目を見た瀬川は自分自身の意思で答えた。
「神が試練を与えるって話。大袈裟だけど快というゼノメサイアが導いてくれたって考えたら俺も見出せたのかも知れない」
父親に出来る限り歩み寄った例えで発言をする瀬川。
それを父親も当然のごとく喜んだ。
「何でもかんでも否定するもんじゃないな、歩み寄って見えて来るものがある」
「あぁ」
「ようやく前に進めた気がする。始まったんだよ、俺が」
息子の決意に満ちた輝く瞳を見た父親。
それだけで胸の奥が熱くなるのを感じた。
「私のせいで傷付いてしまった、そんな子が立派な……」
どうやら涙を堪えているようでプルプルと震えて肩を震わせている。
「あぁ、俺は今満たされてる。これが試練だったってなら無事に乗り越えられた」
そう言って瀬川は父親に手を差し伸べる。
まるで握手を求めているかのようだ。
「何を……?」
「これであんたも償えるだろ、原罪ってやつ」
息子を傷付けた事、それによる原罪に苦しんでいたが今まさに当の息子に歩み寄られている。
彼がその原罪を贖う唯一の方法、それを息子が示した。
「あぁ……」
そして父親は息子の手を取り強く握った。
「試練達成だな」
そこでようやく瀬川は少し微笑み父親と歩み寄れた気がした。
親友である快がヒーローとして愛里や両親に歩み寄ったように自分も他者に歩み寄るのだ。
同じ人なのだから歩み寄れないはずはない、その考えを持ち瀬川はこれからもこの組織でヒーローとなる。
「そう言えば快くんはどうした?」
「アイツなら帰るべき場所にいるよ」
手を取り合いながら快の心配をした父親。
瀬川は親友を信じながら父親に彼も試練を達成した事を伝えたのだった。
___________________________________________
クリスマス、つまり二人の誕生日も残り数時間となった夜。
快は自宅アパートに恋人である愛里を招いていた。
以前行おうと思っていた誕生日会、ようやくそれが叶ったのだ。
「ごめん、どの店も空いてなかった……」
まともな食事やケーキすら用意できなかった事を悔やむが愛里はそれも受け入れていた。
「いいよ、色々落ち着いたしもうすぐ店たちも再開できるだろうから」
世界の崩壊が止まり多くの人々が避難所から家に帰り出している、経済のサイクルは元通りとなるだろう。
「そしたらまたちゃんと祝おう?」
「そうだね」
そんなやり取りをしながらもまだ少し気まずさが残っている二人。
上手くお互いの顔が見れない。
「てかもうすぐ誕生日終わっちゃうね……」
時計を見ると夜十時を過ぎていた。
せっかく誕生日までに歩み寄れたというのにこの時間は残り少ない。
「でもギリギリ間に合ったよ」
「うん」
そして自販機で買ったジュースをコップに注いで顔を合わせる。
「乾杯!」
コップを合わせて大人が酒を飲むかのようにジュースを一気に飲み干す快。
「ぷはっ、なんか久々にまったり出来てるな」
「ふふっ、お酒飲んでるみたい」
愛里はまだ一杯目を飲んでいるが快は二杯目をコップに注ぐ。
そして飲みながら今の心境を語った。
「やっと祝えてる、大分待たせちゃったからなぁ」
「この家で祝う予定だったもんね」
咲希に憑依したルシフェルに邪魔をされた時だ。
あの時は本当に二人の間に亀裂が入ってしまった。
「あれから凄く長い時間が経った気がする、たった数日なのに」
愛里と離れていた期間、それは永遠のようだった。
「私は時が止まったみたいだった」
つまりお互いが永遠とも思える時間を過ごしたと言える。
「これでようやく動き出したね」
愛里との時をこれから楽しもうと感じた。
その気持ちを伝えたつもりだったがまだ愛里にはモヤモヤが残っていた。
「でもさっちゃんの事とかお兄ちゃんの事もまだ……」
友人だと思っていた咲希が敵だった事や兄の施設が襲撃された事など問題は山積みだった。
それを提示された快は少し黙ってしまう。
「っ……」
しばらく沈黙が訪れる。
しかしそんな二人を慰めるかのように天が恵みを齎した。
「あ、雪だ……」
窓から外を見ると先程までは確認できなかった雪が降り始めたのだった。
まるで天が二人を優しく包んでいるかのよう。
「本当だ……!」
快と愛里は二人で窓の側へ行き外を見る。
降る雪を見つめていたが快は愛里がとても近い距離にいる事を意識してしまった。
「うん、大丈夫だよ」
今度は快がこの言葉を口にする。
真のヒーローと成った今ようやく口にする事が出来たのだ。
「辛い事はまだまだあるだろうけど俺が全部抱きしめるから、俺が居るから……!」
そう言ってくれる快の顔を愛里は驚いた顔で見上げる。
「君のお陰でようやくヒーローの意味が分かったんだよ、ようやく追い付けた……」
原罪を贖い試練を乗り越える事、ようやく快はそれを果たせた。
愛里は既に兄と向き合いそれを果たしていた。
足を引っ張ってしまったのは自分だったのだ。
「同じもの同士ならさ、これからも歩み寄り続けられる。ずっとお互いのヒーローでいられるんだ」
そして快は愛里の頭を優しく撫でる。
「辛くなったら俺の所に帰って来ればいい」
その言葉を聞いた愛里は瀬川に聞いた事を思い出す。
彼は愛里に快の帰る場所になって欲しいと言っていた、まさにこれもお互い様なのだ。
「ふふ、やっぱりお互い様だね」
「……?」
「私も快くんの帰る場所になれたかな?」
そんな質問をする愛里。
現に罪から帰って来た快を自分は迎えられているのか、帰る場所としての責務を果たせているのだろうか。
「うん、君が待っててくれて嬉しかった」
快は優しく微笑みながらそう答える。
すると愛里も安堵した。
「そっか、よかった」
そして両手を大きく広げて快を優しく抱きしめる。
一瞬だけ快は戸惑ったがすぐにその抱擁を受け入れ抱き返した。
「おかえりなさい、快くん」
「ただいま愛里」
ずっと憧れていたこのやり取りをようやく果たせた。
快は今まさしく幸せに包まれていた。
・
・
・
雪が降る救われた街の一室で二人は身も心も一つになった。
そしてその様子を察していた者も一人。
「はぁ……」
それは咲希だった。
ボロボロの状態で焼けた愛里の前の家の跡地に立っている。
「寒すぎ」
そう言いながら白い息を吐き雪の降る空を見上げたのだった。
空からの恵みは自分を避けているようにすら感じた。
つづく
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