#4

愛里のグレイスフィアを手に取り押し込む事でライフ・シュトロームの反応を探る。

聖杯に取り込まれた愛里を見つけ出すのだ。


「愛里っ、何処だぁっ⁈」


意識を伝達させ聖杯全域に伝わるよう呼びかける。

そうする事で手に持つグレイスフィアに反応するライフ・シュトロームの流れを確認できた。


「あ、愛里……!」


カリスのエネルギーが密集する空間の奥の方に小さく愛里の姿を確認する。

先程からカリスを包んでいる赤黒いオーラが絡み付いていた。


『渡さないっ!アタシには愛里が必要なの!』


咲希の声と共にその赤黒いオーラが快の意識を攻撃する。

しかし快は怯まず愛里に向かって走り出した。


「分かるよ、君の気持ちが」


攻撃の嵐の中を快は走る。

周囲の光景はこれまでの愛里との記憶の映像で埋め尽くされていた。


「だからこそ救わせてくれ……!」


咲希の攻撃は何故か快に当たらない。

快は一切避けていない、攻撃の方が避けて行くのだ。


「ん……」


快の声が届いたのか愛里は目を覚ます。

そしてこちらに向かって来る快の存在を確認した。


「あ、快くん……っ!」


向かって来る快の手には愛里に手渡すためのグレイスフィアが握られている。

咲希はそれを渡すまいと更に攻撃を強めるが一切通じなかった。


「分かったよ、真のヒーローの意味」


これまでの経験、周囲に映る記憶のお陰で見出せた答えを語り出す。


「愛を与えて、もらった分人に与えられて。そうして人は愛の連鎖を繰り返して行くんだ」


この言葉は愛里だけではない、咲希にも向けられていた。

更に快はこの世界全てにこの想いをぶつけていた。


「始まりは分からないけど人は必ず誰しもの愛を受けている……」


それが答え。

快が人生の中で導き出したこの世界の真理。


「誰もが誰かのヒーローになれるんだ!」


その言葉と共に快は更に速く愛里に歩み寄って行く。

その姿は愛を抱えたヒーローそのものだった。



『自分にしか出来ない事がある、だからそれをやればいいの。いつか分かるよ。』



かつての英美の言葉を思い出す。

自分に出来る事、その意味を解く。


「英美さん、やっと分かったよ。俺は与えられていたから」


次々と英美の言葉を思い出して行く。

死ぬ直前の彼女の言葉、そして愛里に告げたという言葉。



『君なら上手くやれる、私の目に狂いはないはずだよ…!』


『人は夢を見つけてそのスタートラインに立った時、翼を広げて飛び立つんだよ』



英美の言葉が正しければ快はようやくスタートラインに立った事となる。

さぁ、愛里へ手を伸ばすためその翼を広げるのだ。


「愛里!手をっ!」


「うんっ!」


そう言って愛里の目の前で手を伸ばした瞬間、快の背中からは天使のような翼が生えた。

呼応するかのように愛里も手を伸ばす。

この時の空間に映る記憶は"カナンの丘"だった。

まるでカナンの丘で神と人間が手を取り合っているかのような姿となる。


そして二人が手を取り合った瞬間、手に握られたグレイスフィアは輝きを放ち周囲を包み込んだのだった。


___________________________________________


カナンの丘の上、その空の中で快は翼を羽ばたかせながら愛里を抱きしめていた。

ゆっくりと降下していく二人は互いに想いが伝わっていた。


「待ってたよ、ずっと」


「ごめん、時間かかった」


強く抱き合いながらお互いの顔は見えない。

しかしそれでも互いを想う胸の温かさを感じられた。


「ようやくスタートラインに立てたんだ、これから始まる」


快のその言葉を聞いた愛里はすぐに英美が死ぬ直前に言っていた事を連想した。


「もう絶対、離さない」

 

そして二人は共に翼を羽ばたかせ真の力を露わにしたのだった。

カリスの外からゴッド・オービスのパイロット達は見ていた、この奇跡を。

聖杯から愛里を救い出したゼノメサイアの姿が輝き出す。


『ハァァァ……ッ』


そしてその姿を変えて翼を生やしたのだ。

従来の赤と黒の体に金色のラインが追加されている。

カリスはその姿に圧倒されてしまった。


『何なのソレ……!』


赤黒いオーラを更に強く放ちながら空中で翼を羽ばたかせるゼノメサイアに攻撃を仕掛ける。

しかしゼノメサイアは完全に余裕だ。


『セアッ!』


なんと両手に剣を出現させたのだ。

右手に樹ノ剣、左手に海ノ剣をそれぞれ構えている。

そしてカリスから放たれた赤黒いオーラを二本の剣で斬り裂いた。


『ぐっ、舐めるなぁ!』


そのまま自身が空中へ飛び上がって来るカリス。

近接戦闘を仕掛けるがゼノメサイアは猛攻を剣を巧みに使い受け流して行く。


『ハッ!』


そして隙を突き二本の剣をクロスさせるようにカリスの体を斬り裂いた。

あまりのダメージに傷口から光を放ち落下するカリス。


『ゴハッ……』


クロス型の傷口から漏れ出す光が徐々に強くなっていく。

それでもまだ諦めたくない咲希は唸り声を上げながら立ち上がる。

しかしゼノメサイアに成す術は無かった。


『セェェアッ』


二本の剣を重ね合わせる。

するとその剣が人かのように歩み寄り一つとなった。


『これが"愛ノ剣"だ!』


一つとなった愛ノ剣を掲げるゼノメサイア。

刀身に光が集まって行く。

そして一本の巨大な光の剣と成った。


『ゼアァァァァーーーッ!!!』


一気に振り下ろしカリスの聖杯で模られた姿を一刀両断する。

断面から光のエネルギーが全身に流れ込んで来るカリスは断末魔を上げる事さえ出来なかった。


『あっ、がぁっ……!』


そしてそのまま光と共に浄化されていく。

そのままカリスはその場から完全に姿を消した。


『ハァァァ……』


ゼノメサイアの持つ愛ノ剣はまた二本の剣に戻る。

それぞれ片手に持ち空を見上げた。

すると日が落ち、そのタイミングで雪が降って来る。

まるで聖夜が彼らを祝福しているかのようだった。


こうして今回の戦いは幕を閉じ、彼らはそれぞれの帰るべき場所に帰って行くのだった。






つづく

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