#6

炊き出しを配膳する時間となり避難民一同が腹を空かせて待っているとワゴンが運ばれてきた。

しかし何とそのワゴンを運んでいたのは散々恐れ差別してきたセンター利用者たちだったのだ。


「お待たせしました!」


元気に挨拶をした彼らに一瞬戸惑う避難民たち。


「な、何のつもりだよ……」


何か報復を企んでいるのではと少し考えてしまうがそこでスタッフが優しく伝えた。


「迷惑をかけてしまった事への誠意の現れです、どうか食べて下さい!」


スタッフのその声と共に利用者一同はカレーライスを皿に盛る。

すると一人の小さな女の子が腹を空かせたのか近づいてきた。

先ほど中年を殴ってしまった青年は女の子に問う。


「……お腹すいた?」


「うん」


「じゃあこれ、多分美味しいよ」


子供用の小さな器に盛られたカレーライスを受け取った女の子。

彼女の母親と思わしき人物は少し心配しているようだ。

しかし利用者たちの誠意を信じたかったのだろうか、見守っていた。


「ぱくっ、あむあむ……」


そしてスプーンを口へ運んだ女の子。

その場にいた一同は固唾を呑んで見ていた。

すると。


「おいしい!!」


女の子は明るい笑顔を見せたのだった。

その反応に思わず青年も笑顔になってしまう。


「……ははっ」


一人の女の子が彼らの歩み寄りに応えた。

子供ならではの区別しない純粋さが道を示したのだ。


「じゃ、じゃあ俺にもくれるか……?」


「こっちは家族の分も……」


次々と列に並びセンター利用者たちの作ったカレーライスを受け取っていく人々。

先ほどまでのしがらみは徐々に消え始め仲良く食事を楽しんでいた。


「ちょっと行ってくるわ」


「私も!」


すると瀬川と愛里はそれぞれお盆にカレーライスを数名分乗せてその場を離れた。

まず愛里がやってきたのはクラスメイトたちの所。


「はいみんな」


委員長や女子などはまだ気が乗らないのか列に並んでいなかった。

そんな者たちにも愛里は歩み寄っていく。


「え、愛里……」


この光景はまるで修学旅行の時のようだった。

あの時も愛里はクラスメイトたちに歩み寄りその関係性を手にした。


「ホラ、歩み寄り……っ!」


何とか笑顔を見せた愛里。

その表情にやられて委員長と女子はカレーライスを受け取ったのだ。


___________________________________________


一方瀬川は配膳に行ったのはConnect ONE職員の所だった。

そこには小林もいて瀬川の顔をずっと見ていた。


「お疲れ様です、これ食べて下さい」


誠意を持った瀬川のこれまでと違う態度に少し心が揺れる小林。

無言でカレーライスを受け取り一口食べてみた。

すると疲れていたのもあってかスプーンが止まらなくなる。


「……どうですか?」


「あぁ、うめぇよ」


何か悟ったような表情で答える小林。

瀬川の瞳をジッと見つめた。

それはまさしく誠意に輝いていた。


「何すか、ジッと見つめて」


「何か調子狂うんだよ」


「はぁ、何でですか!」


そこから小林は少し考えるような素振りを見せた。

避難所で歩み寄りを見せた“異なる者”同士の交流がそこでは行われている。


「はぁ、不本意だが俺も一肌脱がなきゃなんないかなっ?」


一気にカレーライスを平らげ皿を瀬川に返す。

そして水をがぶ飲みした。


「どうしたんすか急に」


「ぷはぁっ……なぁ、今TWELVEはゼノメサイアを救い出す方法考えてんだろ?」


突然彼らの目的の話をされたため戸惑う瀬川。


「どんな作戦にしろゴッド・オービスが必要、そうだろ?」


「そうっすけど……」


何が言いたいのだろうか、次の言葉を待った。


「もし本当に誠意があるってんなら整備してやっていいぜ」


予想外の言葉が飛び出て瀬川は一瞬戸惑う。


「え、どういう……?」


「だから整備してやるっつってんだ」


「えぇ⁈」


この展開は本当に予想外だった。

しかし問題はまだある。


「でも殲滅作戦はもう動き出して……っ」


田崎参謀が指揮を執りゼノメサイアを殲滅する作戦が開始されてしまった。


「だから急ぐぞ、車乗れ!」


小林は瀬川の手を引き無理やり車に乗せて出発したのだった。

車の中で二人は話す。


「何でその気になってくれたんすか?」


「まだ完全に信用した訳じゃねぇぞ」


自身の見解を瀬川に伝える。


「ただ少しでも可能性あるなら見逃すなんて勿体ないからよ」


そしてバックミラー越しに瀬川の目を見て伝えた。


「もしまた変な事して崩壊でもさせたら今度こそ承知しねぇからな!」


そのような言葉を連ねるが信用したいのであろう気持ちが伝わってくる。


「もちろんですよ」


瀬川は誠意を持って返事をした。

そんな彼の前で小林は無線を使い瀬川と共に向かう事を上に伝えた。


___________________________________________


自衛隊駐屯地に着くと時止主任の研究室に一同は集まった。

ゴッド・オービスが横たわるすぐ隣だ。


「整備するって本当か?」


真剣な表情の時止主任が小林に問う。

そこにいるTWELVEの隊員たちは彼を信用していないような目で見つめている。


「はい、予算を出してもらえないなら自腹で」


「何でそこまで……」


しかしまだ壁はあった。


「田崎参謀が許すかどうか……」


そこにも小林は考えがあった。


「時止主任は現在Connect ONEのトップじゃないですか。将官っ、田崎参謀はあくまで作戦指揮官の立場なので」


「そうだけど……」


悩む時止主任、その背景に理由があった。

恵博士の事がチラつくのだ。

すると隣で聞いていた竜司が口を開く。


「どういう風の吹き回しなんだ?あんだけ目の敵にしてたのによ」


その問いに関しても小林は誠意を持って答えた。


「瀬川が示したから、人種とか関係ないって。何でも一括りにするのは違うって言ってたから……」


小林は体育館の外で瀬川とセンター利用者が話していたのを見ていたのだ。


「嫌な事されたから嫌な事返しちまってたけど、誠意見せられたら誠意返さなきゃ……俺の気が済まねぇ」


自分が相手にした事が返ってくる。

彼はそれを体現したのだ。


「はぁ、まぁいいか」


その言葉を聞いて竜司は納得したようだ。


「いいのか……?」


「俺らも悪かったからよ、安心したぜ」


あくまで竜司たちTWELVEは自分たちの罪にも苦しんでいた。

そこで向こうの罪だけ認められてしまえばその罪が悪くなかったと言われているようなものだと思った。

あくまでお互い相手が嫌がる事をしてしまった関係性なのだ。


「うん、僕たちも傷つけちゃったから……」


そう言う陽に返事をするかのように名倉隊長も言った。


「謝り合いだなっ!」


しかし緊張したのか予想以上に大きな声を出してしまった。

一同は一瞬静まり返る。


「ふっ、ははははっ!」


思わず笑ってしまった。

その場に明るい空気が流れ出す。

周囲の他の作業員や職員たちにも少し伝染していた。


「っ……」


一方で蘭子はまだ笑えずにいたが何か決心したようで。


「あ、あのっ……!」


一同は一斉に蘭子の顔を見る。

少しビビるが勇気を出して言った。


「あたしっ、分析終わった……!てか終わってた、多分作戦立てられるから……!」


その声に一同は喜ぶ。

準備は完全に整ったのだ、もう後に退く理由は存在しない。


「……よし、じゃあやろうか。責任は俺が持つ!」


時止主任が力強くそう言って一同は準備に取り掛かった。

我らの英雄を救うため、英雄たらしめるため彼らは立ち上がった。


___________________________________________


職員たちがゴッド・オービスの整備をしている中、時止主任は蘭子の分析していたデータを見ていた。


「なるほど、十字の樹の中心に彼はいると……」


ゼノメサイアの居場所はハッキリした。

しかし課題はまだある。


「でもこれ神の域だろ、どうやってそこから引きずり出すか……」


ゼノメサイアや十字の樹は神の域にいる事が明らかとなっている。

現に覚醒した時のようにデータにハッキリとした姿は映っていない。


「やはり人が神の域に触れるのは禁忌なのか……」


そんな事を考えていると恵博士の事を思い出した。


「博士は自ら神に成ろうとした、試練を放棄して……」


囚われの瀬川参謀の言葉とも照らし合わせてみた。


「試練を放棄?歩み寄る事が試練だってなら……」


そこである事に気付く。

人類が未だかつてやって来なかった事、その意味が分かったかも知れない。


「人は神に歩み寄ったのか……?」


神の域に人は触れられないといった状況。

まず何故そんな事になっているのか、そこから考える事にした。

そして整備が終わった、ゴッド・オービスは時止主任の新たな意向を搭載して完全体と成った。


「みんな、準備はいいか?」


作戦に向かう準備を整えたTWELVE隊員が並んでいる。

職員たちもその様子を眺めていた。


「はい、快を救います」


「よし」


そこで時止主任は繰り返した。


「では改めて作戦の説明をする」


細かいデータは見せずに口と心で説明する。


「ゴッド・オービスは敵を搔い潜り十字の樹に近づけ、限界まで近付いたら俺が“これ”を起動する。新機能だ」


何やら大切そうなカードキーを手に持つ時止主任。

それが今回の要らしい。


「絶対田崎参謀に怒られるけど世界のためだ」


一同は気を引き締め整列する。

次の声を待った。


「TWELVE出動っ!!」


久々にその言葉を聞いた。

いつもと声は違うがそこに誠意がある。


「了解っ!!!」


一同はキャリー・マザーに繋がれた各機体に乗って出動した。

その轟音は殲滅作戦を指揮している指令室にも聞こえたようで。


『何をやっているのですっ⁈退却しなさい!』


焦った田崎参謀が無線でTWELVE隊員に伝える。

しかし彼らはそれには応えなかった。

ただ一言、誠意を見せただけである。


「必ず救います」


その覚悟の言葉だけを残し機体は空を進み親友であるヒーローを救いに向かったのだった。






つづく

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