#5
数時間前、快と瀬川参謀が教会から旧支部に帰って来た頃。
旧支部では新生長官の指揮の下、作戦の準備が着々と進められていた。
館内放送の音声でそれが知らされる。
「む、時間はないか……」
快の心がまだ変わっていない内に作戦が動き出してしまう事を危惧する瀬川参謀。
「っ……」
そんな中で快は考えているようだった。
瀬川参謀と新生長官の意志の狭間で振り回されるような感覚だったのだ、どちらに着いて行くべきなのかを考えた。
「瀬川先生、創 快。ご同行願います」
すると謎のレギオンと呼ばれた者の一人が二人に声を掛け案内する。
着いて行くとそこは以前にも訪れたバベルの聳える部屋だった。
「何処に行ってたんだい?探したよ」
相変わらず優しく微笑んだ新生長官がそこで待っておりレギオン達も並んでいた。
「すみません先生、少し彼と個人的な話を……」
本心は悟られぬように答える瀬川参謀。
「そうか、では作戦の最終確認といこう」
そう言った新生長官は背後に聳えるバベルの前に新たな存在を出現させた。
「っ⁈」
「これは……!」
周囲に並んでいる人型ロボットのようではあるがまるでその中のリーダーのような少し派手な出立ちをしている。
「彼らが兵士、レギオンならば私は将軍。"インペラトル"さ」
レギオンの機体の時も感じていたがこのインペラトルは更に異様なオーラを放っている。
「快くん、君はレギオン達が敵を引きつけている間にグレイスフィアに触れ力を取り戻したまえ」
「は、はい……!」
「その時が来たら私も行こう、これに乗ってね」
予想はしていたがこのインペラトルには新生長官が乗るというのか。
彼自身も前線に出るとは、それほどの事態なのだろう。
「快くん、君の行動に世界の運命が掛かっている。ヒーローとなり罪を贖いたまえ」
「はい……っ!」
そして新生長官はそこにいる全ての者に宣言をした。
「私が必ず新世界まで導いてみせよう、君らは着いて来たまえ。共に幸せになろう!」
その言葉を聞いた一同は喜んだ。
しかし一人だけ、瀬川参謀は不服そうであった。
「(確実に大罪へ向かってしまっている……!)」
そして彼らは作戦という名の大罪へ向かう事になった。
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「創 快、こちらへ」
レギオン達に案内される快。
恐らく出撃用の機体などが揃った格納庫に案内されるのだろう。
崩れた壁から見える空間では先程のレギオン専用の人型ロボットが自分たちの歩く方向に運ばれている。
「あの、貴方たちは何で戦うんですか……?」
快はレギオン達の素性が気になったため質問をしてみる。
すると彼らは振り向かぬまま答えた。
「彼こそが我々を導いてくれる存在だと認識したのです、誰もが幸せになれる新世界へ」
そう言われてよく見ると彼らは体の一部が欠損しているように思える。
義手らしきものを身につけていたり義足と思えるものを身につけている者もいる。
殆どのメンバーがそうなのだ。
「新世界、やっぱり神とか言うんですか……?」
快が神という言葉を口に出すとレギオンの一人が食い気味に答えた。
何処か今の発言に不満があったかのように。
「我々が信じるのは神ではありません。いや、信じる者を神とするならば新生さんこそ我々の神です」
「え……?」
「彼は我々を幸せへ導いてくれる、貴方もそう感じたから着いて来たのでは?」
そう言われて少し納得してしまう。
確かに快は絶望の中で新生長官が道を示してくれたからこそここに来た。
「人も神に成れるのか……」
だとすれば自分が神の力を手に入れ世界を救い罪を償うのも何も悪い事ではないように感じた。
瀬川参謀の言葉でモヤモヤしていたがこれで少し晴れたような気がする。
「新生さんが我々を導くように貴方は新生さんを導く役割があります。それこそ互いのためになり支え合う意味となるのです」
「それって歩み寄りにもなる……」
「歩み寄りですか、……貴方はそのような言葉を使うのですね」
快の発言に少し複雑そうな様子を見せるレギオン達。
歩み寄る事に何か不満でもあるのだろうか。
「じゃあ俺は新生さんにとって神になるのか……?」
そのような考えに至り一度足を止める。
レギオン達も不思議そうに足を止め快を見た。
「俺は神じゃなくヒーローになりたいんです、新生さんもそうしろって言ってくれた。神もヒーローも人を救うならその違いは……?」
自らのアイデンティティに纏わる疑問が浮かび進めなくなってしまう。
「それは……」
レギオンの一人が何かを言おうとして黙る。
するとそのタイミングである人物が現れた。
「快くん、少し良いか……?」
その人物とは瀬川参謀だった。
暗いが力強い面持ちで快の顔を見つめる。
そして肩を力強く掴んだ。
「君は今重大な選択をしようとしている、よく考えて決断するのだ」
その手は震えていた。
快はよく分からないが彼にとっては危機迫る状況なのだという事は察した。
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震えた手で快の肩に触れる瀬川参謀。
額に汗が滲んでいる。
「君が望む事をもう一度よく考えろ、君の原罪を……」
「俺は罪を贖う、そしてヒーローになりたい。だからチャンスをくれる新生さんに着いて行くんです」
「…………」
快の回答が何処か不満だったのか不安そうな顔をより一層強める瀬川参謀。
「それがダメなんですか?」
「志は決して悪いものではない」
そこで瀬川参謀はたった今レギオン達に快が言った事を繰り返した。
「君はまだ自分の原罪を理解していない、その状態のまま神の域に行ってしまえば繰り返すだけと言ったろう?」
「またそれですか、世界を壊しかけた原因……?」
「あぁ、まだ理解していないと見たが」
そのようなやり取りに対してレギオン達も黙っていなかった。
「お言葉ですが作戦に向かうという状況でそのような発言は控えて頂きたいです」
快を間に挟み睨み合う両者。
「貴方も新生先生と同じ神を信じているはず、ならば何故止めようとするのです?」
「君たちこそ彼を信じているだけのようだが。言いなりとして人の救世主も堕とすのか?」
そして両者は快の顔を同時に見た。
決断を委ねると言うような形で。
「さぁ、貴方はどうします?」
「何のために成すか、もう一度よく考えろ」
正直もう訳が分からなかった。
今の快はただでさえ精神が崩壊してしまいそうで必要としてくれる新生長官に着いて行き自信を取り戻すしか良くなる方法が思いつかなかった。
「くっ、俺は……っ」
そして働かない頭を無理やり回転させ考える。
自然に浮かぶのは愛里や瀬川たちなど自分がヒーローになるのを否定した者たちだった。
「みんな俺を否定する、傷付いて欲しくないとかそっちの都合で……俺には選ばれた理由がある、ヒーローにならなきゃいけないのに……っ!」
頭を掻きむしりながら必死に自分に言い聞かせる。
ヒーローになる以外に道は無いのだ。
「……それか」
瀬川参謀が何かに気付いたように顔を上げる。
「君の原罪、私には何となくだが見えた」
そして快にハッキリと伝えた。
「君が大罪を犯した原因、それは愛する者を拒絶したからだ。都合を求める余りせっかく理解した歩み寄りを放棄してしまった……!」
「え……っ⁈」
「そして今もまた繰り返そうとしている、抗矢を始めとした者たちに応えずな」
愛里や瀬川たちを連想させる言葉を投げかけて来る、まさに今考えていた事なので恐ろしかった。
「自分の都合で全てを判断する、それこそが災いを招いてしまうのだ……!」
快を思い切り指差して言い切る。
まるで雷に打たれたような衝撃が快を襲った。
「そんな、そんな訳ない……っ」
必死に瀬川参謀の言葉を否定しようと言い訳を重ねて行く。
しかし快には覚えがあった。
あれは修学旅行の時、歩み寄りの大切さに気付けた時だ。
『もしかしたら両親も……向こうから歩み寄ってくれてたのに俺が気付かずに拒絶してた事が沢山あるんじゃないかって思えて来たんだ』
露天風呂に入りながら瀬川と交わしたやり取り。
その時点で快は気付いていた。
「〜〜っ」
しかし今は認めたくない。
成長できたと思ったのにまた振り出しに戻ってしまったなど。
『これ以上ヒーローに死んで欲しくないよぉ……!』
愛里とのやり取りも思い出す。
その直後に快はせっかく掴み合った手を自ら離してしまった。
これが拒絶だと言うのか。
「俺は歩み寄りに応えてる、今だって新生さんが俺の罪を考えて歩み寄ってくれたから……」
必死に言い訳を連ねる。
「自分に都合の良い歩み寄りだけに応えるのか……」
しかし呆れたような、悲しむような声で瀬川参謀は言う。
「〜〜っ」
「初めは恋人や抗矢も求めた愛をくれた、しかし段々と都合が悪くなれば切り捨ててしまう、今の君はそれだ」
反論の言葉が思い付かない、彼の言葉が正しいと認めてしまっているのだろうか。
動悸が激しくなりパニック発作がまた起こる。
「その不安定さが悲劇を招いた、根本を変えぬ限りまた繰り返す。何故こんな者を神は救世主に選んだのだ……?」
自分が選ばれた理由があると信じて頑張って来た、しかし今有識者によりそれが否定されつつある。
アイデンティティが崩壊しそうになり思わず膝から崩れ落ちてしまった。
「あぁ……っ」
するとレギオンの一人が間に立ち瀬川参謀に向かって威圧的に話しかける。
「彼が選ばれた理由はあるはずです、ならば実行しない手はありません」
そう言ってくれるレギオンに快は少し救われる。
しかし瀬川参謀はそれも良しとしなかった。
「都合の良い言葉を使えば立ち上がるか、やはり君は……」
「くっ……」
するとレギオン達は快の手を取り共に歩き出した。
「もう行きましょう、時間は限られています」
そして瀬川参謀を無視して快たちは進んで行った。
「……はぁ」
瀬川参謀もそれ以上は追いかける事なくジッと自分を拒絶する背中を見つめていた。
「(何故ここまで彼が心配なのか……!)」
都合が悪くなると目を背ける快の姿を思い浮かべてある考えを思い浮かべる。
「やはり私は人を導く事が出来ない……」
ポケットからある一枚の写真と取り出す。
そこにはまだ若い彼と別れた妻、そして快の親友である息子の幼い姿が写っていた。
「これは私への罰なのですか、神よ……」
過去の光景がフラッシュバックする。
息子や妻へ信仰を押し付けてしまった日々、その結果妻だけ出て行き息子は残された。
彼とは溝が出来てしまったが決して歩み寄る事はなかった。
・
・
・
現在、快はレギオン達と共にConnect ONE本部を襲撃しようとしている。
無線でレギオン達に話しかけてみた。
「あの、本当にこれで救われますか?」
少し間が空いた後、無線機に返事が届く。
『我々への救いは新生先生が導いて下さる、それに従う事で救いを得られるはずです』
そして快に対しても激励する。
『そして更にそれを導くのは貴方です。神の御子に選ばれし者、どうか頼みます』
その言葉を聞いた快は強く考える。
「(そうだ、俺はゼノメサイアに選ばれた。何が何でも果たすべき使命があるんだ……っ!!)」
果たすべき使命、そのために何を犠牲にするのだろうか。
見えて来たConnect ONE本部を視界に据えて快は覚悟を決めた。
つづく
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