第25界 アガナイ

#1

快と新生長官を乗せたヘリが空を移動する。

その窓から見える景色に快は改めてショックを受けていた。

崩壊は思ったより広く伝わっており本部周辺と同様にひび割れた地面から紫色の光が覗いている。


「来たんだな、創 快くん」


そう言って前方の席からある人物が顔を覗かせた。

それは親友の父であり組織の参謀である男だった。


「瀬川のお父さん……?何でこのヘリに……」


「私も神の御心に従う者として手助けしに来たのだよ」


瀬川と父親との関係はあまり良くないという話は聞いている、快を良く思っていないのも何となく察していた。

なので少し気まずい。


「私に気を遣う必要はない、神の御心により選ばれた君をサポートする義務がある」


「はぁ……」


そのように気まずさは晴れぬままヘリはある場所へと向かって行った。

一方Connect ONE本部に残された者たちは今後の組織の在り方について話し合っていた。

田崎参謀と時止主任、TWELVEの隊員たちと一部の職員たち。

会議室に集められた彼らは暗い顔をしている。


「みんなよく集まってくれた、まず今後の方針だが参謀は田崎さんと俺しか残ってない」


そのような発言をする時止主任。

瀬川はそれを聞いて驚いた。


「え、親父……瀬川参謀は……?」


自らの父親の居場所が気になったのだ。

先程までグレイスフィアのデータを取っていたと聞いたが。


「……彼も快くんや継一と一緒に行っちゃったよ」


申し訳なさそうに言う時止主任。


「そんな、親父……」


父親の行動理由が分からず怒りとも悲しみとも呆れとも思われる感情が湧き起こって来た。

思わず歯軋りをしてしまった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

第25界 アガナイ






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しばらくして快たちを乗せたヘリは崩壊の影響か寂れた山々が連なる土地にやって来た。

その下の森林の地面が開き中からヘリポートが現れる。

そこから地下へと入って行ったヘリは遂に目的地へ到着した。


「ここですか……?」


ヘリを降りると真っ暗な空間だけが広がっている。

少し恐れを抱いた快が震えていると隣にいる新生長官が歩き出した。


「ふふ、着いて来なさい」


すると新生長官の歩いた後から道が作られるように蝋燭が灯り辺りが照らされた。

神秘的な光景に快は思わず息を呑み彼に着いて行く。

そして先にある扉が開かれ施設の内部が明らかとなった。


「っ……!!」


そこはまるで廃教会のようであった。

汚れたステンドグラスに埃被った長椅子、そして隅では蜘蛛の巣が張っておりしっかり掃除をしていないのが窺える。


「「お待ちしておりました、新生先生」」


するとまるで新生長官を崇めるような姿勢で待ち構えていた同じ黒服に顔を隠した人々が現れる。


「あぁ来たよ、我が戦士"レギオン"たち」


その顔の見えぬ黒づくめの存在に少し怯える快。

彼らは一列に並びまるでTWELVE以上に新生長官を崇拝しているように道を開けた。


「あの、この人たちは……?」


彼らに出来る限り聞こえないように新生長官にそっと質問する。


「この時のために集めた我が精鋭さ、準備が良いだろう?」


"この時"とは快が覚醒し世界が崩壊しかけた時を指しているのだろうか。

だとしたらあまりにも準備が良すぎる、まるで初めからこうなる事を予期していたかのようだ。


「っ……」


しかし恐れを抱いてしまったためこれ以上何も言えず快は黙って新生長官に着いて行ったのだ。

そして新生長官に着いて行く快と瀬川参謀。

その後ろからは無言で先程のレギオン達が着いて来ていた。

周囲の光景も半壊した研究施設のようで恐怖を更に煽る。

しかし快はこれも自分の罪による責任だと言い聞かせ償うためにグッと堪えた。


「さぁ、ここだよ」


新生長官は立ち止まり一つの扉の前に快たちを立たせた。

一際大きな扉は周囲と同様に傷付いて汚れている。

パチンと指を鳴らす新生長官、するとその扉が大きな音を立てて開いた。


「〜〜っ」


その内部を見た快は驚愕する。

そこは広い格納庫のようで先程のレギオン達の並びのように大量の人型のロボットのような存在が並んでいた。

しかしどれも異様でまるで罪獣のような質感をしているのである。


「あれは……?」


そしてそのロボット達が崇めるように中心に聳え立つ存在。

それはまるで高い塔を一人の巨大な女性が抱きしめているかのような姿をしていた。


「……我が母だよ」


「え……?」


ボソッと呟いた新生長官。

快にはギリギリ聞こえなかった。


「さぁ、我が大いなる計画の解説をしようか」


そして新生長官はそこにあった身の丈ほどのコンピュータを起動しホログラムの図面と共に解説を始めたのだ。


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君は"これら"が何か分かるかい?


「……この塔みたいなのですか?」


あぁ、これは"罪"そのものなんだ。

以前見せた生命の樹の種や君も誘われた愛の海と同様、この世界に生まれた存在を司る塔。

我らはこれを"バベル"と呼んでいる。


「……っ?」


意味が分からないと言いたげな顔だね、それで構わないさ。

ただ君は行動してくれれば良い。


「もしかしてこれを使って何かするんですか……?」


ゼノメサイアとバベルの力を合わせる必要があるからね。

当然このバベルを元に造られた"レギオン"も作戦の要となる。

そこでまずはゼノメサイアという存在が何なのかを説明する必要があるね、君も知りたいだろう?


「は、はい……!何のために俺がこの力を得たのか、ずっと知りたかった……!」


ならば答えよう。

結論から言うとゼノメサイアとは人類の罪を贖い消し去る存在なんだ。

そのために神が遣わした御子なんだよ。


「神が罪を贖うために……?じゃあ俺たちが今やろうとしてる事と……」


そう、罪を贖おうとしている我々はその力を正しく使おうとしている。

君がゼノメサイアである限りそれは責務なんだ、力を得た責任というものだよ。


「うん、やっぱり俺やりたいです……っ!」


その粋だよ、でも今の君は力を失っている。

まずは取り戻さなければ。


「あっ、そうだった……」


だからまずは彼らを頼って欲しい。

レギオン達が必ず君の力を取り戻してくれるだろう。


「はい……っ」


作戦はこうだよ。

レギオン達が二手に分かれConnect ONE本部を攻めてグレイスフィアと生命の樹の種を手に入れる。

種を手に入れたレギオン達はソレと一体化し罪で侵食する、ゼノメサイアとなった快くんに罪に侵された種を届け贖罪させるんだ。

こうする事で世界はあるべき姿へと変わる……!


「ちょ、ちょっと待って下さい……!今Connect ONE本部を攻めるって……?そこには瀬川たちが……」


そう、覚悟を決めてもらわなければならない。

君は親友たちと戦う事になるだろう。


「そんな……」


でも世界のため、何より罪を贖うためだ。

君だってこのままじゃいけないと思っているだろう?

我々も同じだ、君にヒーローになってもらいたい。


「ヒーロー……」


そうだよ、君の存在意義を否定した者たちに示してやるんだ。

君というヒーローの存在をね。


「……そうですね、俺はやらなきゃいけない。ヒーローとしての責務なんだから……」


その通りだよ、一緒に頑張ろう。

準備が整うまでこの施設で待機していてくれ。

新生長官から言われた事。

このままだと親友である瀬川たちと対立する事になる。

それでも快はヒーローになりたい、自らの罪を贖い存在を示したいと思うのだった。






つづく

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