第17界 オヤコアイ
#1
祖母が倒れ救急車で運ばれたとの連絡があり慌てて昌高の車に乗り病院へと向かう一同。
近くの総合病院に辿り着くと看護婦に案内され医師の待つ部屋へ。
「ご家族の方ですね」
深刻な表情をした医師が座るように合図した。
恐る恐る椅子に座ると一呼吸置いた医師から祖母の状態を説明される。
「もう長くはないでしょう、一刻を争う状態です」
医師の言葉を聞いた一同は言葉を失う。
しかし何となく分かっていたような気はした。
祖母は日に日に調子を悪くしていたから。
「そうですか……」
冷静に反応する美宇。
次の医師の言葉を待っていた。
「お会いになられますか?」
どうやら祖母はもう病室に移されているらしい。
もちろん彼らは頷きそこへ向かった。
・
・
・
入口に祖母の名前が病室には一人しかいなかった。
扉を開けてすぐ目に入るのは点滴を打たれ眠りにつく祖母の姿。
酷く痩せこけており確かにもう長くないのが分かる。
「婆ちゃん……」
静かに呟く美宇。
横目で姉を見ていた快には彼女が今どのような気持ちなのかが分からなかった。
悲しんでいるようにも安堵しているようにも見えたからである。
「…………」
あまりの沈黙に点滴の薬が落ちる音だけが一定のリズムで響く。
それは弱々しく祖母の残りの命を表しているようだった。
「っ……」
美宇が優しく祖母の頭を撫でた。
すると少し動いた気がする。
「うぅ……っ」
なんと祖母が小さく目を開いたのだ。
奇跡のような出来事に一同は目を見開く。
「婆ちゃんっ⁈」
細い目で一同を見渡す祖母。
呼吸器をつけられた口をパクパクと動かして何かを必死に伝えようとしている。
「何っ?」
口元に耳を近づける美宇。
最後になるかも知れない言葉を聞き逃すまいとしていた。
「はっ、はっ……」
祖母は殆ど息だけのような声で美宇にこう伝えた。
「けっこん、するのかい……?」
その言葉に美宇は静かに答えた。
「うん、私はそのつもり」
きちんと意思を伝えた。
祖母は少し複雑そうな顔をして言葉を残す。
「おとなになるんだよ……?」
まるで自らの死期を悟っているかのような言葉だった。
それでもまだ心配は残っているのだろう。
「もちろん……」
心配が残っていたのはお互い様だった。
ハッキリと答えられない美宇。
それを察してか快が前に出て祖母に伝える。
「みう姉なら大丈夫だよ、俺をここまで成長させてくれた」
これまでの姉に感謝を伝えるようであった。
「色んな人に出会って成長して来た、でもそのきっかけはいつもみう姉だったから。歩み寄る大切さに気付かせてくれたのもそう、そしてこれからの課題も示してくれた」
祖母の目を見てしっかりと伝える。
「そして父さん母さんに代わって俺をここまで育ててくれたのもみう姉だ、それに応えてまた成長しなきゃ」
快の言葉を聞いた祖母はそれ以上は何も語る事はなかった。
ただ安心したような表情を浮かべながら最期に快と美宇の二人を視界に納め、その瞳を閉じ生涯を終えたのだった。
・
・
・
その後、祖母の葬儀が取り行われた。
喪主に美宇の姿がある。
そして昌高や快、愛里までもが参列していた。
「……っ」
葬儀の最中、快はやはり泣けなかった。
その事を悔やんでいると心中を察したのか隣の愛里が快の手を握ってくれた。
初めて感じる恋人としての温もりに寄り添いながら快は葬儀の時を過ごしたのだ。
「快、婆ちゃんに言ってくれた事ありがとね」
葬儀が終わった後、火葬場に祖母の遺体を乗せた棺が入れられる。
その光景を見ながら美宇は快に小さく伝えた。
「いや良いよ、それで結婚はするの?」
「うん、来月にでも式あげようってマサと話した」
「そっか」
そのような快と美宇という姉弟を遠くから見ていた愛里。
彼女はある決心をしていた。
「私も歩み寄らなきゃな……」
距離の空いていた家族に歩み寄る事を覚悟したのだった。
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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第17界 オヤコアイ
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その日の夜、快は瀬川と再度通話をしていた。
以前より爽やかになった快の声を聞いて驚きながらも安心している瀬川だった。
『良かったよ思ったより元気そうで』
「みう姉との話が解決したからね」
快は少し余裕が生まれたのか瀬川の方にも話を振る事が出来た。
「そっちはどうなの?まだテレビで色々言われてるけど……」
瀬川を気遣う事をしながら今後の作戦などについて聞き出すつもりでもある。
まだザガンは野放しなのだから。
『あー作戦の準備は順調に進んでるよ、このまま来月まで何もなければ始められそうだ』
世間で今言われている事を話題に出す。
『汚名返上させて欲しいもんだな……』
そこで快は聞き出す。
正体は隠しているが同じ場所で戦う者なのだから。
「作戦はいつになりそうなんだ?」
瀬川はまだ確定ではないものの作戦日時を伝えた。
快がゼノメサイアだと知っているからである。
『このまま行くと"十一月二日"になりそうだ』
その日程を聞いた快は恐ろしい表情を浮かべた。
そしてその理由も伝える。
「その日、みう姉の結婚式だ……」
何と姉の結婚式の日と作戦の日が被ってしまったのだ。
『マジかよ……』
瀬川も一瞬絶望するような反応を見せるがすぐに訂正する。
『あ、何言ってんだ俺。快は普通に結婚式いってくりゃ良いんだよ』
快の正体を知っている事は秘密なので共に戦う仲間ではないかのような反応に訂正した。
『絶対守り抜くからさ、楽しんで来いよ』
そのまま通話は終了した。
快は唖然としたままその場に立ち尽くしていた。
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翌日、土曜日だったため快は美宇の家事を手伝いながら浮かない顔をしていた。
理由は当然、結婚式と作戦の日が被ったからである。
『ただいまConnect ONEから発表がありました。潜伏中の罪獣撃滅作戦の日程が十一月二日に決定したとの事です』
点けていたテレビのニュース番組から流れる情報。
美宇はそれを見て言った。
「結婚式の最中じゃん、披露宴が始まる時間帯だから式までは出来ると思うけど……」
少し心配するような発言だったため快は安心させるための言葉を発する。
「大丈夫だよ、瀬川が守ってくれる」
口では瀬川たちと言ったが心ではこう思っていた。
「(俺だって……!)」
自分でも何としても姉の晴れ舞台を守る事を考えていた。
まだ披露宴の最後まで残るか作戦に出るかで揺れているのだ。
「快……?」
不安そうな顔で皿を洗う手を止めてしまった快を心配する美宇。
「あぁ、大丈夫だよ……」
そんな状態でニュース番組を眺めていたらまたいつものようにConnect ONEやゼノメサイアを否定するような街頭インタビューが流れる。
その殆どは群馬県南部の住民たちが一時的に暮らす避難所からのものだった。
明らかに不満を隠し切れていない。
『ようやくですか?この頃ずっと怖かった……』
『ゼノメサイアはどうするんですかね、また彼ありきなんでしょうか?』
『いい加減組織の体制を改めた方が良いと思いますがねー』
そのような意見ばかりピックアップして放映される。
共に見ている美宇はどう思っているのだろうか。
「瀬川くん頑張ってるのにねー」
親友である瀬川の話を出す美宇。
彼に対しては好意的な印象を持っているように思える。
「瀬川な、確かに急に選ばれて文句言われるのは辛いだろうな……」
すると美宇は快に対して意外だと言うような反応を見せた。
「あれ、前までなら羨ましがってたろうに。瀬川がヒーローに選ばれたーって言ってさ」
以前までの快ならこう言うだろうと冗談めかしく揶揄って来る。
「もう流石に身の程を知ったよ、自分に出来る事から始めてかないと」
少し残念そうに笑う快だが、美宇は静かにこう返した。
「よかった、快もやっぱり成長してるんだね」
快が成長し身の程を知ったと喜んだのだと思った。
皿洗いに戻った快だったがそんな彼を寂しそうな目で見ている美宇だった。
「快……」
一体どのような意図があるのだろうか。
つづく
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