#4
愛里が見守る中、快は昌高の家にいる美宇へ電話を掛けていた。
「みう姉、聞いてくれる……?」
少し緊張しながら快は今日の出来事を電話口に向かって語って行く。
「今日さ、みう姉がいない分いろいろ家事とかやったんだ」
「…………」
「凄く大変だった。山積みの食器や洗濯物を見るだけでやる気削がれるし、そのせいで学校も行けなかった」
正直に話して行く快。
美宇は黙って聞いている。
「一日家事に専念しても上手く行かなくてさ、仕事や婆ちゃんの事も抱えながらやってるみう姉が凄いって分かったんだ」
そして今までの非礼を詫びる。
「ごめん。俺何も分かってなかった」
その声の後もしばらく美宇は黙っていた。
沈黙が続くが快は言うべき事は言ったためここは黙る事を選ぶ。
『もう、別にいいよ……』
ようやく美宇が口を開く。
そして祖母の話を持ちかけて来た。
『婆ちゃんに会ったの?』
「うん……」
『じゃあ多分言ってたでしょ、私の文句とか』
「まぁ文句っていうか……」
祖母から色々聞いたであろう快に自分の見解を話して行く美宇。
『婆ちゃんは結婚の事をお互いが歩み寄って支え合う事だって言ってた』
そして以前の事を踏まえて話す。
『前言ったみたいに差し伸べられた手を掴むだけじゃダメ、お互いが辛い時にお互いに手を差し伸べられなきゃダメなの。今の私みたいに一方的じゃダメ』
婚約者の事を褒め出した。
『私マサに支えられてばっかで向こうを支えられてない、そんな私を婆ちゃんは幼いって言ったんだ』
快はそう言われ自分自身の事を振り返る。
「お互いに支え合わないとか……」
思えば快は差し伸べられた手を拒絶して来た。
しかしようやく歩み寄りその手を掴む事が出来た。
それでもそれはまだ小さな一歩に過ぎない、ここから自分でも手を差し伸べなければならないのだ。
「俺もそうだ、自分からは何も出来てない……」
愛里や瀬川に何かしてもらいっぱなしだと言う事を姉に伝える。
「ちょっと成長しても喜ぶ事よりまだ足りないって事の方が多いな……」
この気持ちには思わず美宇も共感してしまった。
『私もそうだな、なかなか大人になれない』
結婚に関する自分の今までの価値観を快に伝えた。
『マサと結婚しようとしたのも私が大変だから、一緒に快の親になってくれると思ったの』
「俺の親……?」
『そう、父さん母さんが死んで代わりにならなきゃって思った。でもこんな子供一人じゃ無理、だから一緒に支えてもらおうと思ったけど……』
そのまま電話口からすすり泣く声が聞こえた。
『それが自分勝手で幼いって。いきなり大人の仕事任されて成長途中なのに文句言われてさ、どうすれば良かったの……?』
そう言われて快は気付く。
姉は自分と同じなのだと。
「そっか、みう姉も褒められたいんだ……」
『うん、私も頑張ってるって認めてもらいたかった。子供のまま一人で快のこと頑張って育てたのに、それが間違ってなかったって誰かに言って欲しいよ……』
「みう姉……」
快は一つの結論にたどり着く。
その内容を姉に明かしある提案をした。
「じゃあ俺が上手くやれればみう姉が間違ってなかった証明になるかな……?」
姉のすすり泣く声が一瞬止んだ気がした。
「俺もちょっとずつだけど色んな経験して成長してるからさ、いつになるか分からないけど大人になるから」
『うん……』
「信じて欲しい、俺は大丈夫だ」
“俺は大丈夫だ”という言葉を自ら発しある事に気付く。
最近は聞こえないが以前までよく耳にしていた幻聴と似たような事を口にしていた事に。
幻聴側の意図を少し理解できたような気がする。
「っ……」
しばらく黙ってしまう。
何か更に一歩進めたような気がしたから。
『快……?』
「……ありがとう、色々分かったよ」
そして姉にある事を告げる。
「帰って来なよ、待ってる」
そう優しく言って電話を切る。
そのまま愛里と顔を見合わせた。
「大丈夫だった……?」
心配そうにこちらの様子を伺って来る愛里に快は言う。
「今言ったでしょ?俺は大丈夫だって!」
そのまま二人で美宇が帰ってくるのを待った。
___________________________________________
そして日が落ち夜がやって来た頃、一台の車が快の家の前に停まる。
「……っ」
まだ少し緊張する美宇は婚約者の昌高が運転する隣の助手席からなかなか立てなかった。
昌高は一度車から降り助手席側の扉に回った後、美宇に向かって手を差し伸べた。
「ホラ、おいで」
優しく自分を決して否定しない様子でそうする昌高の手を安堵の表情で握り車から降りる美宇は家の玄関の扉を開けた。
するとそこには既に快が立っており隣には同年代の女子がいた。
「みう姉、待ってたよ」
そういう快の隣で頭を下げる女子。
「その子は……?」
するとその女子は自己紹介をする。
「快くんとお付き合いさせて頂いてます、与方愛里ですっ!」
なんと快の恋人だというのだ。
まさか快に彼女が出来るなんて。
「そう、よろしくね」
まだ緊張は解けないが挨拶は忘れない。
そのまま居間に入ると香ばしい匂いがした。
「この香り、カレー?」
「そう、二人で作ったんだ」
今まで快が調理をする所は見たことがない。
コーヒーくらいだろう。
「彼女に殆どやらせたんじゃないの?」
嬉しさから少し元気を取り戻し揶揄うように言ってみる。
「いやいや、俺も頑張ったよ……っ!」
案の定焦りを見せる快。
すると彼女の愛里が弁明をする。
「むしろ逆ですよ、快くんが殆ど頑張ってくれてね?」
お互いに笑顔を見せ合う二人を見て微笑ましくなる美宇。
そのままテーブルの前で待ちカレーライスを共に食べた。
「ん、美味しいじゃんこれ……!本当に快が殆どやったの?」
「本当ですよ、自分でレシピ調べてお姉さんがどんな隠し味入れてたかとか思い出して」
「ちょ、恥ずかしいからっ……」
彼女の発言に顔を赤くする快。
照れる弟を見て安心してきた美宇は自然と微笑んでいた。
「快、ありがとね」
無意識に発言していた美宇。
それを聞いた一同は一瞬キョトンとした後、先ほどの美宇と同じように微笑んだ。
「全然だよ」
謙遜する快に美宇は伝える。
「確かにまだお互い子供だけどさ、成長はしてるからいつかは大人になれるって安心できた」
そんな美宇に昌高が言った。
「子供が大人になるのを喜べる、親の鑑じゃん」
そして美宇の頭を優しく撫でる。
婚約者のその行動に驚いた美宇はポロポロと涙を零してしまった。
「うんっ、私頑張ったよ……っ」
そのまましばらく涙を流す美宇。
一同は微笑みながら見守っていた。
すると。
プルルル……
このタイミングで電話が。
相手は祖母の老人ホームだった。
「こんな時間に?婆ちゃんどうしたんだろう……」
快は受話器をとって応答する。
「もしもし?」
すると電話口から衝撃の言葉が。
思わず固まってしまう。
「快、どうしたの……?」
恐る恐る美宇は快に問う。
すると振り返った快は答えた。
「婆ちゃん倒れて、救急車で運ばれたって……」
その言葉に一同は食事を中断して絶句してしまった。
つづく
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