#4

Connect ONE本部の訓練室ではTWELVEがコックピットに乗り込み仮想空間でゲームのように機体を動かしてダミー罪獣と戦っている。

仮想空間は本物の街かのように精巧だ、それに合わせた操縦の手応えもまるで現実のもの。

そのためかなり難しいのだ。


「アンチグラビティ起動ぉ!!」


「多連装ミサイル発射!」


竜司の乗る仮想ライド・スネークや隊長の仮想タンク・タイタンがしっかり攻撃をヒットさせていく。


「ひゅー!蘭子ちゃん見てるー⁈」


すぐ調子に乗る竜司が仮想キャリー・マザーに乗る蘭子にアピールする。


「うっさい集中しろバカ!」


相変わらずウザそうにしている蘭子。

他のメンバーが余裕そうな中、陽の乗る仮想ウィング・クロウは攻撃タイミングを測れていなかった。


「うわぁっ……」


チャンスだったと言うのにダミー罪獣の尻尾攻撃を恐れて逃げてしまう。

これにはオペレーターの蘭子も怒りを見せた。


「何やってんの、そこで攻撃だっつーの!!」


保温機能のついた水筒に入ったコーヒーを飲みながらモニターに怒りをぶちまける。


「あぁっ、ごめんなさい……」


以前の戦闘の時の気迫は何処へ行ったのだろうか。

そして訓練が終わった後、陽は恐る恐るコックピットから出た。

するとその近くには訓練を見学しにきた一般の職員たちが数名呆れるような目でこちらを見ていた。


「ちっ……」


舌打ちをされてしまい余計に恐ろしくなる。

すると同じくコックピットから出てきた竜司が肩に手を置いた。


「うわっ」


「おぉ、そんな驚かなくていいだろ」


そして励ましの言葉をかける。


「実戦の時の雰囲気になるの待ってるからよ、アイツらギャフンと言わせてやろうぜ」


後ろでは名倉隊長も頷いている。


「うむ」


彼ら二人とも雰囲気の変わった実戦時の荒々しい陽を求めているのだろう。

それがすぐに分かった。


「おーい蘭子ちゃ〜ん!」


そんな様子を側から見ている蘭子に向かって手を振る竜司。


「……ふん」


彼女はコーヒーをがぶ飲みしながら苛立っていた。


「あんたのせいであたしまでバカにされるんだけど……」


しかし今は竜司たちが励ましているため怒りに行くのはやめた。


______________________________________________


今回の訓練の結果を踏まえて参謀たちが会議を開いていた。


「最難関レベルのダミー罪獣は楽に仕留められるが……一人問題児がいるようだな」


隊員の名簿を見ながら陽のページで手を止める。


「この世の全てを恐れているような奴だ。新生長官、何故このような臆病者を起用したのです?」


真ん中に座る新生長官は微笑みながら答えた。


「陽の実力は分かっているでしょう?実戦になれば活躍は見込める」


「それは奴が"臆病故"の結果です、不安定な事に変わりありません」


臆病故とは一体どういう事だろうか、彼らは陽について詳しく知っているらしい。


「現に他の職員たちの不満は留まる所を知らない、主に陽・ドゥブジーが原因です」


一般の職員らの名を出して新生長官を問い詰める。


「彼らも歯痒いでしょうなぁ、あのような者らに仕事を奪われて」


それぞれTWELVE隊員の特徴を挙げていく。


「隊長は元自衛官だが失敗続きで実質クビ、後は紛争での役立たずにF1レーサー、最後はプロゲーマーと来た。何故そのような者らをわざわざスカウトしたのか理解できませんな」


それがTWELVE隊員の実情らしい。

そのような言葉を投げられても新生長官は笑顔を崩さない。

常に温かい雰囲気を見せていた。


「確かに元自衛官などから集めた職員らには申し訳ない事をしたね、しかし罪獣に対抗するにはTWELVEの力が必要だと言う事も理解して頂きたいな」


そして陽の事も思い浮かべながら新生は更に言う。


「陽は特にね……」


笑みを見せながらも意味深な様子だった。


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本部のトイレの鏡の前で陽は俯いていた。


「……っ」


目を覚そうと顔を洗い滴る水をただ眺めている。

自分の存在意義を考えてしまい悩む。

特にそうなってしまう原因が一つあった。


『だから気にすんなっつってんだろ』


鏡の方から声が聞こえる。

そちらを見上げると鏡に写った自分が話しかけて来ていた。


『全部俺に任せりゃ良いんだ、お前は何もするな』


その鏡に写る陽はサングラスを掛けており普段の彼とは違い荒々しい口調だった。

まさに前回出撃した際の陽そのものだった。


「ダメだよアモン。それじゃ僕が生き残った意味が無くなっちゃう、せっかく君に生かされたんだから……」


鏡の中の自分をアモンと呼び震えた声で言う。


『俺はお前を生かした、だから余計な事して死んで欲しくねぇんだろうが。俺が戦って守ってやるからよ、戦う時はその体よこせ』


そう言われた事で少し過去がフラッシュバックする。

その記憶の中では荒れ果てた土地で陽がとある人物を腕に抱きながら泣いている。


『なぁ、頼むよ』


アモンが更に詰め寄るとそこでトイレに向かって来る足音が聞こえた。

恐らく一般の職員たちだろう。

少しずつ話している内容が聞こえてきた。


「何で俺たちを差し置いてあんなヤツらが……」


「サポートする気にもなれねーっての」


その内容はすぐに陽を始めとするTWELVE隊員に言っている事が分かった。


「特にアイツだ、いくら紛争の生き残りだからってPTSDになってるヤツが使える訳ねーだろ」


核心を突く発言をしながら陽のいるトイレの扉を開けた。


「あ……」


そして鏡越しに陽と目が合う。

気まずそうに目を逸らすが少し考えてから陽に話しかけた。


「悪く思わないでくれよ、絶対俺らの方が上手くやれるんだ。何もない所からのスカウトってコネで入ったお前らとは違う」


静かだが圧のかかった声で言われる。

職員らや先ほどの参謀たちの言う通りTWELVE隊員らはバラバラの所から集う寄せ集めの実働部隊なのだ。


「分かってますよ……」


恐れてしまい上手く話せない。

震えた声で返事をした。


「本当に何でお前なんだよ……」


小さな声で言う職員。


「俺の方が航空自衛隊でパイロットとして貢献してきた、屈辱だ……っ」


そんな事を言われてしまえば謝る事しか出来ない。


「ごめんなさい……」


その態度にまた怒りが込み上げて来る職員。


「その弱々しい態度がムカつくんだよっ、選ばれたならもっとシャキッとしろよっ!」


「ひっ……!」


「実戦の時の雰囲気はどうした?あの感じでずっと居てくれたらいいのによぉ!」


そう言って職員はトイレから出て行く。

一人取り残された陽はまたアモンと会話を始めた。


『だから言ったろ、求められてるのは俺なんだ。全部俺に委ねれば良い』


そう言われて落ち込みながら陽もトイレを出る。


「(僕自身は必要とされてない……)」


本部の廊下を歩いていると兵器の開発や分析などに使われる科学室があった。

ガラス窓から覗いてみるとそこにあるモニターからはゼノメサイアの映像が流されている。

中心で時止博士が解説をしていた。


「この神の如き力を分析し搭載した我が兵器は……」


"神の如き力"。

そう言われている事に少し感じるものがあった。


「(いいなゼノメサイアは、自分で戦う力があって……)」


快と同様、陽もゼノメサイアを羨むのだった。

お互いに知らぬ間に羨んでいるというこの構図はどのように影響するのだろう。






つづく

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