#3

そして休憩時間が終わり練習が再開された。

快は憂鬱な気持ちで走り幅跳びの場所に戻り再度跳ぶ。


「あぁっ……」


今度は踏切ミスで思い切り砂場に顔面から突っ込んでしまう。

口の中にまで砂が入り気持ち悪かった。

そこへある人物がやって来る。


「おいおい大丈夫かよ〜?」


ヘラヘラと笑いながらやって来たのはこのクラスの学級委員長。

坊主頭の野球部で良いガタイをしながらも明るく気さくな人物でクラスの殆どから慕われている。


「頑張ってくれよ?俺らのクラスそんな強くないからさ、細かい点数が大事なんだよ」


そう言って砂だらけの快に手を差し伸べるが快は一人で立ち上がる。


「ごめん、俺が上手くやれれば勝てたかもってなるよね……」


「まぁ無理しなくて良いけどさ、出来る範囲で頑張ってくれよ」


そんな言葉だけを残し他の競技の様子も確認しにいく委員長。


「おー、上手くやってるじゃん!」


他の生徒たちにはそのような言葉を掛けていた。

そんな中で快は"できる範囲で頑張れ"と言われた事を気にしてしまう。


「(だからその出来る範囲が狭いから苦しいんだろ……)」


まさに今悩んでいる事を言われてどうしようもない気持ちが沸々と煮立つ。

他の幅跳びの生徒は上手くやっていると言うのにダメダメだ。


「おぉっ!」


ヤケクソになりまた力一杯跳ぶと今度は大きく失敗する。


「あっ……!」


着地をミスして思い切り足首を捻ってしまった。


「(あぁ、こんなんじゃ余計に……)」


上手く行かなすぎる現状を嘆いているとそこに愛里がやって来て先ほどの委員長のように手を差し伸べてくれた。


「快くん大丈夫⁈保健室いこ!」


心配そうな顔で接してくれる愛里が心の拠り所だった。

委員長のとは違い愛里の手は取り立ち上がる。

そして彼女に着いて行き保健室に入った。


______________________________________________


保健室の先生は外出中であったため愛里が軽く手当をしてくれる事となった。


「純希くんが人助けしてるの見てちょっと勉強したんだ」


「そうなんだ……」


嫌な相手の話題を出しながら快を椅子に座らせ救急箱から取り出した道具で快の足首を手当していく。

この様子に少し見覚えがあった。


「前に英美さんと会った時、こうやって捻挫した足首の手当してもらったよ……」


英美という名前が出てきて愛里は反応する。


「本当に?じゃあ私今少しだけ英美ちゃんみたいかな?」


嬉しそうに聞いてくる愛里だったが正直快は少し違和感を覚えていた。


「うん……」


しかし上手く伝える事は出来ずに小さく頷くだけ。

それが愛里にはどのように受け止められたのだろうか。


「英美ちゃんは辛い事があってもいつも張り切って乗り越えていったんだ、そうやって私も乗り越えて行かないとね」


死んだ親友のように明るさでこの間の出来事を乗り越えていくつもりらしい。

しかしそこにこそ違和感があるのだと快は気付いた。


「……無理してない?」


「え……?」


ふいに口から出てしまった言葉を一瞬後悔する。

何とか誤魔化そうと頭を回転させた。


「いや、ちょっとしか会ってないけど英美さん凄かったからさ。あんな風になるために無理しなきゃ良いけどって思って……」


そう言うと愛里は少し考えるような素振りを見せてから言った。


「心配してくれてありがとう、でも今は自分が頑張らなきゃでしょ?大した怪我じゃないから今日はゆっくり休んで明日から復帰できるようにしなきゃ!」


逆に心配を掛けさせてしまった。

しかしそれは愛里も誤魔化したという事を快は気付いていない。


「そうだね……」


こうして快は明日に備えてゆっくり休む事にした。


______________________________________________


そして翌日、快の足はすっかり良くなり練習に復帰していた。

しかしやはり上手く行かない。

それでも近くで愛里が応援してくれていた。


「めげないでファイトー!」


しかし長い時間快の練習を見ていたため二人の関係が気になった委員長が聞いてくる。


「凄い急に創のこと応援するじゃん、昨日保健室で何かあったかー?」


少し揶揄うように言ってくる委員長に愛里は少し頬を赤らめながら反論する。


「何もないよっ、ただ頑張ってるから応援したいと思っただけ!」


そして更に委員長に言った。


「委員長も言ってたでしょ?個人の結果が凄い大事だってさ!」


昨日快にも言ったことを愛里にも言っていたらしい。


「確かに言ったなぁ。てか申し訳ないんだけどさ、もう勝ち確だわ」


「どういう事……?」


少し申し訳なさそうだが誇らしげに言う委員長に戸惑う愛里。


「実はさ、瀬川が今回参加してくれるって言うんだよ!これは勝っただろ!」


テンションが上がりはしゃぎながら言う委員長に愛里は返す。


「そっか、良かったじゃん」


まだ特に思う事はないので普通に返すがその後の委員長の返事で愛里は複雑な心境になるのだった。


「だから与方も創も無理すんなよな、無理に頑張らなくて良いよ」


あくまで委員長は優しさで言ったつもりだ。

しかし愛里はそうは受け取れなかった。


「いやいや、無理なんてしてないよ」


まだ少し意味が分かっていなかったので戸惑いながらもそう言うが委員長は話す。


「そうか?みんな言ってるぞ、勇山の真似してるって……」


英美を真似しているという言葉。

その一言が愛里には図星だったようだ。


「それ何かいけない……?」


不安そうな顔で聞き返すが委員長は少し憐れみを持つ顔で言う。


「だからさ、勇山の真似はやめた方が良いよ。アイツはアイツで無理してただろ」


「何で?英美ちゃんが無理してるなんて……」


「いやいや、相当違和感あったぞ?気付いてると思ったけどな……」


憐れむような目のまま本心を語った。


「申し訳ないけど結構アイツ空回りしてたぞ?お前もそうなりそうだから心配なんだ」


そして核心に触れる一言を。


「空回りして無理した結果またアイツみたいに……」


バビロンの日を思い出した。

愛里も委員長が何を言いたいのか察する。


「やめてよっ、英美ちゃんはそんな人じゃない……っ!!」


少し口調が強くなる愛里。

練習中にその言葉が耳に入った快はそちらを見る。


「(与方さんどうした……?)」


ゆっくりとそちらに近付いて行き話に耳を傾けた。


「英美ちゃんはもっと凄い人だよ、明るく悲しみを乗り越えて来たんだから私も頑張らなきゃ!」


「その勇山の悲しみって何だった?"空回りしてクラス中から嫌われた事"だろ?」


近付いていた快はその話を聞いて立ち止まる。

英美が嫌われていたとは思えなかったからだろうか。

いや、快も何かを察していたから立ち止まったのだ。


「悪いけどアイツみたいになるのはやめとけ、嫌いたくない」


「…………っ」


そして愛里は走り去ろうとする。

その先に快がいた。


「あっ、快くん聞いてた……?」


心配そうな目で愛里が問いかける。


「うん……」


「私別に無理なんてしてないんだよ?ただ頑張ってるだけで……」


快も快で思う事があったのでここで話したかった。


「何か違和感があったんだ、与方さんに足の手当してもらった時から」


「え……?」


「英美さんの真似、やっぱり無理してるように感じたよ」


「うそ……」


愛里もショックを受けているような顔をした。


「前に言ったよね、選ばれた人がヒーローになるって。俺もようやくその意味に気付いたんだよ、だから……」


初めてまともに彼女と話した家にプリントを届けに来てくれた時に言われた言葉をそのまま返した。


「無理したら壊れちゃうよ、俺みたいに……」


あくまで自分の知っている辛さを味わせないようにするための助言だった。

しかし愛里には届かない。


「……ごめんなさい、今ちょっとしんどい」


そう言って振り返り重苦しい背中を見せながら愛里は去って行った。


「……くそっ」


何故こうも上手く出来ないのだろうか。

悩んでいたが先生に諭されたため練習に戻る。


「はぁっ……」


やはり記録は最悪だった。

もはや愛里も委員長も見てくれていない。


「(俺、本当に必要無くなっちゃったな……)」


愛里を慰める事も出来なければ瀬川が参加するので必要ともされなくなった。

自分の存在意義を考えてしまい深く悩む快であった。


「(いいな、力があって必要とされる人達は……)」


そこで自分と同じ土俵にいるのに自分とは違い人々を安心させられるConnect ONEの事を思い出し羨む。

しかし当の力のある人達は快が思うような存在ではなかった。

一方ここはConnect ONE本部。

実働部隊であるTWELVEがゲームのようなシミュレーターを使い戦闘訓練をしていた。


「あぁっ、ダメだ……!」


その中で一際上手く立ち回れていないのがウィング・クロウのパイロットである陽・ドゥブジー隊員。

彼も快と同様に周囲の視線に怯えていた。






つづく

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